妊活での妨げになる理由としてあげられるものは、男性側の勃起障害や射精障害や、女性側の性交疼痛や膣痙攣、夫婦共にある性欲減退の性機能障害だけでなく、「セックスはしたくないけれど子どもは欲しい」「小さい子どもがそばで寝ていて気分になれない」、「仕事疲れ、子育て疲れで、タイミングが取れない」、など多岐にわたります。
性機能障害の治療には、人工授精・体外受精の治療が行われることになりますが、その前のステップのひとつとして、また精神的、時間的な理由で妊活が進まない方のひとつの手段として用いられるシリンジ法を紹介します。
シリンジ法とは
排卵期に男性がマスターベーションで採取した精子をとり、女性の膣内に注入し、精子と卵子を受精しやすくする方法です。
シリンジと呼ばれる専用キットを膣内に挿入しますが、挿入部分はシリコンでできており、女性の体の負担は少ないです。膣内に注入する方法で通常の性交渉と同じ効果が期待されます。
性交の痛みがある場合や射精トラブルがある、不妊治療で通院する時間がない人など、タイミングがとりにくい方でもチャレンジしやすい方法です。手技も簡単で費用も実費負担のみですのでお手軽です。
人工授精と似ていますが、病院ではなく自宅で行うことができるため、時間を選ばずに取り組むことができます。
人工授精とシリンジ法の違いは?
人工授精は、クリニックで排卵日に採取した精子を遠心分離機を使って濃縮し、子宮内に注入する方法に対し、シリンジ法は自宅で人工授精のように濃縮することなく、そのままの静液を自分でシリンジを使って、膣内に入れる方法です。
クリニックで行う人工授精と自宅でのシリンジ法を併用することができますが、人工授精の48時間前までの使用が人工授精当日の精液の状態に影響が少ないと言われています。
どんな人に向いているの?
- ・仕事が忙しく、夫婦のタイミングが合わない
- ・精神的なプレッシャーがある
- ・小さな子供がいて、なかなかタイミングが取れない
- ・性交痛がある
- ・射精障害やEDがある
- ・セックスレスだが子どもが欲しい
- ・通院治療に躊躇している
- ・病院の高額治療費が負担である
- ・病院での不妊治療と併せて妊娠のチャンスを増やしたい
- ・排卵日と休診日が重なり、チャンスを無駄にしたくない
どんな人が使えるの?
シリンジ法を始める前には、男女とも必要な不妊検査を受けて、精液の異常や婦人科疾患がないと確認することをおすすめします。
シリンジ法のメリット・デメリット
メリット
- ・自宅で簡単にできる
- ・通院しなくていい
- ・病院の不妊治療より安くすむ(高額の治療費を抑えられる)
- ・忙しくても取り組める
- ・排卵日の精神的なプレッシャーから解放される
- ・セックスレスや性行為障害(挿入困難・ED)でも取り組める
- ・不妊治療中でも取り組める
- ・簡単に取り組めるので回数が増え、妊娠率が上がる
デメリット
- ・女性が痛みを感じる場合がある
- ・セックスをしなくてもいいと想いが生まれてしまう
- ・女性が痛みを感じたり、うまく注入できないことがある
- ・不潔な手で行うと感染症を引き起こしてしまう
シリンジ法のコツ
ポイント① 産婦人科クリニックなどで検査を受けておく
シリンジ法を始める前には、男女とも必要な不妊検査を受けて、精液の異常や婦人科疾患がないと確認することをおすすめします。
ポイント② 排卵日を特定する
ポイント③ 禁欲期間を作る
適切な禁欲期間(3日程度)を意識する
ポイント④ 清潔なシリンジを使用する
使用前にお風呂で体を清潔にしておく、手をきちんと洗い清潔な状態で使用する。
シリンジの使い方
- ①体を清潔にする
- ②男性がマスターベーションで容器に精液を採取する
- ③採取直後の精液は粘性が強いので、常温で15分ほど置いてサラサラにしてからシリンジを使って注射器で精液を吸い上げる
- ④女性は仰向けになって寝る。男性はチューブの中央を持って膣内に挿入する。注射器とチューブの接続部まで膣内に挿入し、注射器を押して精液をゆっくりと注入する
- ⑤注入後は女性はそのまま横になる
各社それぞれ特徴があるので、取り扱い説明書をよく読んでから使用してください。
キットの入手方法
メーカーの公式サイト、楽天やアマゾンなどの通販ECサイトで購入できます。薬局で購入できる商品もあります。
キットの価格
何回分か纏まって販売されているものが多いですが、¥300〜¥1500(1回)程度です。
シリンジ法の妊娠率
シリンジ法での妊娠の確率は通常の夫婦生活でタイミングをとるのと同程度の確率です。自然妊娠の確率は、1周期で20~30%ほどです。
排卵日に夫婦のタイミングが合わない場合などにシリンジ法を取り入れることで、回数を増やし妊娠率を上げることになります。
シリンジ法の障害の関係
シリンジ法で障害を持って生まれてくる確率は、自然妊娠と変わりません。
シリンジ法で産み分けはできる?
産み分けの方法として1960年代にシェトルズ博士が発表した「シェトルズ法」を根拠に
「女の子が欲しいなら浅めの位置で射精、男の子なら奥で射精するといい」と言われています。
女性の膣内は通常は酸性環境に保たれていますが、男の子になるY精子は酸性環境に弱く、女の子になるX精子は酸性に強いという特徴があります。このことから、精子が進んでいく距離が長いほど、酸性の影響を受けやすく、Y精子は死滅しやすく、X精子は有利になります。
この仕組みからシリンジ法をおこなうときは、男の子を希望する際は、深い位置で、女の子を希望する際は浅い位置で注入を行うのがよいといわれています。
シリンジ法を試す日は、女の子を希望するなら女の子を妊娠しやすい排卵日2日前、男の子を希望するなら排卵日当日が良いと言われているので、こちらも併せていくと良いでしょう。
しかし、産み分けに100パーセントの確率は存在しないことを理解し、希望の性別でない妊娠があることを夫婦でしっかり話し合うことはとても大切です。
助産師からのメッセージ
シリンジ法は夫婦生活が難しい方や、通院が難しい方におすすめの方法です。
夫婦生活にストレスや苦痛を感じる方は少なくありません。シリンジ法で妊娠された方のお話を聞いたところ、女性側は自分のペースで行えること、性行時の痛みが解消されストレスが減ったという声や、男性側はプレッシャーからの解放などのメリットを仰っていました。
夫婦だから夫婦生活が必須というわけではなく、スキンシップの方法は様々です。
妊活はご夫婦にあった方法で行うことが一番です。
選択肢の一つとして考えることは良いですが、シリンジ法を続けても妊娠に至らない場合は不妊検査を行うことも大切です。一つの方法にこだわりすぎずに期間を決めて行っていきましょう。