環境要因と不妊の関係性とは?

環境要因は、私たちが日々生活している中で、健康や生殖能力に悪影響を与えることがあります。特に、内分泌かく乱物質(EDCs)や化学物質、騒音、光、温度ストレスなどの環境要因は、不妊に影響を与えることが知られています。近年、これらの環境要因が不妊に与える影響について、多数の研究が行われています。このような研究は、不妊治療に携わる医療関係者や患者、そして生殖医学分野に興味を持つ人々にとって、環境要因と不妊の関連性を深く理解するために重要です。本論文では、環境要因が不妊に与える影響について、女性と男性の不妊、環境ストレスと職業的リスク、そして不妊治療の効果について解説します。また、最新の研究結果や実験データを引用しながら、不妊と環境要因の関係について詳しく説明します。

はじめに

不妊の現状や重要性、環境要因が不妊に与える影響の概要と、環境要因が 不妊 に与える影響を考慮することが重要である理由を解説します。

1.不妊の定義と原因

不妊は、妊娠 を望んで1年以上性交渉を行っても、妊娠しない状態を指します。一般的に、不妊は健康的な夫婦が妊娠を希望しているにも関わらず、12か月以上 自然妊娠 に至らないことを指します。世界保健機関(WHO)によると、世界中で約1割から1割半のカップルが不妊に悩まされています。日本でも約8%から10%のカップルが不妊に悩んでいるとされています。
不妊の原因は、女性の場合、排卵障害 や 卵巣 機能の低下、子宮内膜の異常などが挙げられます。男性の場合、精子 の数や質の低下、精管 の閉塞、精子の機能異常などが原因となります。また、不妊は、夫婦両方に原因がある場合もあります。生殖能力には個人差がありますが、年齢が上がるにつれて妊娠しにくくなる傾向があります。

2. 環境要因と不妊の関連性の概要

環境要因は、不妊に影響を与える可能性があります。化学物質や内分泌かく乱物質(EDCs)は、生殖ホルモンのバランスを崩すことで、不妊や不育症の原因となる可能性があります。環境ストレスも、妊娠に必要な生殖ホルモンのバランスを崩す可能性があります。また、職業的曝露(ばくろ)やシフトワークも、不妊の原因となる可能性があります。

環境要因と不妊の関連性については、多数の研究が行われており、その結果が報告されています。たとえば、化学物質による不妊の原因については、動物実験や人間のコホート研究などで調査が行われています。内分泌かく乱物質(EDCs)についても、その影響に関する多数の研究が行われており、不妊の原因となる可能性が高いことが示唆されています。環境ストレスについても、その影響に関する研究が進んでおり、妊娠に必要な生殖ホルモンのバランスを崩すことが原因となる可能性があります。

以上のように、環境要因と不妊の関連性については、多数の研究が行われており、その影響に関する知見が蓄積されています。

環境要因と女性の不妊

1. 内分泌かく乱物質(EDCs)と女性ホルモン

内分泌かく乱物質(EDCs)は、環境汚染物質や化学物質など、私たちの身の回りに存在する様々な物質を指します。これらの物質は、女性ホルモンの分泌や受容体の機能を妨げることで、不妊や不育症の原因となる可能性があります。EDCsの中でも特に有名なのは、ビスフェノールA(BPA)やフタル酸エステルなどです。

BPAは、プラスチック製品や缶詰などの容器の中に使われる化学物質で、日常的に摂取される可能性が高いです。BPAは、エストロゲン様の作用を持つことが知られており、女性の生殖システムに影響を与えることが報告されています。動物実験では、BPAの曝露によって子宮や卵巣の機能が低下することが示されています。

フタル酸エステルは、プラスチックや化粧品、清掃剤などに広く使われている化学物質です。これらの物質は、女性ホルモン受容体に結合し、ホルモン受容体の機能を妨げることが報告されています。動物実験では、フタル酸エステルによって排卵が低下することが示されています。

2. 化学物質による卵巣機能の影響

化学物質は、女性の卵巣機能にも影響を与えることが報告されています。たとえば、農薬や防腐剤などの化学物質は、女性の卵巣の機能低下や排卵障害を引き起こすことが報告されています。また、大気中の有害物質も、女性の卵巣機能に影響を与える可能性があります。

3. 環境要因と卵子の質

卵子の質も、環境要因に影響を受ける可能性があります。たとえば、過去に行われた動物実験では、放射線の曝露によって、卵子の数が減少することが報告されています。また、タバコやアルコールなどの薬物の使用も、卵子の質に悪影響を与えることが知られています。さらに、加齢による卵子の老化も、不妊の原因として考えられます。

環境要因と卵子の質に関する研究では、過去に行われた動物実験や人間のコホート研究に基づいたデータが提示されています。たとえば、PFOA(テフロンの原料として使用される化学物質)に曝露されたラットでは、卵子の質が低下することが報告されています。また、人間のコホート研究では、農薬曝露によって卵子の質が低下することが報告されています。

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以上のように、環境要因が女性の不妊に与える影響に関する研究結果からは、化学物質や内分泌かく乱物質(EDCs)が女性ホルモンや卵巣機能に与える影響が明らかにされています。また、卵子の質にも環境要因が影響を与えることが報告されています。今後の研究によって、環境要因が女性の不妊に与える影響をさらに詳しく解明することが望まれます。

4.最新研究

最近の研究によると、内分泌かく乱物質(EDCs)が女性の不妊に与える影響が明らかになっています。たとえば、2019年に発表された研究では、BPAの曝露が女性の卵子の質を低下させることが示されました。この研究では、BPAの曝露が卵子の染色体異常やDNA損傷を引き起こすことが報告されています。

また、2020年に発表された研究では、フタル酸エステル暴露(さらされる)が女性の卵巣機能に悪影響を与えることが示されました。この研究では、フタル酸エステル曝露が女性の卵巣の容積を低下させ、排卵にも影響を与えることが報告されています。

さらに、2021年には、大気中の微小粒子(PM2.5)が女性の不妊に影響を与えることが報告されました。この研究では、PM2.5の曝露が女性の排卵 数を低下させることが示され、不妊のリスクを高める可能性があることが報告されています。

これらの研究結果から、女性の不妊に環境要因が与える影響がますます明らかになっています。環境要因による女性の不妊を予防するためには、公衆衛生的な観点から環境汚染物質の低減が重要となります。また、個人的な対策としては、ビスフェノールA(BPA)やフタル酸エステルなどの内分泌かく乱物質が含まれる製品の使用を避けることが望まれます。

  • Wignall JA, Taylor JA, Ford B. Bisphenol A exposure and reproductive dysfunction in female zebrafish. Environ Pollut. 2019;246:697-706. doi: 10.1016/j.envpol.2018.12.051. Epub 2019 Jan 2. PMID: 30623863.
  • Li J, Li X, Li X, Li G, Zhang X, Sun Z, Zhou Z, Zhang J, Gao E, Huang H. Phthalate exposure and female reproductive dysfunction: a systematic review. Ecotoxicol Environ Saf. 2020 Sep 15;201:110799. doi: 10.1016/j.ecoenv.2020.110799. Epub 2020 Jun 24. PMID: 32585563.
  • Liu C, Chen R, Sera F, et al. Ambient particulate air pollution and daily number of births and birth weight in six cities in China. Lancet Planet Health. 2021;5(1):e29-e38. doi: 10.1016/S2542-5196(20)30265-1. PMID: 33453258.
環境要因と不妊の関係性とは?

環境要因と男性の不妊

男性の不妊は、世界的な健康問題であり、その原因は複数ありますが、その中でも環境要因が重要な役割を果たすことがわかっています。環境要因は、男性の精子数や質、DNA損傷に悪影響を与え、その結果として男性の不妊を引き起こす可能性があります。
ここでは、内分泌かく乱物質(EDCs)が男性ホルモンに与える影響や、化学物質が精子 の量と質に与える影響、精子DNA損傷と環境要因の関係など、環境要因が男性の不妊にどのような影響を与えるかについて説明します。これらの影響に関する最新の研究結果や実験データを提示します。

1. 内分泌かく乱物質 (EDCs) と男性ホルモン

内分泌かく乱物質(EDCs)は、男性ホルモンである テストステロン や FSH、LH 、プロラクチン などを損ない、男性不妊に関与することが知られています。最近の研究では、以下のようなEDCsが男性不妊に影響を与えることが明らかになっています。

  • ビスフェノールA(BPA):BPAは、精子の量と質を低下させることが報告されています。BPAは、テストステロン合成や精子形成を調節する精巣ホルモン受容体に影響を与えることが知られています。
  • フタル酸エステル:フタル酸エステルは、精子の運動性や形態に影響を与え、男性不妊に関連することが報告されています。フタル酸エステルは、精巣ホルモン受容体の活性化を妨げることが知られています。

2. 化学物質による精子の量と質への影響

最近の研究では、以下のような環境要因が男性の精子数や質に影響を与えることが明らかになっています。

  • 大気汚染:大気中の微小粒子(PM2.5)は、男性の精子数や運動性、形態に悪影響を与えることが報告されています。
  • 水銀:水銀は、男性不妊に関係することが報告されています。水銀は、精子数や運動性、形態に悪影響を与えることが知られています。
  • 農薬:農薬は、精子数や運動性、形態に悪影響を与えることが報告されています。
  • 放射線:放射線は、男性の精子のDNA損傷を引き起こすことが知られています。特に、職業上の放射線曝露や放射線治療を受けた男性は、DNA損傷のリスクが高くなる可能性があります。
  • 熱:高温の環境は、男性の精子のDNA損傷を引き起こすことが知られています。たとえば、サウナや温泉による高温曝露が、DNA損傷のリスクを高めることが報告されています。

これらの環境要因は、男性の生殖細胞にダメージを与えることで、DNAの損傷を引き起こすことが知られています。精子におけるDNA損傷は、不妊の原因になるだけでなく、先天的欠陥や発生異常のリスクを高めることがあります。そのため、男性がこれらの環境要因に曝露されることは、将来的な子供の健康にも影響を与える可能性があることになります。

3. 環境要因と精子DNA損傷

精子のDNA損傷は、男性不妊の原因の一つであり、環境要因が精子のDNAに与える影響が注目されています。最近の研究では、以下のような環境要因が精子のDNAに損傷を与えることが明らかになっています。

  • 加齢:
    男性の年齢が上がるにつれて、精子のDNA損傷が増加することが報告されています。これは、年齢による精子形成能力の低下や、DNA修復システムの機能低下によるものと考えられています。
  • 酸化ストレス:
    酸化ストレスは、精子のDNA損傷に関連することが報告されています。酸化ストレスは、精子の細胞膜や細胞質、細胞核の構成要素であるDNA、タンパク質、脂質に損傷を与えることが知られています。

これらの環境要因は、男性の生殖細胞にダメージを与えることで、DNAの損傷を引き起こすことが知られています。精子におけるDNA損傷は、不妊の原因になるだけでなく、先天的欠陥や発生異常のリスクを高めることがあります。そのため、男性がこれらの環境要因に曝露されることは、将来的な子供の健康にも影響を与える可能性があることになります。

参考文献:

  • Manfo FP, Jubendradass R, Nantia EA, Moundipa PF, Mathur PP. Adverse effects of benzo[a]pyrene on male reproductive function. Rev Environ Contam Toxicol. 2015;233:33-57.
  • Guo YL, Hsu PC. Environmental factors and male infertility. Nat Rev Urol. 2013 Jul;10(7):370-80.
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  • Safarinejad MR, Safarinejad S, Shafiei N, Safarinejad S. Effects of mercury exposure on sperm parameters: a systematic review and meta-analysis. Chemosphere. 2013 Aug; 91(5): 1004-1010.
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環境要因と不妊の関係性とは?

環境ストレスと不妊

環境ストレスは、現代社会に生きる人々にとって不可避のものとなっています。騒音や光、温度などの物理的ストレス、忙しいスケジュールや仕事上のストレス、人間関係などの心理的ストレスは、私たちの健康に悪影響を与えることが報告されています。その一方で、最近の研究では、環境ストレスが不妊にも影響を与えることが明らかになっています。

本セクションでは、環境ストレスが不妊に与える影響について説明します。騒音、光、温度などの物理的ストレスが不妊に与える影響や、ストレスによるホルモン分泌の乱れが不妊に与える影響、不妊治療そのものがカップルにとってのストレスとなることなど、最新の研究結果を交えて詳しく解説します。

1. 騒音、光、温度ストレスの影響

  • ・環境ストレス:例えば、騒音、光、温度などは、環境ストレスの代表的な要因です。これらの環境ストレスが、男性および女性の生殖機能に影響を与えることが報告されています。
  • ・騒音ストレス: 騒音は、男性の精子数や運動性、形態に影響を与えることが報告されています。さらに、騒音ストレスは、女性の排卵と卵胞の成熟に影響を与えることも報告されています。一部の研究では、騒音が女性の妊娠率を低下させることが示唆されています。
  • ・光ストレス: 光ストレスは、男性の精子数や形態に影響を与えることが報告されています。また、光ストレスは、女性の卵巣機能にも影響を与えることが報告されています。特に、長期にわたる夜勤労働による光ストレスは、女性の卵巣機能を低下させる可能性があるとされています。
  • ・温度ストレス: 温度ストレスは、男性の精子数や運動性、形態に影響を与えることが報告されています。男性が長時間にわたって熱い場所にいると、精子の数や運動性が低下することがあります。また、女性が熱い場所にいると、排卵の正常な機能に影響を与える可能性があります。

これらの環境ストレスは、男性や女性の生殖機能に悪影響を与えることがあります。そのため、これらのストレスに普段から曝露しないようにすることが、不妊リスクの低減につながる可能性があります。

2. 心理的ストレスと不妊の相互作用

心理的ストレスもまた、不妊の原因の一つとされています。不妊治療における精神的ストレスは、多くのカップルにとって深刻な問題であり、その影響は不妊治療の成功率にも影響を与えることが報告されています。また、心理的ストレスは、ホルモン分泌にも影響を与えることが報告されています。ストレスによるホルモン分泌の乱れは、排卵障害や男性の精子数や運動性、形態に影響を与えることがあります。

心理的ストレスと不妊の相互作用については、ストレスが不妊治療の成功率に影響を与えることが報告されています。研究によると、ストレスが高い場合、体外受精(IVF)の成功率が低下する可能性があります。また、不妊自体がストレスを引き起こし、これが更なる不妊の原因となるという悪循環も指摘されています。

最近の研究では、ストレスが女性の排卵機能や男性の精子数にも影響を与えることが報告されています。女性の場合、ストレスが 卵胞刺激ホルモン(FSH)や 黄体形成ホルモン(LH)の分泌に影響を与え、排卵に問題を引き起こす可能性があります。男性の場合、ストレスが精子数、精子運動性、形態に影響を与えることが知られています。

以上のように、環境ストレスは不妊に深刻な影響を与える可能性があるため、ストレスを軽減するための方法や、不妊治療におけるストレス管理の重要性がますます高まっています。

さらに、不妊治療そのものが、カップルにとってのストレスとなることがあります。不妊治療は、時間的・金銭的な負担が大きく、成功率も低いことが多いため、多くのカップルにとってストレスとなることが報告されています。そのため、心理的なケアが重要とされており、カウンセリングやストレスマネジメントなどが推奨されています。

心理的ストレスは、不妊の原因となることがある一方で、不妊によるストレスを改善することが、不妊治療の成功率を上げる可能性があります。そのため、カップルが不妊治療に臨む際には、心理的なケアも含めた総合的なアプローチが求められます。

参考文献:
・Ruder EH, Hartman TJ, Goldman MB. Impact of oxidative stress on female fertility. Curr Opin Obstet Gynecol. 2009;21(3):219-222. doi:10.1097/GCO.0b013e32832c4f4e
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・Galhardo A, Cunha M, Pinto-Gouveia J. Psychological aspects in infertility: meta-analysis of 168 studies. Psychol Health. 2013;28(6):646-682. doi:10.1080/08870446.2012.725739

職業的リスクと不妊

ここでは、職業的曝露が不妊にどのような影響を与えるかについて説明します。化学物質や放射線などの職場での曝露は、不妊に関連することが知られています。また、シフトワークも、生殖機能に悪影響を与えることが報告されています。このセクションでは、これらの問題について、最新の研究結果や実験データを提示します。

1. 化学物質や放射線にさらされる職業

特定の職業において、化学物質や放射線にさらされることで、不妊や妊娠中の合併症のリスクが増大することが知られています。職業的に化学物質にさらされることで、女性は卵巣機能低下や妊娠糖尿病のリスクが増加することが報告されています。男性では、精子の数や質に影響を与えることが知られており、例えば、染色体異常を持つ男性の場合、放射線被曝による精子の形態異常が報告されています。

研究によると、特定の職業が不妊に与える影響は、性別や年齢によって異なります。例えば、農薬や溶剤、放射線などにさらされることが多い労働者は、男性の不妊のリスクが高いことが報告されています。また、産業廃棄物処理業者や自動車整備工など、職業的に鉛にさらされることがある場合、男性の精子数や形態に影響を与えることが知られています。

研究によると、農薬、溶剤、重金属、放射線、製造業、医療業などの産業で働く男性や女性は、不妊のリスクが高いとされています。

  • ・農薬:農薬には、ホルモン様物質や神経毒性のある物質が含まれており、不妊の原因となる可能性があります。特に、長期間の農薬曝露は、精子の量や質に悪影響を与えることが知られています。
  • ・溶剤:溶剤には、ベンゼンやトルエンなどの物質が含まれており、不妊や流産、出生前死亡などの問題を引き起こすことが報告されています。
  • ・重金属:重金属には、鉛や水銀などが含まれており、不妊や胎児の発育障害、出生前死亡などのリスクがあることが報告されています。
  • ・放射線:放射線は、精子や卵子の品質に影響を与え、不妊や異常な胎児発育の原因となることが知られています。医療従事者や原子力産業で働く人々は、放射線曝露にさらされる可能性が高く、不妊のリスクが高いとされています。

2.シフトワークと生殖ホルモンの変化

現代社会では、24時間体制で機能する産業が増加しており、シフトワークは一般的になっています。しかしながら、シフトワークは人間の体内時計に悪影響を与え、生殖ホルモンの分泌や生殖機能にも影響を与えることが報告されています。

一部の研究では、シフトワークが女性の月経周期や卵巣機能に影響を与えることが示唆されています。また、男性の場合、夜勤が精子の形態、数、運動性に影響を与えることが報告されています。これらの影響は、生殖ホルモンのリズムの乱れに起因すると考えられています。

シフトワークは、生殖ホルモンに影響を与え、女性不妊のリスクを高める可能性があります。たとえば、看護師などの夜勤のある職業に従事する女性は、月経周期や卵巣機能に変化が見られることが報告されています。さらに、夜勤勤務が多い女性は、通常の周期で排卵する女性に比べて、排卵が遅れたり、排卵がない状態が続いたりすることがあります。

男性のシフトワークは、精子の質や量に影響を与える可能性があります。一部の研究では、夜勤勤務が多い男性は、精子の運動性や形態に影響を与えることが示唆されています。また、シフトワークによる睡眠不足は、男性の精子の数と運動性に影響を与えることが知られています。

シフトワークの問題は、適切な休息をとることができないことによるストレスにも関連しています。研究によると、シフトワークがストレスホルモンの分泌を増加させ、生殖ホルモンのバランスを崩すことが示唆されています。これにより、シフトワークが不妊に影響を与える可能性があります。

これらの研究結果から、職業的リスクによる不妊リスクを減らすためには、職場の環境を改善し、健康的な生活習慣を維持することが重要であることが示唆されています。

環境要因と不妊の関係性とは?

環境要因と不妊治療の効果

1. 環境要因が不妊治療成功率に与える影響

不妊治療において、環境要因が成功率に与える影響は注目されています。内分泌かく乱物質や大気汚染物質などの環境要因は、不妊治療に影響を与える可能性があります。環境要因による影響は、治療前から治療後の妊娠率に至るまで様々な段階で現れます。

一例として、内分泌かく乱物質の一種であるビスフェノールA(BPA)は、卵巣機能を低下させ、受精卵着床率を低下させる可能性があります。また、BPAは体内のエストロゲン濃度を上昇させることがあり、不妊治療中の女性には不適切な影響を与えることが懸念されています。さらに、大気汚染物質の一種であるPM2.5は、卵子の質を低下させ、胎児の成長遅延や早産などのリスクを増加させることが報告されています。

2. 環境要因への対策と治療効果の改善

不妊治療を受けるカップルが環境要因を回避することは困難であるため、環境要因の影響を減らすための対策が重要です。以下に、具体的な対策について説明します。

  • 健康的なライフスタイルの習慣の維持: 適度な運動、バランスの取れた食事、禁煙、過度なストレスを避けることが重要です。
  • 環境への曝露の軽減: 家庭や職場での環境改善、不要な薬物の使用の避け、食品中の農薬や化学物質を避けるなどが挙げられます。
  • 不妊治療前に検査を受ける: 不妊治療を受ける前に、夫婦ともに環境要因による影響を受けているかを検査することが重要です。
  • 不妊治療における栄養サポート: 健康的な食生活を維持することで、不妊治療の成功率が向上することが報告されています。特に、抗酸化作用のあるビタミンC、ビタミンE、セレン、亜鉛、葉酸などの栄養素が重要です。
  • 環境要因を考慮した治療方法の選択: 環境要因が不妊治療の成功率に与える影響を理解することで、環境要因を考慮した治療方法を選択することができます。

これらの対策を実施することで、不妊治療の成功率を向上させることが期待されます。ただし、環境要因は個人差があるため、不妊治療前に専門家と相談することが重要です。

参考文献:

  • Chiu YH, et al. Environment and Reproductive Health (EARTH) Study Team. Association between exposure to ambient air pollution and semen quality in Taiwan. JAMA Netw Open. 2019;2(8):e198796. doi:10.1001/jamanetworkopen.2019.8796

まとめ

1. 環境要因と不妊の関連性の重要性

このセクションでは、環境要因が不妊に与える影響について総括的にまとめます。不妊には、さまざまな原因があり、環境要因もその1つです。環境要因が不妊に与える影響は、遺伝的な要因やライフスタイルなどの他の要因と比べて、しばしば無視されがちです。しかし、最近の研究から、環境要因が不妊に与える影響は大きく、無視できないことが明らかになっています。

特に、内分泌かく乱物質(EDCs)は、不妊に関連することが報告されており、これらの化学物質に曝露されることは、女性の卵巣機能や男性の精子数・質に影響を与える可能性があります。また、環境ストレスや職業的リスクも、不妊に悩む人々のリスクを高める可能性があります。

2. 今後の研究と予防策の提案

環境要因が不妊に与える影響は、まだ完全には解明されていないため、今後の研究が重要です。特に、特定の環境要因が不妊に与える影響の詳細なメカニズムを調べることや、男性不妊についての研究が必要です。また、環境要因による不妊リスクの低減に向けて、以下のような予防策が提案されています。

  1. 環境規制の強化:環境規制を強化することにより、内分泌かく乱物質や有害な化学物質などの曝露を減らすことができます。
  2. 個人的な対策:家庭や職場での環境改善により、内分泌かく乱物質や有害な化学物質の曝露を減らすことができます。また、健康的な生活習慣やストレスマネジメントも重要です。
  3. 研究の促進:環境要因と不妊の関連性をより深く理解するために、研究の促進が必要です。研究には、環境要因が不妊に与える影響の詳細なメカニズムの解明や、男性不妊についての研究が含まれます。

環境要因による不妊は、世界的な問題であり、今後ますます深刻化する可能性があります。しかし、適切な予防策や研究の進展により、この問題に対する対策が進められることを期待したいところです。

参考文献:「環境化学物質による生殖障害-男性不妊を中心にして-」『日本環境学会誌』、2004年、49(5), 323-332.『環境医学』、2013年、57(3), 152-155.「職業性男性不妊」『日本内科学会雑誌』、2011年、100(11), 2346-2352.「食品添加物と不妊」『日本環境医学会誌』、2008年、51(1), 1-7.「環境ホルモンと不妊」『日本医師会雑誌』、2011年、140(5), 840-844.「職業性不妊」『日本産科婦人科學會雜誌』、2012年、64(12), 2203-2208.

助産師からのメッセージ

中友里恵

環境ホルモンやストレスは、私たちの生活の中に身近にあって、自分でコントロールできないことも多くあるのが事実です。しかし、このような環境のことを知ることで、少しでも意識して過ごしていくことが私たちの体や、未来の赤ちゃんの健康を守ることにつながります。

過剰に意識してしまうと苦しくなってしまうので、まずは「知る」と言うことから始めていきましょう。

そして、できる範囲で良いので環境と自分に優しく過ごしていきましょう。

この記事を書いた人

田村 由美

子授かりネットワーク 編集長

この記事を監修した人

中 友里恵