【専門家が解説】「卵子凍結」と「受精卵凍結」の違いとは?

卵子凍結する方法には卵子凍結受精卵凍結があります。受精する前と後で名前は違いますが、どちらも卵子を凍結することに変わりはありません。この2つにどんな違いがあるのでしょうか?卵子凍結と受精卵凍結、それぞれの方法とその違いについてくわしく解説します。

卵子凍結とは?

卵子凍結とは、卵巣から採取した 卵子 を凍らせて保存する医療技術です。受精する前の未受精の卵子を凍結するため、正式には「未受精卵子凍結」といいます。
卵子凍結には、医学的適応によるものと、社会的適応によるものの2種類があります。

医学的適応による未受精卵子凍結

医学的適応による未受精卵子凍結とは、病気の治療によって妊娠が難しくなることが予想される場合に、その治療を行う前に卵子を凍結保存することを指します。特定の病気や治療を受ける人が対象となります。

引用元)日本がん治療学会 『小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』2017 年版 クリニカルクエスチョン・推奨一覧

社会的適応による未受精卵子凍結

女性は胎児のころにすでに卵子の元になる細胞ができており、年齢とともに卵子も年を取ります。年齢を重ねた卵子は、少しずつ妊娠する力が低下し、35歳をすぎるころにそのスピードが速まります。

そのため、妊娠・出産は20代~30代前半が適齢期と言えますが、仕事やプライベートを大事にしたい人もいれば、家族の介護や療養が必要な人もいるでしょう。なにより、一生を添い遂げたいと思うパートナーとの出会いが、適齢期までに訪れるとも限りません。
そんな場合に、卵子を若い状態のまま保存し、将来の妊娠に備えるのが、社会的適応による未受精卵子凍結です。

引用元)日本生殖医学会 倫理委員会報告「未受精卵子および卵巣組織の凍結・保存に関する指針」

【専門家が解説】「卵子凍結」と「受精卵凍結」の違いとは?

受精卵凍結とは?

受精卵凍結とは、採取した卵子と精子を体外で受精させ、受精卵 となった状態で凍らせて保存する医療技術です。受精卵は、受精すると同時に細胞分裂が始まり「胚(はい)」と呼ばれる状態になるため、「胚凍結(はいとうけつ)」とも呼ばれます。

受精卵凍結は、不妊治療による多胎妊娠を防止するために開発された方法です。以前は、1回の採卵で多くの卵子を採取できて受精卵が多く育った場合、妊娠率を上げるために複数個の胚移植(胚を子宮に戻すこと)を行っていました。
しかし、多胎妊娠はリスクが高いため、現在では基本的に1回の胚移植で1つの胚のみとなっています。そして、移植しなかった受精卵を凍結保存できる技術が開発されました。

現在では、 新鮮胚移植 (凍結しない胚移植)よりも 凍結胚移植 のほうが妊娠率が高くなっており、採卵した卵子をすべて凍結保存し、次回以降の周期に移植する「凍結胚移植」をすすめる病院も増えています。

また、不妊治療として行われる受精卵凍結のほかに、医学的適応による受精卵凍結があります。卵子凍結と同様に、特定の病気や治療を受ける人が対象です。

引用元)日本生殖医学会 Q14.受精卵の凍結保存とはどんな治療ですか?
日本産科婦人科学会 2020年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績

「卵子凍結」「受精卵凍結」対象者の違いは?

卵子凍結と受精卵凍結の対象は下記のとおりです。

凍結種類適応対象
卵子凍結医学的適応放射線療法や化学療法、手術などの治療によって妊娠が難しくなる人で、未成年から43歳未満の女性。パートナーがいる場合は受精卵凍結が推奨される。
卵子凍結社会的適応加齢による妊娠・出産への影響が心配な成人女性。日本生殖医学会のガイドラインでは、採卵時の年齢について40歳以上は推奨されていないため、39歳以下が望ましい。
受精卵凍結医学的適応放射線療法や化学療法、手術などの治療によって妊娠が難しくなることが予想される人で、43歳未満の既婚女性。
受精卵凍結社会的適応不妊治療中の女性で、凍結胚移植が望ましいと判断された人。

医学的適応による、卵子凍結と受精卵凍結の対象者の大きな違いは、パートナーの有無です。卵子凍結は、受精卵凍結と比べて妊娠率が低くなるため、既婚の場合には受精卵凍結がすすめられます。

引用元)がん情報サービス 妊よう性 女性患者とその関係者の方へ
厚生労働省 小児・AYA 世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業実施要綱

【専門家が解説】「卵子凍結」と「受精卵凍結」の違いとは?

「卵子凍結」「受精卵凍結」採卵の違いは?

卵子凍結も受精卵凍結も、排卵誘発剤によって卵子の成熟を促し、採卵を行うという採卵方法に違いはありません。しかし、採卵後から凍結するまでに違いがあります。

卵子凍結の場合は、採卵された卵子の中から状態が良好なものを選んで凍結します。それに対して、採取された卵子と精子を受精させて数日培養し、良好に細胞分裂した胚を選んで凍結するのが、受精卵凍結です。どちらの場合も、凍結前に専用の溶液に浸して保護してから凍結保存が行われます。

「卵子凍結」「受精卵凍結」妊娠率の違いは?

2020年の日本産科婦人科学会のデータによると、凍結保存された卵子(凍結融解未受精卵)を用いた妊娠率は29.0%、凍結保存された受精卵(凍結胚)を用いた妊娠率は36.0%でした。

引用元)2020年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績

「卵子凍結」「受精卵凍結」副作用やリスクの違いは?

卵子凍結と受精卵凍結、どちらも採卵を行う前に排卵誘発剤を使用しますが、この排卵誘発剤によって 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)という副作用が出る場合があります。卵巣過剰刺激症候群は、排卵誘発剤が卵巣を刺激しすぎ、卵巣が腫れたり、おなかや胸に水が溜まったりする状態です。重症の場合には、腎臓の働きが悪くなったり、血管の中に血の塊(血栓)が作られて心臓や脳の血管を詰まらせたりするなど、命に関わる場合もあります。

また、採卵時のリスクとしてあるのが、出血や感染です。こちらも卵子凍結と受精卵凍結、どちらにもリスクがあります。採卵時に、膣から卵巣に向けて細い針を刺しますが、このときに卵巣からの出血が多くなったり、周りの臓器を傷つけたり、傷口から感染したりする可能性があります。

引用元)厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
日本受精着床学会 Q14. ARTの副作用を教えてください。(米国生殖医学会説明記事より改変)

【専門家が解説】「卵子凍結」と「受精卵凍結」の違いとは?

「卵子凍結」「受精卵凍結」費用の違いは?

卵子凍結と受精卵凍結では、費用が変わってきます。下表のように医学的適応かどうかによってや、不妊治療として行うかによって、保険適用や助成の有無が変わります。

保険適用の有無助成金の有無
卵子凍結医学的適応なしあり
卵子凍結社会的適応なしなし
受精卵凍結医学的適応なしあり
受精卵凍結社会的適応あり(43歳未満の女性が対象。回数上限あり)なし(2021年4月より保険適用に移行)

卵子凍結の費用は、保険適用にならず、病院によって料金に差があります。採卵に15~50万円ほど、卵子凍結に卵子1個あたり1~5万ほど必要です。凍結後の保存費用として、凍結保存容器1本(卵子2個もしくは3個保存可)あたり年間2~3万円ほど必要になります。

受精卵(胚)凍結の費用は、43歳未満の女性で、不妊治療で行う場合に保険適用となります(ただし回数の上限あり)。保険適用の場合の価格は、下表のとおりです。

費用
採卵9,600円+採卵個数によって7,200~21,600円
受精(体外受精12,600円
受精(顕微授精14,400~38,400円(個数にって変動)
受精卵の培養13,500~31,500円(個数によって変動)
凍結保存の管理料15,000~39,000円(個数によって変動)

例えば、5個採卵し、顕微授精で5個とも凍結できた場合には、約8万円必要です。それに加えて、卵子凍結と同じく、凍結後の保存費用が必要ですが、年に10,500円(個数に関わらず)になります。

引用元)厚生労働省 不妊治療に関する支援について

「卵子凍結」「受精卵凍結」助成金の違いは?

助成金があるのは、卵子凍結と受精卵凍結、どちらの場合も医学的適応によるもののみになります。凍結保存時の年齢が43歳未満であることや、対象となる病気や治療内容であることなどの条件を満たせば、下記の助成が受けられます。

助成上限額/1回助成回数
未受精卵子凍結20万円2回まで
受精卵(胚)凍結35万円2回まで

助成内容については、自治体によって変わる場合があるので、自治体ホームページや窓口に確認してみましょう。

引用元)厚生労働省 生む未来への助成金

「卵子凍結」「受精卵凍結」の移植や保存と保存延長手続きの違いは?

社会的適応による卵子凍結の場合、卵子の保存延長や妊娠を希望するタイミングなどの意思決定は成人している本人が行います。医学的適応による卵子凍結では、対象が未成年の場合、できるだけ本人も説明を受けたうえで両親(親権者)の同意が必要になります。

受精卵凍結の場合、受精卵の夫婦2人のものであるため、双方の同意がないと、胚移植も凍結保存の延長も破棄もできません。夫婦でよく話し合って、各手続きを行う必要があります。
また、夫婦どちらかが亡くなった場合や離婚した場合には、凍結した受精卵を用いた移植はできないことになっています。

引用元)厚生労働省 小児・AYA 世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業実施要綱
日本生殖医学会 Q14.受精卵の凍結保存とはどんな治療ですか?

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専門家より

中友里恵

卵子凍結と受精卵凍結は、どちらも未来の妊娠への希望をつなぐ医療技術です。以前から医学的適応による卵子凍結と受精卵凍結は費用助成があり、さらに2022年には不妊治療が保険適用となりました。少しずつ、女性がより良い人生を送るための選択肢が増えてきています。社会的適応による卵子凍結についても、今後、なんらかのサポートが行われることが期待されます。

この記事を書いた人

田中 由美

子授かりネットワーク 編集長

この記事を監修した人

中 友里恵