子どもを望んだとしても、すぐに妊娠できるとは限りません。
2015年の調査によると、不妊を心配したことがある夫婦の割合は35.0%。不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦も18.2%にのぼります。
このコラムでは、妊娠の仕組みや妊娠しやすい人の特徴などを解説し、妊娠しやすい体の作り方をお伝えします。
妊娠の仕組み
まず、妊娠の仕組みをおさらいしましょう。
成人女性の体は、約1か月の周期で脳下垂体と卵巣からのホルモンの刺激を受け、「排卵」と「生理」を繰り返します。
脳下垂体から分泌された卵胞刺激ホルモンの働きによって、卵巣のなかの卵胞が徐々に育ちます。
この間に、卵巣からエストロゲンが分泌され、子宮内膜が厚くなって受精卵を迎える準備を整えるのです。
成熟した卵子が黄体化ホルモンの刺激を受けて、腹腔内に排出されるのが「排卵」です。
排卵後の卵子はグローブのような形をした「卵管采(らんかんさい)」によって卵管の中へと取り込まれ、卵管采の奥の「卵管膨大部(らんかんぼうだいぶ)」で精子が来るのを待ちます。一方、膣内に射精された精子は、子宮頸管、子宮を通り卵管内へ入り込みます。
1回の射精で1~2億個以上の精子が排出されますが、卵管に到達できるのは数十個から数百個です。そのうちのたった1匹が卵子と受精が成立すると、受精卵は分裂しながら子宮へと移動していきます。受精卵が子宮内膜に着床できれば、妊娠の成立です。
妊娠が成立しなかった場合、厚くなった子宮内膜が排出されるのが「生理」です。
生理の初日から次の生理開始前日までの期間を「生理周期」と呼び、25日〜38日が正常周期とされています。
妊娠しやすい時期とは?
妊娠は365日チャンスがあるわけではありません。妊娠しやすい時期は、排卵の前後です。
排卵後の卵子が受精できる期間は、およそ24時間しかありません。
また、女性の体内に入った精子が受精能をもつ期間は72時間〜長くて1週間程度です。
受精が成立し妊娠するためには、性交のタイミングが重要になります。
排卵日の3日前から排卵日翌日までの5日間が、妊娠しやすい時期だといわれています。
中でも最も妊娠しやすい時期は、排卵日の2日前と言われています。卵子よりも精子の生存期間の方が長いので、排卵前に性交を持つことで精子に待ち伏せをしてもらう状況がつくれると妊娠しやすくなります。
このように、妊娠のためには排卵日を知ることが大切です。
- ・基礎体温を記録する
- ・自分の生理周期を知る
- ・市販の排卵日予測検査薬を使う
などを併用しながら排卵日を予測し、排卵日に合わせて数回、性交のタイミングをもちましょう。より正確に排卵日を知りたい場合は、クリニックの経膣超音波エコーで卵胞発育のモニタリングを行うこともできます。
妊娠しやすい人の特徴とは?
妊娠しやすい人とは、「妊娠のためのサイクルが順調に回っている人」といえます。
排卵のための卵巣機能、卵子が通りやすい卵管、受精卵が着床しやすい子宮を持っている人が妊娠しやすいのです。どこかのサイクルにトラブルがあると妊娠に至りません。
生理が順調にあること、生理時の経血の量が多すぎたり少なすぎたりしないこと、排卵が正常に起こっていること、年齢が35歳以下であることなどが、妊娠しやすい人の特徴としてあげられます。
厚生労働省がまとめた2021年の人口動態統計によると、女性の平均初婚年齢は29.5歳、女性が初めての子どもを出産するときの平均年齢は30.9歳となりました。
女性の社会進出とともに晩婚化と晩産化が進んでいますが、子どもを望むなら35歳までに考えておいたほうがよいでしょう。
妊娠しにくい人の特徴とは?
次に、妊娠しにくい人の特徴を詳しく見ていきましょう。
・35歳を過ぎている
女性は35歳を過ぎると急激に妊娠しにくくなります。卵子の元となる卵母細胞は、胎児のときが最も多く約700万個作られます。出生後には約200万個まで減少し、徐々に数が減っていくだけで、新たに補充されることはありません。
つまり、卵子の年齢はその女性の年齢と同じなのです。
そして35歳を過ぎると、妊娠率が下がり、流産率が上がります。
加齢による卵子の質の低下、すなわち卵子の染色体異常や受精後の胚の発育悪化が起きやすくなることが原因だと考えられています。
・太りすぎ、または痩せすぎている
太りすぎはホルモンバランスを崩してしまうため、注意が必要です。
太りすぎの女性の中には、糖や脂質の代謝異常から無排卵になってしまう人や、排卵が行われずに卵巣に未熟な卵胞がたまっていく「多嚢胞性卵巣症候群」になる人もいます。
また、糖尿病になりやすい体質の人も、排卵障害を起こしやすいといわれています。
痩せすぎにも気をつけましょう。脂肪が少ないと脂肪細胞も少ないので女性ホルモンが分泌されにくくなります。
ホルモンの分泌や排卵には体のエネルギーが必要ですが、脳が「栄養不足」と判断し、生命の維持に不要な卵巣の機能を停止して、排卵を止めてしまうのです。急激なダイエットは無月経や無排卵を引き起こす危険があるので、食べないダイエットや激しい運動を毎日行うようなダイエットは控えましょう。
・基礎体温に変化がない
通常、生理から次の生理までの間には、排卵までの低温期と、排卵後の高温期の2つがあります。
しかし、基礎体温に変化がない場合には、生理があっても排卵していない可能性が考えられます。
3ヶ月程度、継続して基礎体温を測るようにすると自分のリズムが把握しやすくなってきます。不安があるときには、早めに医師に相談しましょう。
・自分あるいは家族が喫煙している
女性の喫煙や受動喫煙は、卵巣機能を低下させてしまいます。
妊娠中の喫煙も、胎児の発育に悪影響を及ぼし、早産のリスクや常位胎盤早期剥離など母児の命に関わる病態を引き起こす可能性が高まります。
男性も注意が必要です。喫煙によって精子が作られにくくなったり、勃起不全のリスクが高くなったりすることが知られています。
引用元)大阪市
・性感染症にかかったことがある
クラミジアや淋菌の感染症は初期は無症状のことが多いですが、進行して骨盤内に炎症が起こると腹膜炎を起こします。骨盤内や卵管周囲の癒着を併発すると子宮外妊娠や卵管不妊の原因となるので早期発見・早期治療が大切です。
・開腹手術を受けたことがある
開腹手術を受けたことがある場合、子宮や卵管の癒着や、卵管閉塞が起こり、不妊の原因になることがあります。虫垂炎(盲腸)、腹膜炎、帝王切開、子宮筋腫などの婦人科の手術を受けたことがある方は手術の後遺症に注意が必要です。
・強い生理痛がある
強い生理痛は、子宮内膜症や子宮筋腫がある方に多くみられる症状です。子宮内膜症は不妊につながりやすいため、気になることがあれば早めの受診をお勧めします。子宮筋腫は良性の腫瘍で、筋腫があるからといって不妊の原因になることは少ないですが、筋腫の大きさや位置によっては不妊の原因になることがあります。
・経血の量が変化してきたと感じる
経血の量は、年齢やホルモンの状態、病気などによって変化します。
年齢によって経血量が減ることもありますし、子宮内膜症や子宮筋腫などで出血量が増えることもあります。
また、ダラダラと出血が止まりにくいなど気になる体の変化があり、それが続いているようなら、婦人科を受診しましょう。
私って妊娠しにくい? まずはチェックしてみよう!
自分は妊娠しやすいのか、それとも妊娠しにくいのか、簡単にチェックしてみませんか。
子授かりネットワークでは、女性と男性のそれぞれが、2~3分でセルフチェックできるツールを用意しています。
いくつかの質問に「はい」か「いいえ」で答えるだけなので簡単です。
回答すると、
「簡易チェックでは、不妊の心配はありませんでした」「近くの病院に相談しましょう」といった診断結果と解説が読めます。
妊娠しやすい体の作り方
では、どうすれば妊娠しやすい体になるのでしょうか。
食生活・運動・睡眠・ストレス解消などについて、解説します。
(1)女性編
- ・体重管理を心がける
肥満や痩せすぎは、排卵障害につながります。
妊活のため、また健康維持のためにも、体重管理を心がけましょう。
適正体重は、身長(m)×身長(m)×22で計算できます。
たとえば、身長160cmなら適正体重は
1.6×1.6×22=56.3kgです。
また、肥満や痩せを判断するための指標として使われるのが「BMI」で、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算します。
成人では、BMIが18.5未満ならやせ、18.5以上25未満が標準、25以上が肥満です。
たとえば、身長160cmで体重70kgの人のBMIは
70÷1.6÷1.6=27.3となり、肥満だとわかります。
引用元)厚生労働省 BMI
(2)男性編
- ・長時間のサウナを控える
サウナや長風呂で体温を上げると、精子の数や精子の運動率が低下するとの報告があります。精子は熱に弱いため、妊活中は控えましょう。
- ・ストレスを発散する
ストレスは活性酸素を発生させ、細胞が傷つきやすいので卵子の質の低下や不妊に影響します。また、心身ともにストレスが溜まると無月経や無排卵を起こします。男性もストレスが溜まると精子の運動障害につながります。適度にストレスを発散しましょう。ただし過度なアルコール摂取や喫煙で発散させることは控えましょう。
引用元)広島県ふたりの妊活全力応援 男性の妊活 精子力を高める8つのポイント
(3)カップル編
- ・たばこやアルコールを控える
喫煙は、吸っている本人だけでなく周りの人も妊娠しにくくさせてしまいます。
また、アルコールのとりすぎもよくありません。男性の場合は精子数の減少や勃起不全、女性の場合は卵巣機能に影響することが指摘されています。妊娠後の胎児の成長発達にも影響するので、妊活中から喫煙を行いましょう。
- ・バランスのよい食事をとる
男性も女性も、多くの栄養をバランスよくとることが大切です
女性の場合は、妊活を始めたら妊娠初期に特に必要となる栄養素である「葉酸」を十分にとりましょう。
葉酸は、ほうれん草やレバー、納豆などに多く含まれています。
また、葉酸は胎児の二分脊椎という病気の予防に役立つため、妊活中は食事からの摂取以外にサプリメントなどで400μg摂ることを推奨されています。その際はマルチビタミン配合のものだとさらに吸収が高まります。赤ちゃんの器官形成期を考慮すると妊娠が発覚してから摂るのでは遅く、妊娠をする1か月以上前からの摂取が望ましいです。また女性にとって不足しがちな鉄分も妊娠には重要です。男性は、生殖機能を高める「亜鉛」を補充しましょう。亜鉛を多く含む食べ物は、牡蠣、うなぎ、豚レバーなどです。魚やきのこに含まれるビタミンDは受精卵の着床率をあげるという報告もあり、不妊治療の施設では摂取を進めるところも多いです。
- ・適度な睡眠をとる
適度な睡眠は、体力を回復させ、ストレスを解消させてくれます。睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンは抗酸化作用が強く、卵子や胚の質を高めてくれるホルモンとして妊活中にサプリとして取り入れられることもあります。朝起きたら太陽を浴びたり、寝る直前にスマホやテレビををみることは避けていただくことで分泌されやすくなります。
- ・適度な運動をする
適度な運動は、ストレスを発散するだけでなく、体重管理にも役立ちます。
手軽にできるウォーキングやストレッチ、自宅での筋トレなどがおすすめです。適度な有酸素運動はミトコンドリアの活性を促します。ミトコンドリアが活性化することでエネルギーが作られ代謝が上がり、卵子の質を高めてくれる効果があります。
引用元)広島県2人の妊活全力応援 女性の妊活 妊活中に気をつけたいポイント
検査のすすめ
もしかして不妊かもと悩んでいる、セルフチェックで「はい」がいくつかあった、いつもと経血の量が変化したなど、気になることがある人は早めに医師に相談し、検査を受けましょう。
生理痛や性交痛、生理以外の出血などは、子宮や卵巣の病気のサインかもしれません。
妊娠前の検査が早めの治療につながり、早めに妊娠できる可能性へとつながるでしょう。
妊娠に必要な項目を集めたブライダルチェックは簡単に受けることができるので、妊娠を考え始めたら近くのクリニックに検査を受けに行っても良いでしょう。妊娠前に風疹抗体があるかを調べておくことも大切です。
風疹は、成人がかかると症状が重くなることがあります。また、妊娠初期の妊婦さんに感染させてしまうと、生まれてくる赤ちゃんの目や耳、心臓に障害が起きることがあります。抗体がない場合は、ワクチンを打つことで予防ができます。昭和37年度~昭和53年度生まれの男性に、お住まいの自治体から、原則無料で風しんの抗体検査と予防接種を受けていただけるクーポン券をお送りしています。
この年代の男性は、過去に公的に予防接種が行われていないため、自分が風疹にかかり、家族や周囲の人たちに広げてしまうおそれがあります。女性も同じく予防が必要ですので、自治体からの無料クーポンや助成があるかどうか問い合わせてみると良いでしょう。
専門家から
妊娠できる人の特徴や妊娠しやすい体の作り方について解説しました。日常生活から見直すことで妊娠しやすい体に変えていくことは可能です。健康的な体作りが妊娠しやすい体作りになるので、ぜひ楽しみながら行えると良いですね。妊活中から心身を整えておくと、妊娠生活や子育てにも役立ちますよ。
妊娠には、2人の協力が欠かせません。2人で一緒に妊娠に向き合うことが、家族の絆をより一層、強くしてくれることでしょう。