新技術で80%の確率で男女産み分けを可能に

不妊治療を受けるカップルは、80%の確率で子どもの性別を選べるようになる可能性があるかもしれない。精子を選別する技術はこれまでにもいくつか試されてきたが、重量で分類する新たな方法は、これまでの方法に比べてはるかに精度が高く安全であると研究者らは報告している。米ワイルコーネル・メディスン教授のGianpiero Palermo氏らによるこの研究結果は、「PLOS ONE」に3月22日掲載された。

 今回の研究では、顕微授精(ICSI)と着床前診断を受ける1,317組のカップル(母親の平均年齢37.1±4歳、父親の平均年齢39.2±6歳)が対象とされた。このうち、子どもの性別について希望のあった105組に対しては、多層の密度勾配による分離(サイズの異なる粒子を重量によって分離させる)を用いた精子選別により性別を選んだ上でICSIを行った。

 Palermo氏はこの手法について、「われわれは高密度媒質の中で精子を泳がせた。これは、重量の軽い精子は浮上し、重い精子は下へ沈むという極めてシンプルな考え方に基づくものだ」と説明する。同氏によると、X染色体を有する精子は、Y染色体を有する精子よりもわずかに重いという。

 着床前診断では、全カップルで受精卵(胚)の染色体異常の有無を調べた。また、子どもの性別に希望のあった105組のカップルでは性別のスクリーニングも行った。その結果、女児を希望した59組のカップルでは、検査した胚の79.1%が女性胚であった。一方、男児を希望した46組のカップルでは、胚の79.6%が男性胚であった。

 精子を選別して生まれた子どもに、3歳の時点で発達遅延は認められていないという。Palermo氏は、「精子はよく運動し、選別によって精子の形状が損なわれることはなかった。これまでのところ生まれた子どもの健康に問題は認められておらず、非常に心強い」と述べている。将来的には不妊治療の必要がないカップルも、この技術を利用できるようになる可能性がある。同氏によれば、すでに不妊治療を受けるカップルは、移植前に胚の性別を知っていることが多いという。

 今回の研究には関与していない、米コロンビア大学不妊治療センターのAlex Robles氏によると、これまでの性選別の技術には一貫性がなく、安全性に懸念があったという。同氏は、「今回の研究は、運動性のある精子とない精子の分離に用いられる密度勾配の技術をさらに一歩進め、精子がX染色体とY染色体のどちらを有するかによって区別できるようにしたものだ」と説明している。

 同じく本研究には関与していない、米ニューヨーク大学グロスマン医学部の生命倫理学者であるArthur Caplan氏は、「男女の産み分けについては倫理的な配慮が必要だ」と指摘する。同氏は、「家族構成のバランスや、血友病などの性別に関連する遺伝性疾患の回避など、産み分けの正当な理由として認められるものもある。しかし、男女の産み分けは、ともすると危険な方向へ進みかねない。技術の進歩に伴い、身長や目の色、性的嗜好などの特性までもが選択肢として提供されるようになるかもしれない。また、社会の不均衡や男女比の変化が現実的な問題となる可能性もある」と警告している。