多嚢胞性卵巣症候群の症状と治療法

多細胞嚢性卵巣症候群(PCOS)は、女性の月経異常や排卵障害、男性ホルモン増加に関連する症状を考える病気です。 放置すると不妊や代謝障害を考慮するリスクがあるため、早期の診断と適切な治療が重要です。この記事では、PCOSの症状や原因、治療方法について詳しく解説します。

多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS)とは

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、卵巣内で卵細胞が成熟しないことで月経異常や排卵障害を考える病気です。日本を含む多くの国で若い女性に見られる疾患で、ホルモンバランスの乱れPCOSについて正しく、適切な対策をとるために、症状の改善や合併症の予防が期待できます。

多嚢胞性卵巣症候群PCOS)の症状とは

多嚢胞性卵巣症候群 (PCOS)は、思春期から性成熟期(20代〜45歳)にかけての女性に多く見られる病気で、女性の約5〜10%にみられます。PCOSの主な症状は、月経異常(無月経、希発月経、不正出血など)です。これは、卵巣内で卵胞の成長が途中で止まり、多くの小さな卵胞が卵巣内にとどまってしまうことで、排卵がうまくいかなくなるために起こります。

また、男性ホルモンの影響で、多毛、ニキビ、肥満、血糖値上昇などの症状が現れることもあります。一方で、日本においては痩せ型の患者も多いです。PCOSは、放置すると子宮体がんやメタボリックシンドロームなどのリスクが高まるとされています。

多嚢胞性卵巣症候群PCOS)の診断基準について

日本では、日本産科婦人科学会の診断基準に基づいてPCOSと診断されます。以下の3つの条件をすべて満たした場合に、PCOSと診断されます。

  • 月経異常: 稀発月経(周期が39日以上3ヶ月以内)、無月経(薬を服用しなければ月経が発来しない)、排卵をしない月経
  • 多嚢胞性卵巣またはAMH高値: 超音波検査で卵巣内に発育していない卵胞がたくさん見られる。
  • ホルモン異常: 血液検査で男性ホルモン(アンドロゲン)過剰症や黄体化ホルモン(LH)が高値になる。

多嚢胞性卵巣症候群PCOS)の原因となる要因

PCOSの原因は完全には解明されていませんが、脳下垂体から分泌されるホルモンと卵巣から分泌される女性ホルモンのバランスが崩れ、排卵が障害されることが原因の一つと考えられています。

具体的には、以下の要因が考えられています。

  • LH(黄体形成ホルモン)過剰分泌: LHが過剰に分泌されると、排卵がうまくいかなくなります。
  • 高インスリン血症: インスリン抵抗性により高インスリン血症の状態が続くと、男性ホルモンが増加し、卵胞の発育を抑制します。
  • 遺伝的要因: PCOSは家族内で発症する傾向があり、遺伝的要因も関わっていると考えられています。

多嚢胞性卵巣症候群PCOS)の影響と合併症

PCOSは、放置すると様々な影響や合併症を引き起こす可能性があります。

  • 不妊: 排卵障害により、妊娠しにくくなります。
  • 子宮体がん: エストロゲンの影響で子宮内膜が増殖し続け、子宮体がんのリスクが高まります。
  • メタボリックシンドローム: インスリン抵抗性、高血圧、脂質異常症などが合併し、心血管疾患のリスクが高まります。
  • 2型糖尿病: インスリン抵抗性により、2型糖尿病を発症するリスクが高まります。
  • 閉塞性睡眠時無呼吸症候群: 肥満により、閉塞性睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まります。
  • 非アルコール性脂肪性肝疾患: PCOSは軽度の慢性炎症と関連しており、非アルコール性脂肪性肝疾患のリスクが高いです。
  • 精神的な影響: 月経不順や不妊、外見の変化などにより、精神的なストレスを抱えやすくなります。

多嚢胞性卵巣症候群PCOS)と不妊の関係

PCOSは、排卵障害が起こるため、不妊症の一般的な原因の一つとなっています。排卵が起きないと、卵子と精子が受精することができず、妊娠が成立しません。

多嚢胞性卵巣症候群の症状と治療法

引用元)日本産科婦人科学会 多囊胞性卵巣症候群に関する全国症例調査の結果と本邦における新しい診断基準(2024)について

多嚢胞性卵巣症候群PCOS)の治療法

PCOSの治療法は、妊娠を希望するかどうか、また症状の種類や程度によって異なります。ライフスタイルの改善から薬物療法、ホルモン療法まで、個々の状況に応じた治療が必要です。治療の選択肢について詳しく解説します。

ライフスタイルの改善

PCOSの治療において、特に肥満がある場合には、まず減量と運動療法を行います。体重が正常域に戻るだけで、自然排卵して妊娠できることがあります。減量は、インスリン抵抗性の改善、男性ホルモンの減少、月経周期の規則化、妊娠率の向上などに効果が期待できます。

薬物療法の選択肢

PCOSの治療には、症状の緩和や排卵を抑えるための薬物療法が有効です。 薬物療法は、妊娠を希望する場合やホルモンバランスを整える目的に応じて異なる薬が選択されます。 PCOSの治療に用いられる主な薬物の種類とその働きについてご紹介します。

排卵誘発剤

妊娠を希望する場合、排卵誘発剤を使用して排卵を促します。

  • クロミフェン: 脳の視床下部を刺激して排卵を促す飲み薬です。
  • レトロゾール: 卵巣でのエストロゲン産生を抑え、間接的にFSHの分泌を促進する飲み薬です。
  • FSH製剤: 卵胞の発育を促す注射薬です。

クロミフェンやレトロゾールで効果がない場合、または副作用が強い場合は、FSH製剤による治療を行います。PCOSでは卵巣が過剰に反応して、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)多胎妊娠のリスクが高まることがあるため注意が必要です。

メトホルミン

インスリン抵抗性がある場合、糖尿病の薬であるメトフォルミンが使用されます。メトフォルミンは、インスリン抵抗性を改善することで、排卵障害の改善、月経周期の規則化、男性ホルモンの減少などに効果が期待できます。排卵誘発剤として使用する場合は保険適応外となります。

スピロノラクトン

男性型多毛症の治療には、男性ホルモンの作用を阻害するスピロノラクトンが使用されることがあります。

ホルモン療法によるアプローチ

妊娠を希望しない場合は、ホルモン療法で月経周期を調整します。

  • 低用量ピル: エストロゲンとプロゲステロンを配合した薬で、月経周期を規則的にし、子宮内膜増殖症や子宮体がんのリスクを抑制します。
  • 黄体ホルモン: 排卵がない場合でも、黄体ホルモンを服用することで月経を起こし、子宮内膜をリセットします。

手術が必要な場合

薬物療法で効果がない場合は、腹腔鏡下卵巣多孔術という手術が行われることがあります。これは、腹腔鏡を使って卵巣に小さな穴を複数あけ、排卵を促す手術です。

代替療法と自然療法

漢方薬

漢方薬は、他の治療法との併用療法として使用されることがあります。代表的な漢方薬には、以下のものがあります。

  • 当帰芍薬散: 冷え性や貧血、月経不順などに効果があるとされています。
  • 加味逍遙散: ストレスやイライラ、のぼせ、月経不順などに効果があるとされています。
  • 温経湯: 冷え性や月経不順、更年期障害などに効果があるとされています。
多嚢胞性卵巣症候群の症状と治療法

引用元)日本内分泌学会

多嚢胞性卵巣症候群PCOS)管理のための生活習慣

PCOSの症状管理には、食生活や運動などの日常的な生活習慣の改善が大きな役割を果たします。健康的な体重管理、栄養バランスのとれた、適度な運動は、ホルモンバランスの改善やインスリン抵抗性の軽減に役立ちます。ここでは、PCOSの管理に役立つ生活習慣とその具体的なポイントを紹介します。

食事プランと栄養管理

  • インスリン抵抗性を改善するため、低GI食品を積極的に摂取し、糖質の過剰摂取を控えることが大切です。
  • 野菜、きのこ、海藻などを積極的に摂取し、食物繊維を多く摂るようにしましょう。
  • 良質なタンパク質を摂取し、筋肉量を増やすことも大切です。

運動とフィットネスの重要性

  • 適度な運動は、インスリン抵抗性の改善、減量、ストレス解消などに効果があります。
  • ウォーキングやヨガなど、無理なく続けられる運動を見つけましょう。

ストレス管理と精神的健康

  • ストレスはホルモンバランスを崩し、PCOSの症状を悪化させる可能性があります。
  • リラックスできる時間を作ったり、趣味を楽しんだりするなど、ストレスを解消する方法を見つけましょう。

体重管理と多嚢胞性卵巣症候群PCOS)

  • 肥満は、PCOSの症状を悪化させるだけでなく、合併症のリスクも高めます。
  • 食事療法や運動療法などを通して、適正体重を維持することが大切です。

定期的な健康チェックの重要性

  • PCOSは、子宮体がんやメタボリックシンドロームなどのリスクを高めるため、定期的な健康チェックが重要です。
  • 月経周期や体重の変化、体調の変化などに注意し、気になることがあれば、早めに医療機関を受診しましょう。
多嚢胞性卵巣症候群の症状と治療法

多嚢胞性卵巣症候群PCOS)に関するよくある質問

PCOSは女性に多く見られる疾患で、症状や治療法に関して多くの疑問が寄せられています。ここでは、「PCOSは治るのか」「妊娠を希望する場合の対策」など、PCOSに関するよくあるもの質問に答えて、安心して治療に取り組むためのヒントを伝えます。

PCOSは治るのか

PCOSは、完治する病気ではありません。しかし、適切な治療と生活習慣の改善によって、症状をコントロールし、合併症を予防することは可能です。

PCOSとうまく付き合う方法

  • 正しい知識を身につける: PCOSについて正しく理解することで、不安やストレスを軽減することができます。
  • 医師と相談する: 治療法や生活習慣の改善について、医師に相談し、自分に合った方法を見つけることが大切です。
  • ライフスタイルを改善する: 食事、運動、ストレス管理など、生活習慣を見直し、健康的な生活を心がけましょう。
  • 自分を責めない: PCOSは自分のせいではありません。自分を責めずに、前向きに治療に取り組むことが大切です。
  • サポートグループを活用する: 同じ悩みを持つ人と交流することで、情報交換や心の支えを得ることができます。

妊娠を希望する場合の対策

  • 早めに医療機関を受診する: PCOSと診断されたら、早めに不妊治療専門の医療機関を受診しましょう。
  • ライフスタイルを改善する: 減量や運動など、ライフスタイルの改善は、妊娠率を高めるために重要です。
  • 医師の指示に従って治療を受ける: 排卵誘発剤やホルモン療法など、医師の指示に従って適切な治療を受けましょう。
  • 焦らずに治療を続ける: 妊娠には時間がかかる場合もあります。焦らずに、医師と相談しながら治療を続けることが大切です。

他の疾患との関係

PCOSは、以下の疾患と関連があることが知られています。

多嚢胞性卵巣症候群の症状と治療法

まとめ

PCOSは、女性の健康に様々な影響を与える病気ですが、適切な治療と生活習慣の改善によって、症状をコントロールし、合併症を予防することができます。

PCOSと診断されたら、医師と相談し、自分に合った治療法や生活習慣の改善方法を見つけましょう。

助産師より

PCOSは妊娠適齢期の女性に多く見られ、なかなか自然妊娠に至らず受診をした結果、わかることもあります。また、2人目不妊で受診をして発覚することもあります。PCOSであっても自然妊娠は可能なので、1人目の妊娠が自然妊娠の方だと気づかない方もいるのです。自覚症状がある方はもちろん、なかなか妊娠しないなと感じてる方、排卵検査薬が陽性にならない方などは、一度受診をされると安心かと思います。自分の体とうまく付き合いながら健康管理をしていきましょう。

この記事を書いた人

田中 由美

子授かりネットワーク 編集長

この記事を監修した人

中 友里恵