【専門家が解説】不妊治療によく出てくる言葉 着床率と受精率、妊娠率の違いは?

妊活や不妊治療には聞き慣れない言葉が多くありますが、中でも着床率受精率の違いがわからない!という声を良く聞きます。今回は着床率と受精率の違いについて説明していきます。

着床率とは?

卵子と精子が受精をして受精卵を作り、子宮内膜に接着する確率のことをいいます。

体外受精顕微授精は、採卵した卵子と精子を受精させてできた受精卵を、初期胚または胚盤胞まで育てて子宮内に移植します。

受精卵は受精後5~7日目に子宮内膜に着床します。着床すると hCG というホルモンがでます。妊娠検査薬はこのhCGをキャッチして妊娠しているかどうかを調べることができます。

受精はできても着床に至らないことを着床障害といいます。着床障害には胚側と母体側の原因があります。

胚側は染色体異常が理由であることが多いです。母体側の場合は、子宮の病気、卵管の病気、子宮内膜の着床の時期のずれ、慢性子宮内膜炎、ホルモン異常、免疫異常、抗リン脂質抗体症候群などが挙げられています。

着床率と年齢

妊娠する力を「妊孕生(にんようせい)」と呼びますが、妊孕生は年齢とともに低下します。

原因は卵子の質の低下や、卵子の数の減少、精子の老化などが挙げられます。妊孕力は、35歳を境に大きく低下し、40歳以降はさらに低下します。逆に流産率は上昇し、卵子の染色体異常や、精子の遺伝子異常の確率も高まってきます。

着床率を上げるには

着床率をあげるには、原因がある場合は検査や治療を行うこと。そして、日頃の体作りが大切です。卵子と精子は私たちの体から作られるものなので、体の健康状態が、卵子や精子の健康に繋がります。

食事

  • タンパク質

タンパク質は体の土台を作る栄養素です。皮膚、筋肉、血管、ホルモンや酵素、免疫物質などが作られています。妊娠しやすい体質を作るためには積極的にとりましょう。

  • ビタミンやミネラルをとる

ビタミンやミネラルも妊娠しやすい体作りには大切です。

ビタミンCとビタミンEは抗酸化作用が強く、卵子や精子の老化の進行を遅らせることもできます。

  • 糖質を控える

糖質の摂りすぎは、体内の糖化に繋がります。体内で、タンパク質が余分な糖質と結合するとタンパク質が変性や劣化をしてAGE(終末糖化産物)になります。

AGEの蓄積が起こると、老化の原因となり卵巣機能の低下につながる恐れがあります。

血糖値を上げない食生活が大切です。

  • 良質な油の摂取

コレステロールは、女性ホルモンや男性ホルモンの材料となり、卵子や精子の細胞膜の形成にも必要です。オメガ3などの良質な油を摂るようにしましょう。

サプリ

  • ビタミンD

ビタミンDは免疫作用の調整は生殖ホルモンの分泌に関わっています。また卵の成熟を促す効果があります。サプリだけでなく、日差しを浴びることで皮膚から吸収できるビタミンです。ビタミンDが不足すると、体外受精での受精率の低下や妊娠後の流産率の上昇、「くる病」と呼ばれる赤ちゃんの病気の危険があります。

葉酸は赤ちゃんの二分脊椎を予防する大切な栄養素です。他には赤ちゃんの神経や脳を作る働きをもあります。また体外受精の成功率や、SDF(精子DNA断片化)の改善も期待できます。出産まで摂ることで、貧血予防、妊娠高血圧症候群のリスクを減らすなどの効果も言われ始めています。

  • 鉄分

鉄は赤血球を作り出す材料です。体全体に酸素や栄養を運ぶ大切な役割もあり、細胞の活性化にも繋がります。鉄が不足すると卵巣や子宮の血流が悪くなり働きが悪くなる可能性があります。

  • 亜鉛

細胞分裂に関わる亜鉛は男女ともにとりたい栄養素です。下垂体で作られているFSHやLHの働きも高めます。セックスミネラルとも呼ばれ、男性は精子の所見を改善する働きがあります。

生活習慣

ご夫婦で生活習慣を見直し改善することは、妊活や不妊治療をする上でとても大切なことです。着床率だけでなく、妊娠後のマイナートラブルを減らし健康に過ごせる可能性を高めます。

  • 適度な運動

体を動かすことは、血液の流れが良くなり卵巣機能の向上が期待できます。

体の代謝にはミトコンドリアが関わっていますが、ミトコンドリアを活性化させることで、

体のエネルギーが産生されます。有酸素運動であるウォーキングやジョギングなどがお勧めです。

  • 良質な規則正しい睡眠

良質な睡眠をとると、成長ホルモンが多く分泌されます。さらに朝日を浴びることでメラトニンという抗酸化ホルモンも分泌されます。逆に睡眠不足は女性ホルモン分泌のバランスが崩れます。7時間の睡眠を心がけて、規則正しい睡眠を行いましょう。

  • 体が冷えないようにする

体が冷えると血液の流れが悪くなり、卵巣機能の低下に繋がります。

骨盤周囲は特に冷やさないようにすることが大切です。また、なるべく常温のものを飲むようにしましょう。

  • ストレスを溜めない

ストレスは活性酸素を出します。休養やリラックスできる時間を作り、ストレスを溜めないようにしましょう。また、女性の排卵日を予測してタイミング療法を行う場合、男性がプレッシャーを感じて性機能障害になる方もいます。夫婦間でもお互いがリラックスできるように心がけましょう。

受精率とは?

受精とは卵子の中に精子が入り込み受精が完了した確率です。男性不妊や、女性側に抗精子抗体があったり、子宮内膜症などの子宮の病気や排卵障害などがあると自然な受精は難しくなります。

体外受精では、採卵した卵子が入っている培養液の中に、運動性の良好な精子を注入して、精子自身の力で受精させて受精卵を作ります。

顕微授精は、ガラス製の細い針を使用して1匹の精子を卵子に注入して受精させ、受精卵を作ります。受精率は体外受精の成績に影響するので、不妊治療クリニックを選ぶ上で一つの基準にもなります。

受精率と年齢

着床率と同じように年齢が上がるほどに受精率は下がります。受精をしなければ着床にも至らないので、着床率と比較すると受精率は高いと言えます。

治療ステップのそれぞれの受精率

妊活や不妊治療の方法で受精率はどのような違いがあるのでしょうか。治療のステップによって評価の基準は異なってきますので注意をしましょう。

自然妊娠

自然妊娠でデータをとることは難しいですが、定期的な夫婦生活があれば1年以内に80%が妊娠に至ると言われており、妊娠に至らない場合は、受精障害や着床障害などの原因があるかもしれません。

人工授精

人工授精が自然妊娠と異なる点は、子宮内に直接精子を注入し、受精までの道のりをショートカットしていることです。具体的な受精率はわかりませんが、妊娠に至る場合90%が5回目までであり、それ以上人工授精を続けても妊娠率は上がらないと言われることが多いです。

体外受精

体外受精の場合、採卵を行いいくつか取れた卵子と精子を受精させるので、卵子が10個取れて、そのうち8個が受精に至ったとすると受精率は80%になります。各施設のホームページを見ると平均して70〜80%程度の受精率を出している施設が多いです。

受精率を上げるには?

受精率をあげるには、卵子と精子の質を良くすることが上げられるので、生活習慣の見直しは大切です。不妊治療クリニックに通われている場合は、クリニックの治療方針もとても重要です。受精を阻害する原因を調べ、体外受精や顕微授精のステップアップが重要になることもあります。

受精率が低い原因

受精率が下がる原因として、卵子の成熟度が低く、精子が進入しても細胞が活性化しない、透明帯が固く精子が進入できないなどがあります。精子の原因としては、卵子の透明帯を破って進入するための先体反応がうまくいかない、卵子の細胞質に入った後で精子が活性化されないなどがあります。

また、体外受精の際に一個の卵子に対して複数の精子が進入することを「多精子受精」といい、この場合は、子宮に戻すことはできません。

着床率と受精率、妊娠率の違いは?

卵子と精子は受精をした後に細胞分裂を繰り返しながら、子宮内に移動していき、着床します。着床すると妊娠になります。受精→着床→妊娠という流れです。

ただし妊娠率=出産率ではありません。妊娠の10〜15%が流産になってしまいますし年齢の上昇に伴い流産率も上昇します。

妊娠率だけを気にするのではなく、出産まで至ったかを見ていくと良いと思います。

まとめ

妊娠のしくみは受精→着床→妊娠となります。この過程のどこかにエラーがあるので妊娠は成立しません。なかなか自然妊娠に至らない場合は、原因はあるのか、原因がある場合、どこにエラーが出ているのかによって、妊活のステップも変わっていきます。また、不妊治療クリニックを選ぶ時には実績を見ることがありますが、これらのデータはホームページに載っていることが多いのでチェックしてみてください。

助産師からのメッセージ

中友里恵

妊娠の仕組みは本当に神秘的ですがたくさんの用語や現象がありますね。不妊治療では難しい言葉が多いですが、わからないままにしておくと、不妊治療クリニック選びや受診のタイミングが遅れてしまうことがあります。ご自身の体に起こることですので、わからないことは、担当の医師やスタッフに聞いて見るのも良いでしょう。

この記事を書いた人

中 友里恵

この記事を監修した人

坂口 健一郎