赤ちゃんができたとわかったとき、ご家族には大きな喜びとともに、不安も押し寄せてくるかもしれません。
おなかの赤ちゃんは元気だろうか、病気はないだろうか。それを知るための検査が出生前診断です。
今回は、出生前診断について、またその中でも注目を集めている新型出生前診断(NIPT)について解説します。
出生前診断とは?
赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいる間に、病気や異常の有無などを調べる検査を 出生前診断 といいます。
出生前診断の目的は、胎児の状態を確認して必要に応じた治療を行うこと、そして赤ちゃんが生まれたあとの治療の準備をすることです。
引用元)兵庫医科大学 出生前診断についてキチンと知っていますか?
出生前診断にはいろいろな種類がある
出生前診断のための検査には、大きく分けて超音波を使って 形態異常 を調べるものと、 染色体異常 を調べるものの2種類があります。
形態異常を調べる検査
超音波( エコー )を使って、胎児の脳や心臓、消化器などの形態異常(正常な形から外れて見える状態)の有無を調べる検査です。高性能の超音波診断装置を使って時間をかけ、ていねいに胎児の全身をチェックします。
胎児の形がある程度はっきりする、妊娠10週以降から受けられます。
染色体異常を調べる検査
染色体 とは、細胞の中にある遺伝子が含まれた構造体です。母親由来と父親由来の染色体が2本で1対になっていて、ヒトの正常な細胞には23対(計46本)の染色体が入っています。
染色体数が通常より多くなったり、染色体に欠損が生じたりなどするのが 染色体異常 です。このうち、通常1対2本の染色体が3本ある状態を トリソミー といいます。
染色体異常による疾患として、21番染色体のトリソミーである ダウン症候群 などが知られています。
赤ちゃんが生まれてくる前に異常や病気があるかどうかを知ることが、胎児の染色体異常を検査する目的です。
この検査には、診断が確定できない検査( 非確定検査 )と診断が確定できる検査( 確定検査 )の2種類があります。
非確定検査
非確定検査は、母体や胎児への負担が少ない検査です。
胎児の染色体異常が発生しやすい状態にある妊婦さんが、この先の確定検査を受けるべきかどうかを考えるための検査とされています。
- ・母体血清マーカー検査
妊娠15~18週に妊婦の血液を採取し、血液中に含まれる胎児や胎盤由来のタンパク質( 血清マーカー )を解析します。3種類の成分を調べるものを「トリプルマーカーテスト」、4種類の成分を調べるものを「クアトロテスト」といいます。
どちらも、胎児の21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー(エドワーズ症候群)、二分脊椎(背骨の形成に異常が起きた状態)の可能性があるかがわかる検査です。
- ・コンバインド検査
妊娠11~13週に、 母体血清マーカー検査 と 超音波検査 を組み合わせて行う検査です。胎児の21トリソミーと18トリソミーの可能性を評価するために行われます。
- ・新型出生前診断(NIPT)
2013年に日本で導入された 新型出生前診断 ( NIPT )は、従来の検査に比べて精度が高いため、注目が集まっています。この後、詳しく解説します。
引用元)関西医科大学附属病院 妊娠初期コンバインド検査
確定検査
確定検査は、胎児の染色体そのものを調べて、疾患の有無を確実に診断するための検査で、染色体疾患だけでなく遺伝子疾患全般の診断が可能です。
しかし、妊婦さんのおなかに針を刺して細胞を採取するため、 流産 や 破水 、 出血 、母体の血管や内臓が傷つくなどのリスクがあります。
- ・絨毛検査
妊娠11~14週に、妊婦さんのおなかから針を刺し、絨毛組織の細胞( 胎盤 を形成する組織のひとつで 胎児 由来の細胞)を採取し、培養して行う検査です。 流産 のリスクは1%前後といわれています。
- ・ 羊水 検査
妊娠15~18週に、妊婦さんのおなかに針をさして羊水を採取し、羊水に含まれる胎児の皮膚や粘膜などの細胞を培養して行う検査です。
流産のリスクは0.1〜0.3%といわれています。
引用元)あいち小児保健医療総合センター 出生前診断を検討しているご夫婦へ
厚生労働省 出生前検査に関する実態調査研究事業報告書
慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト 羊水検査 羊水検査の方法 羊水検査の安全性
新型出生前診断(NIPT)とは?
非確定検査のうち、近年関心が高まっているものが新型出生前診断(NIPT)です。
NIPTは「無侵襲的胎児遺伝学的検査(Non-Invasive Prenatal genetic Testing)」の略で、「母体血を用いた出生前遺伝学的検査」と呼ばれることもあります。
どんな検査?
妊婦さんの血液には、胎児の遺伝子の断片が含まれています。NIPTではこの断片の遺伝子配列を読み取り、何番の染色体にある遺伝子かを判定します。
そして、染色体ごとの遺伝子断片量を比較して、胎児の染色体数の異常を診断するのです。
NIPTは妊婦と胎児のどちらにも傷をつけることなく、赤ちゃんの染色体異常を高い精度で検出します。
対象となる染色体疾患は、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミー(パトウ症候群)の3つです。
どんな人が受けるの?
NIPTを受けるのは、主に次のような妊婦さんです。
- ・高年齢の妊婦
- ・ 母体血清マーカー検査 や 胎児超音波検査 で、胎児に染色体異常がある可能性が指摘されている
- ・過去に染色体異常の子どもを妊娠・出産したことがある
- ・両親のいずれかの染色体に特異な部分があり、胎児が 13トリソミーまたは 21トリソミーになる可能性がある妊婦 など
しかし、遺伝カウンセリングを受けても不安がある場合には、すべての妊婦さんがNIPTを受けられます。
受けられる時期は?
妊娠10~15週での検査が原則とされています。病院によって異なる場合があるため、事前にホームページなどで調べておくと安心です。
検査の精度
他の検査と比べると NIPT の精度は高く、疾患のある赤ちゃんの母親の血液を検査して陽性となった割合は、21トリソミーで99.1%、18トリソミーで100%、13トリソミーで91.7%です。
検査費用
日本ではNIPTの検査に健康保険が適用されず、自費診療となります。
病院によって費用は異なりますが、10万円から20万円前後です。
海外の新型出生前診断(NIPT)事情は?
2011年にアメリカのシーケノム社によって開発、商品化された 出生前検査 が NIPT です。
イギリスやドイツ、スウェーデンなどでは、各国が設けている条件に合う妊婦さんが公的補助制度を使ってNIPTを受けられるようになっています。
イギリスでは、国民保健サービスの病院では自己負担なし、あるいは350ユーロ(約42,000円)で提供しています。民間クリニックでNIPTを受ける場合は、自己負担です。
ドイツでは、妊婦健診や分娩費用はすべて自己負担なく提供されており、2020年末からNIPTも公的保険の対象となりました。
スウェーデンでは、地域によって方針が異なるものの、一部地域では対象となる妊婦さんは自己負担なくNIPTを受けられます。
これらの国でも基本的な対象疾患は21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの3つですが、一部の地域ではターナー症候群やクラインフェルター症候群など、性染色体の検査も提供しています。
引用元)厚生労働省 出生前検査に関する実態調査研究事業報告書
新型出生前診断(NIPT)はどこで受けられるの?
日本では、2022年7月からNIPTの実施医療機関や検査分析機関の新しい認証制度がスタートしました。
認証施設
認証施設は、日本医学会の出生前検査認証制度等運営委員会の認証を受けている施設のことです。中核となる「基幹施設」として169施設に加え、検査を実施する「連携施設」として204施設が認証されました。合計373施設で NIPT の検査や相談が可能です。
これにより、前制度(母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)に関する指針)で認定施設がなかった7県を含め、すべての都道府県に認証施設ができました。
基幹施設には産婦人科専門医と小児科専門医が常勤しており、検査後に妊婦さんの希望があれば羊水検査の実施も可能です。
連携施設では産婦人科専門医が常勤しており、必要に応じて基幹施設との連携を行います。
これらの認証施設では21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーの検査のみを提供しており、検査を受けるかどうか迷ったり、検査によって胎児に障害が見つかったりしたときなどに、遺伝カウンセリングを受けられる体制が整っています。
引用元)認証基幹施設・連携施設⼀覧
認証外施設
認証外施設は、日本医学会の認証を受けていない施設のことです。前制度では、2020年11月時点で非認定施設が128施設ありました。非認定施設では、認定施設では実施していない、胎児の性別や、染色体や遺伝子の詳細な検査などを提供しているところもありました。
検査だけを行い、遺伝カウンセリングを行わない病院もあったため、新たに認証制度が設けられたのです。
新制度においても、十分に検討したうえで病院を選ぶようにしましょう。
引用元)厚生労働省 国内におけるNIPT受検に関する実態調査の施設アンケート調査報告書 検査対象疾患
新型出生前診断のメリット・デメリット
NIPTのメリットとデメリットを見てみましょう。
新型出生前診断のメリット
- ・胎児へのリスクがない
妊婦さんの腕からの採血で検査ができるため、流産のリスクがなく安全です。
- ・妊娠10週から検査できる
母体血清マーカー や コンバインド検査 は妊娠11週以降の検査となりますが、 NIPT は妊娠10週から検査可能です。胎児の状態を従来の検査よりも早く知ることができます。
- ・検査精度が高い
従来の検査よりも正確に染色体異常の可能性を発見できます。
新型出生前診断のデメリット
- ・確定診断ではない
胎児の細胞を採取しての検査ではないため、検査結果はあくまでも疾患のリスクが高いか低いかを示すものにすぎません。
胎児に染色体疾患があるかないかを確定するためには、羊水検査を行う必要があります。
- ・費用が高め
健康保険が適用されないため、検査費用は約10万~20万円と高めになります。
- ・施設によっては十分なフォロー体制のない場合がある
認証施設では、検査後の遺伝カウンセリングをすべて対面で提供しています。
以前の非認定施設では、検査前のカウンセリングが不十分であったり、検査結果についての正確な情報提供がなく妊婦さんが不安になって別の病院に相談し直したりと、不利益をこうむる事例が報告されています。
検査の流れ
認証施設での一般的な検査の流れは、次のようになります。
(1)認証施設で検査を予約する
(2)検査前遺伝カウンセリングを行う
(3)採血を実施する
(4)結果報告(検査後遺伝カウンセリング)を行う
検査結果が出たあとは?
NIPT の結果は、胎児の染色体疾患の可能性を示すものであり、確定の診断ではありません。
もしも陽性だった場合には確定診断に進み、生まれてきた赤ちゃんにどのような環境を用意するのかをカウンセラーや家族と一緒に、じっくりと考えていく必要があります。
注意することは?
NIPTで陽性となった場合、妊娠を中断する率は78.2%と、かなり高い割合になっています。
21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーのいずれも、数多くある疾患のうちのごく一部にすぎません。
先天性の疾患は悪いもの、排除するべきもの、という考えが広まって安易に子どもの生命を選別することを危惧する声が上がっています。
母体も胎児も傷つけることのない検査であるため、気軽に受けてしまいがちですが、本当に必要な検査なのかどうか十分に考えてみる必要があるのかもしれません。
助産師より
NIPT検査は年齢の縛りがなくなり、誰でも検査を受けやすくなりました。しかし、赤ちゃんに病気が見つかった場合、妊娠の継続の有無や、どのように赤ちゃんを迎える準備を行っておくのかなどよく話し合っておかないと、とても苦しい思いをしてしまうご夫婦もいます。
また、認証施設では、医師やカウンセラーに事前に聞かれることも多いです。何となく受けておこうかな、、と軽い気持ちで受ける検査ではないということです。一方でNIPT検査を受けておいてよかった。安心して妊娠生活を送れましたと話される方もいます。
以前は羊水検査など母胎への負担が大きい検査しかなかったので、NIP T検査をして、必要な方だけ羊水検査を受けるようになったことは感染や流産リスクを考えると良いことだとも思います。いずれにしても、私たち医療者が受けた方がいいよと勧める検査ではありませんので、ご夫婦でよく話し合い決めていただけると良いでしょう。私たちも日々、どのような意思決定にも寄り添えることを大切にしていきたいと考えております。