【専門家が解説】人工受精成功の秘訣

不妊治療のひとつである人工授精は、器具を使って子宮の中に精子を注入することで、妊娠成立を手助けする治療法です。人工授精での妊娠率を高めるためには、いくつかのポイントがあります。今回は人工授精について詳しく解説します。

【専門家が解説】人工受精成功の秘訣

人工授精とは?

人工授精とは、妊娠しやすい日を狙い、注入器を使って精液を子宮内に注入する治療法です。
自然妊娠の場合、膣内に射精された精子が、その先の子宮・卵管を通り、受精の場である卵管膨大部(らんかんぼうだいぶ)まで自力で進み、卵子と出会います。

しかし、精子の数が少なかったり、動きがよくなかったりすると、卵子と出会うことが難しくなります。その場合に、膣の奥にある子宮に精子を直接注入することで、精子が卵子と出会う確率を高め、受精の手助けをするのが人工授精です。

人工授精では、基礎体温や、尿や血液中のLH(黄体形成ホルモン)濃度、卵胞卵巣にある卵子の入った袋)の大きさから排卵日が推定され、人工授精の実施日が決まります。
人工授精当日に、自宅もしくは院内で精液を採取し、精液を洗浄したあと、子宮内に注入器を使って注入します。

なお、精液を洗浄してから使うのは、病原体や精子以外の成分を取り除き、質の良い精子を子宮内に注入するためです。受精の成功率を上げるほか、母体の感染症を防いだり、精子を子宮内に直接注入することでおこる、子宮収縮の痛みを軽減したりする効果が期待されます。

引用元)内閣府 第3章 人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題
厚生労働省 不妊治療の実態に関する調査研究

人工授精と体外受精の違い

ひと口に不妊治療と言っても、治療法にはさまざまな種類があります。中でも混同されやすいのが「人工授精」と「体外受精」です。

人工授精では、採取した精液を洗浄し、注入器からカテーテルを通して子宮内に注入しますが、その後はお母さんの子宮内で自然に受精・着床が起きるのを待ちます。不妊治療の中でも、自然妊娠に近い方法だと言えるでしょう。

それに対し体外受精は、あらかじめ体外へ取り出した卵子と精子をシャーレ(培養皿)の中に入れ、受精するのを待ちます。つまり体外受精では、受精はお母さんの体の外で行われるというわけです。体外受精でできた受精卵は、2~5日ほどシャーレで育てられたのち、子宮に戻されます。

【専門家が解説】人工受精成功の秘訣

人工授精が向いているケースと向いていないケース

不妊治療を希望するカップルが全員、人工授精を受けるわけではありません。人工授精には、適しているケースと、適していないケースがあります。

人工授精が向いているケース

人工授精が適しているのは、以下のケースです。

  • 精液検査の結果が基準値よりも低い
    精子検査の結果が、精子濃度が1600万/mlを下回る場合を乏精子症運動率が42%を下回る場合を精子無力症といいます。この状態に当てはまる場合、自然妊娠が難しくなります。
  • ・性交障害がある
    勃起不全、射精不全、性交痛などでセックスができないけれど、自身での射精はできる状態が性交障害です。
  • ・精子と頸管粘液の相性が良くない
    頸管粘液(おりもの)中での精子の動きは悪い(=フーナーテスト不良である)が精液検査に異常がない場合、精子と頸管粘液の相性に問題があることがわかります。精子に過剰に反応し、傷つけてしまう「抗精子抗体」を女性が持っている場合があります。

・不妊の原因が明らかでない
タイミング法で妊娠しない場合、生殖補助医療を行う前に人工授精を行うことがあります。

不妊の原因が女性側にあったり、不明だったりするケースも一部挙げられますが、主に男性不妊の場合に人工授精の適応となります。

人工授精が向いていないケース

人工授精では、「精子が自力で動いて受精できること」が必要になります。そのため、精子の状態が極端に悪いと、人工授精は勧められません。

たとえば、重度の乏精子症や精子無力症では人工授精は向かないとされ、一般的には人工授精より先の段階の不妊治療が勧められます。

人工授精のメリット・デメリット

人工授精を検討している方は、メリットとデメリットをおさえておきましょう。人工授精のメリットは、以下の通りです

  • ・自然妊娠とほとんど変わらない形で妊娠できる
  • ・体外受精や顕微授精などの生殖補助医療(ART)と比較して、治療費が安い

デメリットとしては、以下のことが挙げられます。

  • ・体外受精に比べて妊娠率はあまり高くない
  • ・カテーテルを使うことによる出血や痛み、感染のリスクがある

これらのメリット・デメリットを理解し、主治医やパートナーとよく相談しながら、人工授精での治療を進めていきましょう。

人工授精の種類

人工授精は、精子の提供者によって大きく2つの種類に分けられます。パートナーの精子を使う「配偶者間人工授精(AIH)」と、パートナー以外から提供された精子を使う「非配偶者間人工授精(AID)」です。

また、精子を注入する部位の違いで以下のように分類されることもあります。

  • ・子宮腔内人工授精
  • ・子宮頸管内人工授精
  • ・腹腔内人工授精
  • ・卵管内人工授精

人工授精というと「子宮腔内人工授精」を指すのが一般的です。

引用元)内閣府 第3章 人口・経済・地域社会をめぐる現状と課題

人工授精までの流れ

不妊治療は、タイミング法→人工授精→体外受精……と、自然妊娠に近いものから高レベルな治療法へとステップアップしながら進めていきます。

タイミング法とは、検査で推定した排卵日に合わせてセックスし、自然妊娠を図る治療法です。不妊治療中の夫婦のほとんどが、人工授精を始める前にタイミング法を半年から1年ほど試します。
しかし、年齢や不妊の原因によっては、タイミング法を飛ばして人工授精や体外受精から治療を開始する場合もあります。

 タイミング法との併用は可能?

人工授精は、検査で推定した排卵日に病院を受診し、人工的に精子を子宮内に注入するため、チャンスは1周期に1回です。そこで、排卵日付近で人工授精を行う日以外にセックスのタイミングを合わせ、妊娠率を上げたいと考える方もいるでしょう。
毎日SEXを行ったとしても、精子の数や運動率が低下することはないため、人工授精とタイミング法を併用することに問題ないでしょう。主治医に確認しておくと安心ですね。

前日のセックスはOK?

前日にセックスしたことで精子の生産が追いつかず、人工授精に影響してしまうケースもないとは言えません。一人ひとり体質は異なるため、一度主治医に相談してみることをおすすめします。

人工授精後の過ごし方

人工授精をしたからといって、自宅で安静にする必要はありません。治療後は、入浴や運動などを含め、普段どおりの生活を送れます。念のため、激しい運動は控えると安心です。

万が一、ひどく体調が悪くなった場合は、病院を受診するようにしましょう。

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人工授精の確率

人工授精での妊娠率は、1周期あたり5~10%です。人工授精を受けるカップルの8割以上は妊娠に至らないとの報告もあり、妊娠率はあまり高いとは言えないでしょう。

また、回数が増えれば妊娠率が高くなるわけではなく、4周期以内に妊娠しない場合、5周期以降の妊娠率は若い女性でも3~5%ほどになります。人工授精で妊娠した人の8割は、4周期以内に妊娠するため、ある程度の回数を行ったら、次のステップに進むかどうかを検討するのが、一般的な流れになります。

人工受精の成功率を上げるには?

人工授精の成功率を上げるポイントは、「心身ともに良い状態で人工授精の日を迎えること」です。

病院での検査によって人工授精に最適な日が決められますので、その日に万全の状態で受診できるように体調を調整しましょう。
特に、ストレスは精子の状態を悪化させたり、受精卵の着床に悪影響を与えたりする可能性があります。仕事の量を調整したり、睡眠時間をしっかり取ったりするなど、夫婦でストレスを溜めない工夫をしてみましょう。

人工授精の費用

人工授精の費用は保険適用になるため、1周期あたり5,460円です。実際には治療方針によって、薬が処方されたり、検査が追加されたりするため、さらに費用が上乗せされると考えるといいでしょう。

2022年4月より人工授精が保険適用となり、経済的な理由で悩んでいた方も、治療を受けやすくなりました。ただし、非配偶者間人工授精は保険適用外になります。

引用元)厚生労働省 不妊治療に関する取組

【専門家が解説】人工受精成功の秘訣

人工授精の副作用や障がい(ダウン症・自閉症など)

人工授精の副作用として、カテーテルを子宮内に入れることによる出血や痛み、感染があげられます。病院によっては、人工授精を行った後に鎮痛剤や抗菌剤を処方することがあります。

また、「人工授精で生まれる子どもは障がいを持つ可能性が高い」と聞いたことがあるかもしれません。不安になるかと思いますが、現在まで「人工授精をすると、ダウン症や自閉症などを持つ子どもが産まれやすい」という明確なデータはありません。

人工授精と自然妊娠では、受精以降の経過に変わりないため、人工授精を受けたカップルの間に障がいのある子どもが産まれる確率は、自然妊娠をしたカップルと同じくらいだと考えられます。

アメリカの人工授精事情

アメリカでは、配偶者以外が関わる不妊治療(非配偶者間人工授精や提供精子・卵子による体外受精など)も積極的に行われています。たとえば、日本では制限されている独身者・同性パートナーへの非配偶者間人工授精も盛んです。
また、有料で精子の提供が受けられる「精子バンク」の数も多く、アメリカ以外からも利用者を集めています。

専門家より

人工授精は、より自然妊娠に近い形での妊娠が期待できる治療方法です。保険適用の対象となり、費用面でも治療を受けやすくなりました。成功の秘訣は、体調を整えて人工授精の日を迎えることにあります。主治医の指導の下、パートナーともよく相談しながら治療に取り組んでいきましょう。

この記事を書いた人

田中 由美

子授かりネットワーク 編集長

この記事を監修した人

中 友里恵