【教えて!胚培養士さん!】第2回:精子について

妊娠に欠かせない精子。胚培養士が精子についての疑問を解説します。

どうしたら元気な精子を増やせますか?

精子の質を上げるにはどうしたらいいですか。どうしたら元気な精子を増やせるでしょうか。

小野寺

先天性のものも含めて、男性不妊に関わる原因がわかる場合もありますので、まずは医師に相談することですが、患者様ご自身で質を高めるために出来ることとして一般的には生活習慣が大切と言われています。

それは男性の場合2~3か月の期間をかけてどんどん新しい精子が作られているためです。
「精子を作るために良い食事やサプリメントの接種」や「適切な睡眠(暗くして眠る、を含む)」に代表されるものです。

避けた方が良いと言われていることもあり、「ストレス」や「禁欲」、「精巣に熱がこもる状態(ぴっちりしたした下着をはく、長時間サウナや湯船につかる、膝上でのパソコン操作)」、「喫煙」、「股間を刺激する長時間の自転車」、「造精機能に影響する可能性がある育毛剤の使用」などが考えられます。

男性も生活習慣がとても重要なのですね。
培養士さんの立場から見て、男性に向けてこれだけは気をつけて!とか、これをした男性は精子の質がよくなっている!といった経験はどんなことがありますか?

小野寺

とても難しい質問だと思います。
個人的な意見になってしまいますが、例えば、複数回採卵をされている方で受精当日精子所見の違いがその採卵周期の受精卵の成長に影響を与えている可能性があると感じたことはあります。

人工授精も含めてですが、採卵当日は朝早くご主人に検体を提出頂くことも多いかと思います。
朝一番のご提出はとても大変だと思いますが、大切な周期一度の機会ですので、なるべくベストな状態で臨んでいただけたらと思います。


また、環境的に院内採精が可能であれば利用いただいたり、ご自宅から持参される場合は各クリニックや病院で指定されている時間内に、特に冬場は容器が冷たくならないように気を付けると良いと思います。

どのような精子が受精に適していると考え、受精させているのですか?

顕微授精では、元気な精子を受精させると思いますが、精子も質のいい精子を見極める何か基準があるのでしょうか。
どのような精子が受精に適していると考え、受精させているのでしょうか。

小野寺

精子の運動性が良く、形がきれいなもの(頭部、頸部(首の部分)、尾部)を選んでいます。

加えて、最近では見た目ではわからない部分(例えば精子頭部にあるDNAの損傷)を新しい方法で精子調整や選別をすることで受精卵の成長を向上させたり、流産率を低下することが期待できる技術が出てきました(Zymotスパームセパレーター、ミグリス、spermslow(PICSI)、nanoparticleなど)。

ただしこれらの技術はまだ新しく、研究段階であるため、なかなか培養結果がうまくいかない方などにとって検討される可能性があるかもしれません。

「精子の調整」というのは具体的に何をするという意味なのでしょうか?

技術も進歩しているのですね。「精子の調整」というのは具体的に何をするという意味なのでしょうか?

小野寺

従来の方法では、細長い試験管のようなものに精液を入れ、遠心機にかけることで遠心力で運動性の良い精子を回収します。

しかし、遠心にかけることで精子へのダメージがある場合があるのではないかとの研究があり、微孔性のフィルターなどを使用した遠心を行わない精子の調整方法が登場しました。

加えて、DNAの損傷がない精子を試薬等を使用して選別する方法で顕微授精に用いる精子を選ぶ方法も行われたりします。

顕微授精では、正常ではなさそうな精子を使う事もありますか?

顕微授精では、正常ではなさそうな精子を使う事もありますか?

小野寺

「正常」の定義が難しいですが、まれに形の良い精子が見当たらない場合は、形の良い精子に近い精子を選ばざるを得ない場合はあるかと思います。

そのような場合でも受精卵が順調に成長し、妊娠出産に至ることはあるため、個人的な感覚にはなりますが、見た目だけではわからない部分があるのかと思います。

胚のグレードと同じく、例えば精子の細かな形の違いが染色体異常などと相関があるというような報告はないと思います。

精子にもグレードのような基準はあるのでしょうか?状態によっては顕微授精を見送ることもあるのでしょうか。

小野寺

精子を選ぶ基準は「運動性と形(頭部、頸部(首の部分)、尾部)が正常なものを選ぶ」ことが一般的に行われていることだと思います。

顕微授精を見送ることは、例えば無精子症の方などで奥様が採卵周期に入る前に検討されることがあるかと思います。

質問を終えて

今回は、精子について専門的なお話をたくさん伺うことができました。

見た目ではわからない部分もあるというのは生命の神秘も感じますし、妊娠に至るには患者さんの体調管理はもちろんのこと、日頃の胚培養士さんの技術と観察力の賜物でもあり、赤ちゃんを望むご夫婦にとってとても心強い存在であると思いました。

小野寺さんありがとうございました。

この記事を書いた人

小野寺 寛典