今話題の卵子凍結。2021年12月には小池都知事が「社会的適応による卵子凍結支援の検討」を名言しました。卵子凍結のメリット・デメリットについてくわしく解説します。
卵子凍結とは?
卵子凍結とは、卵巣から採取した卵子を超低温で保存することをいいます。採卵された卵子のうち、状態が良好なものを選んで細胞が壊れないように保護し、液体窒素で急速冷凍します。
凍結保存によって、卵子は凍結された状態のまま、長期間の保存が可能です。
引用元)日本がん・生殖医療学会 妊孕性温存方法
卵子凍結の目的は?
女性には、妊娠・出産のタイムリミットがあり、人生設計に大きくかかわってきます。妊娠・出産にタイムリミットがあるのは、加齢による卵子の老化(質と数の低下)や、女性自身のからだの老化などが原因です。
卵子が老化すると、 受精 し成長する力を持つ卵子が少なくなり、妊娠率は低くなってしまいます。また、からだが老化することで、妊娠という大きな変化に負けない体力や予備力が低下することにつながり、妊娠合併症を発症する確率が高くなります。とくに、35歳以上になると、妊娠率の低下や流産率の上昇がみられ、妊娠合併症の確率も上がることに。
そして、この加齢による卵子の質の低下を抑えることができるのが、卵子凍結です。卵子凍結は、若い状態のまま卵子を保存できるため、加齢による影響が少ない卵子で妊娠が可能になるのです。凍結保存された卵子は、妊娠したいと思ったタイミングで解凍し、顕微授精することで妊娠にのぞむことができます。
卵子凍結を受けることができる人とは?
卵子凍結には、社会的適応と医学的適応があります。
社会的適応による卵子凍結
社会的適応による卵子凍結は、成人女性が対象となり、将来的な妊娠・出産について、加齢などによる卵子や卵巣機能の低下の影響が心配な人が受けられます。
日本生殖医学会による「社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン(2013)」では、採卵時の年齢について40歳以上は推奨されていないため、それ以前での卵子凍結が望ましいです。
既婚である場合には、未受精卵子凍結ではなく、妊娠率のより高い 受精卵 (胚)凍結が勧められます。
医学的適応による卵子凍結
医学的適応による 卵子凍結 は、化学療法や放射線療法など、病気の治療によって妊娠できなくなる可能性がある人が対象です。治療前に卵子凍結することで、治療後の妊娠の可能性をつなぐことができます。未成年から受けることができ、43歳未満が対象になります。ただし、医師による病状や治療内容などの評価が必要です。
卵子凍結の方法
卵子凍結の具体的な流れをみてみましょう。
- 1.排卵誘発
排卵誘発剤(飲み薬や注射)で卵子の成熟を促すことで、1度に複数個の採卵ができるようにします。排卵誘発はせずに、卵子の発育を待つ方法もあります。
- 2.採卵
超音波検査で卵巣の位置や状態を確認しながら、細長い針を膣から卵巣に向けて刺し、卵子を吸い出します。麻酔を行うことで、痛みを和らげることができます。
- 3.凍結
採卵された卵子のうち、状態が良好な卵子を細胞が壊れないように保護し、液体窒素で急速冷凍します。凍結した卵子は超低温の環境で保存されます。
以上の方法で、卵子凍結が行われます。
卵子凍結のメリットとは?
卵子凍結のメリットは、3つあります。
メリット1 若いときの卵子を保存できる
メリットのひとつめが、凍結保存した年齢の状態で卵子を長期間保存できることです。将来、妊娠を希望したときに排卵されている 卵子 は、女性の年齢と同じだけ年を重ねていますが、凍結保存された卵子は若い状態を維持しています。
卵子が若いと、染色体異常や発育がストップするなどのトラブルがおきにくく、妊娠・出産に結びつきやすくなることが期待できます。
メリット2 将来への保険になる
メリットの2つめが、凍結した卵子が将来への保険になることです。病気や事故、不妊症などによって妊娠が難しくなる可能性は誰にでもあります。もしそうなったときに、凍結した卵子があることで妊娠への希望をつなげる場合があります。将来への保険として、卵子凍結がスタンダードになる時代が来るかもしれません。
メリット3 妊娠のタイムリミットを緩和できる
メリットの3つめが、妊娠適齢期の問題を緩和できることです。妊娠適齢期は20~35歳までと考えられていますが、2021年の平均初産年齢(第1子出生時の母の平均年齢)は30.9歳となり、20代での出産は以前よりも少なくなっています。
女性にとって妊娠・出産は人生の一大イベントです。そして、出産すれば終わりではなく、子育てが約20年続きます。仕事と子育てを両立できる環境になければ、妊娠時期に迷うのは当然のことでしょう。
しかし、妊娠・出産できるタイムリミットは容赦なく迫ってきます。そのタイムリミットを緩和できるのが、卵子凍結です。からだの老化は現在の医学では止めることはできませんが、卵子凍結によって卵子の老化を止めることができるようになっています。
社会的適応による卵子凍結が一般化すれば、妊娠・出産時期に悩む女性が今よりも減ることでしょう。
引用元)2021年 人口動態
卵子凍結のデメリットとは?
卵子凍結のデメリットは、2つあります。
デメリット1 費用が高額である
デメリットのひとつめが、社会的適応による卵子凍結の場合、保険適用外となり、全額自己負担になることです。病院によって費用は異なりますが、採卵に必要な費用が15~50万円程度、卵子凍結に1~5万程度(卵子1個あたり)必要です。
さらに凍結した卵子は、超低温で管理し続ける必要があり、年間費用が発生します。凍結保存容器1本(卵子2個もしくは3個保存可)あたり2~3万円程度必要なため、保存期間が長いほど費用が高額になります。
デメリット2 副作用のリスクがある
卵子凍結では、採卵を行う前に、排卵誘発剤によって複数の卵子の成長を促す治療が行われます。この排卵誘発剤の副作用としておこる可能性があるのが、 卵巣過剰刺激症候群 (OHSS)です。
卵巣過剰刺激症候群は、排卵誘発剤が卵巣を過剰に刺激してしまい、卵巣が腫れ、おなかや胸に水が溜まるなどの症状がみられます。重症化すると、腎臓がうまく機能しなくなったり、血栓(血管内にできる血の塊)ができたりすることもあります。
また、採卵時のリスクとしてあるのが、出血と感染です。採卵するときに膣から卵巣に向けて細長い針を刺しますが、このときに卵巣からの出血が多量になったり、卵巣の周りの臓器を傷つけたり、感染を引き起こしたりすることがまれにあります。
デメリット3 新鮮卵子に比べて妊娠率が低い
デメリットの3つめは、卵子は凍結や融解といった操作の影響を受けやすいため、新鮮卵子や受精卵凍結に比べて受精後の発育が止まりやすい傾向にあることです。
2020年に日本産科婦人科学会が発表した、凍結融解未受精卵を用いた治療成績では、移植あたりの妊娠率は29.0%でした。病院によっては、それ以上の成績を出しているところもありますが、卵子凍結をすれば、必ず妊娠できるというわけではないことを知っておきましょう。
引用元)厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
日本受精着床学会 Q14. ARTの副作用を教えてください。(米国生殖医学会説明記事より改変)
卵子凍結で知っておくべきこと
卵子凍結は、画期的な技術ですが、妊娠のタイムリミットを完全になくせるわけではありません。卵子凍結をしても、35歳以上の出産は高年齢出産であり、前置胎盤(胎盤の位置の異常)や妊娠高血圧症候群(血圧が高くなり、母体や胎児に悪影響を及ぼす状態)などの妊娠合併症のリスクは高いままです。子宮筋腫や子宮内膜症などの合併妊娠も年齢とともに増えます。
そのため、卵子凍結をしたから何歳で妊娠しても大丈夫というわけではないことを知っておきましょう。
卵子凍結を受けようと思ったら
社会的適応による卵子凍結を受けたい場合には、実施している病院やクリニックをホームページなどで探してみましょう。年齢制限の範囲や、おおよその費用を調べておくと安心です。
福利厚生として卵子凍結を取り入れている企業も増えています。一度、会社の制度を確認してみるといいかもしれません。
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専門家より
卵子凍結は、ライフプランを考える上で大切な選択肢の一つです。特に女性は妊娠適齢期と仕事やプライベートが充実している時期が重なるため、多くの女性が両立に悩みます。卵子凍結によって、年齢による「焦り」から解放される女性も多くいることでしょう。
妊娠や出産を考える余裕を持てるという点では良いですよね。ただし、妊娠はパートナーがいないと成立しません。卵子凍結をしても、将来をともにするパートナー探しや、今後のキャリア、妊娠に備えた心身の準備を行っておかないと、時間とお金を無駄にしてしまうことになります。
また、採卵時の副作用で仕事に影響が出る方もいるので、卵子凍結についての正しい知識と、自分にとって本当に必要なのか?を考えることはとても大切なことです。
自分らしく生きるために後悔のない選択ができるようにしていきたいですね。