不妊治療でよく聞く言葉のひとつに「胚のグレード」と言うキーワードがあります。この言葉は一般的になかなか耳にすることが少なく、情報や質問もしずらいとの声が多いのが実情です。今回は専門家の胚培養士さんに胚のグレードについて、わかりやすく解説していただきました。
質問:胚のグレードとはなんですか?
胚のグレードとはなんですか?
胚のグレードとは、受精卵の状態を見た目で判定するものです。
卵子と精子のどちらかの質が低ければ、受精卵ができてもグレードも下がってしまうのでしょうか?
その可能性もありますし、年齢によるところもあると思います。ただ、卵子や精子の質が低かったり年齢が高い場合でも、グレードの良い受精卵ができることもあるので、育ててみないとわからないというのが実際のところだと思います。
胚のグレードの意味を教えてください。
胚のグレードの意味を教えてください。
おおよその妊娠率の参考になったり、複数の受精卵がある際にグレードによって順位付けされることで、どの受精卵から子宮に戻すか?といった医師と患者様の相談の際に参考にされたりします。
あくまでも見た目の評価であり、細胞の数や大きさに「明確な基準」があるわけではありません。これまでは人が見てグレードをつけてきましたが、最近では人による「差」がないAIによるグレーディングも登場しています。
AIがグレードをつける施設もあるのですね。 AI が基準をつけるとしたらどのような項目を見て「良いグレード」としているのでしょうか?
従来のような細胞の数や大きさに加えて、「タイムラプス」のシステムを利用した成長のスピードや細胞分裂の仕方なども考慮されているようです。
正確な項目については公開されていないこともありますが、100項目近いチェックポイントがあるとも言われています。
質問: 胚のグレードの基準はどんなものですか?
胚のグレードの基準はどんなものですか?
受精卵の細胞の数やそれぞれの大きさなどで判定されます。
受精卵の細胞の数が多い方が妊娠率は上がるのでしょうか?
質問: 胚のグレードの判断基準とはどんなものがあるのですか?
胚のグレードの判断基準とはどんなものがあるのですか?
一例としては、「グレード1~5までの5段階」、「グレードA~Cの3段階」などがあります。
受精後、初期の受精卵では8cellG1などと表記される「Veeck(ヴィーク)分類」や培養後期の胚盤胞という状態では4AAなどと表記される「Gardner(ガードナー)分類」などがあります。
Veeck(ヴィーク)分類では①細胞の数②細胞1つ1つの大きさの均等性③受精卵にみられるつぶつぶとしたフラグメンテーションの量が判断基準となります。
Gardner(ガードナー)分類では①胚盤胞の大きさ②将来赤ちゃんになる部分の細胞の多さ③将来胎盤になる部分の細胞の数の多さが判断基準となります。
胚のグレードが低い受精卵しか育たなかった場合も、必ず移植するのでしょうか?どの受精卵を戻すのか、あるいは戻さないのかは患者さんも選択ができるのでしょうか?
基本的には妊娠の可能性がある受精卵を移植することになりますが、医師と相談の上どの受精卵を戻すのか決めることになると思います。
例えば初期胚と胚盤胞では、胚盤胞の妊娠率が高いですが、胚盤胞まで育てるということは胚盤胞にならない可能性もあるといえます。
一般的には正常に受精した卵のうち約半数が胚盤胞になると言われていますが、1つも胚盤胞にならない方もいらっしゃいます。
全て胚盤胞まで育てて結果的に1つも胚移植に至らないということを防ぐために初期胚で移植する選択をされる方もいらっしゃるかもしれませんし、なるべく高い妊娠率の治療を受けたいということで胚盤胞を目指す方もいらっしゃると思います。
初期胚で移植する場合は早めに子宮に戻すことで、お腹の中での成長に期待するという方法になるかと思います。
胚のグレードによる妊娠率や染色体異常の確率との関係はありますか?
胚のグレードによる妊娠率や染色体異常の確率との関係について教えてください。
そうなんですね。では、胚のグレードが低い場合は妊娠率のみを考えて、移植の有無を決めたら良いのでしょうか。
医師と相談の上ではありますが、妊娠率から逆算してグレードの良い胚盤胞がいくつか貯まるまで採卵を続け、その後移植に進むことも行われていたりします。
移植時の年齢ではなく採卵時の年齢が妊娠率に影響するためです。
しかし、患者様のご希望やなかなか移植に至らない場合はグレードの低い胚盤胞、初期胚を移植することもあるのかと思います。
2022年4月より始まった不妊治療の保険適応によって、変わってくる部分もあると思います。
胚のグレードを上げるためにどんなことをすればいいですか?
胚のグレードを上げるためにどんなことに取り組めばいいでしょうか?
培養士(私個人)の立場から考えられることとして、
①同じ卵巣刺激でも、周期による卵子の質の差
②採卵当日の精子所見(普段より良かったり悪かったり)
③卵巣刺激方法(使う薬剤の種類、量)
④精子の調整方法(より精子にとってダメージの少ない調整方法やDNAの断片化が起きていない精子の選別など)
⑤培養環境(使用する培養液なども含む)
この辺りが影響する可能性は考えられると思います。
①②に関しては患者様側で出来ることがあるかもしれないし、そうではないかもしれません。③④⑤に関しては病院側ですが、これが必ず良いグレードに結びつくと言い切れるわけではないのかと思います。
もちろん医師の腕(卵巣の状態を適切に評価すること、採卵移植の手技や方法など)、培養士の腕(顕微授精をはじめとする技術面はもちろん受精卵が培養される温度やpHを気にかける、卵子や精子、受精卵を空気に触れる時間を出来るだけ少なく丁寧に操作を行える)も影響を与える可能性はあります。
毎回グレードが安定するわけではないのですね。
胚のグレードについて患者さんごとに医師と胚培養士がプランを立てたり話し合ったりすることはあるのでしょうか?
はい。育った卵胞が採卵で全て回収でき、未熟卵がなく、全ての卵が正常に受精し、順調に育つことはデータから見てもなかなか難しいことだと思います。
胚のグレードについて患者様からご希望があり、医師から個別に指示があることは考えられますが、なかなかうまく育たない方がやはり当てはまるかと思います。
グレードの良い卵を移植しても着床しない「着床の窓」があるそうですが、検査すべきでしょうか?
着床の窓に「ズレ」がある方は多くはないかもしれませんが一定数いらっしゃり、「ズレ」に合わせて移植することによって妊娠に至る方もいらっしゃると思います。
着床の窓を調べる検査は現状(2022年4月)時点では保険適応ではなく先進医療として認められているため、なかなか着床に至らない方など検査は行えますが高額です。医師と相談の上、検査を受けることは選択肢には入ると考えられます。
ご経験の中で、受精卵はとても良いのになかなか妊娠に至らない方は着床の窓と関連していることが多いのですか?
もちろんその場合もあると思いますし、その他着床不全の因子をお持ちの方もいらっしゃると思います。その他の原因があるかもしれません。
医師の判断でその点を精査したり、培養側では着床に有用な可能性がある成長因子が含まれた移植用培養液の使用などが検討される場合もあります。