子宮内膜症と不妊の関連性について

はじめに

子宮内膜症は、女性の 子宮内膜 が子宮の外側に異常に増殖する疾患です。通常、月経周期に合わせて成長し、妊娠 が起こらない場合には子宮から排出されるべき組織が、子宮外にも広がり炎症や組織の癒着を引き起こすことが特徴です。

子宮内膜症と不妊には密接な関連性があります。排卵障害を引き起こし、子宮内膜の異常な組織成長が受精卵着床を妨げる可能性があるため、妊娠に至るまでのプロセスに影響を及ぼします。子宮内膜症は早期の診断と治療が大切です。この記事で、子宮内膜症の詳細な定義、症状、診断方法、治療法について知り、早めの対応ができるようにしましょう。

子宮内膜症とは

子宮内膜症は、女性の生殖器官である子宮内膜が子宮の外側に異常に増殖してしまう疾患です。詳しく見ていきましょう。

子宮内膜症の定義

子宮内膜症は、女性の子宮内膜が通常の位置から逸脱して、子宮の外側に異常に成長する状態を指します。この異常な発育によって、子宮外の卵巣や骨盤内の他の臓器にも組織が形成され、炎症や癒着が生じることがあります。月経周期によって成長した組織が出血するため、慢性的な腹痛や不正出血が現れることが一般的です。

チョコレート嚢胞とは

子宮内膜が子宮外にも異常に増殖する疾患の中で、卵巣 に形成されるものを「 チョコレート嚢胞 」と呼びます。子宮内膜は月経時に剥がれ落ちて排出されますが、月経で排出されず古くなった血液や組織が溜まったものがチョコレートのようになり、嚢胞が作られます。チョコレート嚢胞が徐々に大きくなり、骨盤の中で癒着すると激しい痛みを引き起こす場合もある、注意を要する病気です。

子宮内膜症の症状

子宮内膜症の症状は個人差がありますが、一般的な症状には以下のようなものがあります。

  • ・生理痛:月経時の激しい腹痛。通常の生理痛よりも強く、長時間続くことが特徴的。
  • ・月経不順:月経周期が乱れや出血の量や周期の異常。
  • ・不正出血:月経 周期以外にも不定期な出血が出現。
  • ・腰痛:腰や腹部に痛みが広がる。
  • ・排便障害:腸と癒着が起こることで、排便に問題が生じることがあります。
  • ・性交痛:性行為によって腹痛や不快感が現れることがあります。

これらの症状が子宮内膜症を示唆する場合、早期の診断と適切な治療が重要です。

子宮内膜症と不妊の関連性について

子宮内膜症と不妊の関連性

子宮内膜症と不妊には深い関連性があり、不妊の主要な原因の一つとして知られています。どのような影響があるのか、解説します。

不妊への影響

子宮内膜症が 不妊 を引き起こすメカニズムには複数の要因が関与しています。一つ目の要因は、子宮内膜症の組織が 卵巣 にも広がることで、卵巣の正常な機能に障害を引き起こすことです。この影響によって排卵が乱れ、卵子の成熟が妨げられる場合があります。

二つ目の要因は、子宮内膜症によって引き起こされるチョコレート嚢胞が卵巣機能に影響を及ぼすことです。チョコレート嚢胞は古い血液や組織が溜まった嚢胞であり、これが卵巣の正常な機能を妨げます。子宮内膜症によって子宮内膜が正常な場所以外にも成長すると、受精卵の着床を妨げる可能性があります。

不妊と子宮内膜症の統計

子宮内膜症による不妊の統計や研究によれば、子宮内膜症を持つ女性の約30〜50%が不妊の問題を抱えているとされています。特に、慢性的な子宮内膜症の症状がある場合は、不妊のリスクが高まるとされています。不妊治療を受ける女性の中で、子宮内膜症を持つ割合は他の不妊の原因と比べて高い傾向があります。子宮内膜症は増加傾向にあり、月経のある女性の中で約10%に見られ、患者数は260万以上とみられます。しかし、多くの方がきちんと治療を受けず、治療を受けている人は10%のみです。不妊治療を考える時には子宮内膜症の有無を考慮することが大切です。早期の診断と適切な治療は不妊の解決に向けた重要なステップとなるので気になることがあれば、早めの受診をおすすめします。

引用)日本子宮内膜症啓発会議 子宮内膜症 Fact Note
協会けんぽ 子宮内膜症

子宮内膜症と不妊の関連性について

子宮内膜症の診断と治療

子宮内膜症の早期診断と適切な治療は、妊娠を望む女性にとって非常に重要です。子宮内膜症は不妊の主要な原因の一つとされており、その診断方法と治療法にはさまざまな選択肢があります。詳しく解説します。

子宮内膜症の診断方法

子宮内膜症の診断には、患者の症状や体調を詳しく聞き取る臨床検査から、画像診断や組織検査を行う方法まで、複数のアプローチがあります。以下に、子宮内膜症の診断方法を詳しく解説します。

  • ・臨床検査:最初に行われるのは、患者の症状や月経周期について詳しく聞き取る臨床検査です。月経痛や性交痛の程度、月経周期の乱れなどが確認されます。これによって子宮内膜症の可能性が疑われるかどうかを判断します。
  • ・超音波検査:子宮や卵巣の状態を評価するために行われます。子宮内膜の厚さや形状、卵巣に嚢胞があるかどうかを確認することが可能です。特に子宮内膜症によって形成される「チョコレート嚢胞」を検出するのに有効な方法です。
  • ・MRI(磁気共鳴画像診断):MRIは、超音波検査よりも詳細な組織像を提供するために使用されることがあります。子宮内膜症の重症度や子宮外の組織に対する影響を評価することが可能です。
  • ・血液検査:子宮内膜症の炎症の程度を確認するために、C反応性タンパク質(CRP)や腫瘍マーカーであるCA125やCA19-9などの腫瘍マーカーの血液検査が行われることがあります。ただし、これらの検査は子宮内膜症の診断に直接用いられるものではありませんが、炎症の程度を把握する上で参考となるでしょう。

診断は、上記の検査結果と患者さまの症状を総合的に判断することで行われます。さらに確定診断には組織検査が必要とされることもあります。これは、子宮内膜症の組織を確認するために、腹腔鏡検査や組織生検を行う場合があり、組織検査によって正確な診断がなされ、適切な治療が行われることが不妊治療の成功につながるでしょう。

子宮内膜症の治療法

大きく分けて、薬での治療と手術による治療の二つに分けられます。それぞれの治療法には効果とリスクがあります。

  • ・ホルモン療法:子宮内膜の増殖を抑制するために使用。一般的なホルモン療法としては、経口避妊薬、プロゲスチン、ゴナドトロピン放出ホルモン( GnRH )アナログが挙げられます。これらの薬により、子宮内膜の増殖が抑えられ、炎症や症状の軽減が期待されます。ホルモン療法は比較的安全であり、症状の改善が見られることがありますが、妊娠を希望している場合には、妊娠を達成するまでの期間は服用を中止する必要があるので医師とよく相談してください。
  • ・手術:重度の子宮内膜症や合併症がある場合には、手術が必要なことがあります。腹腔鏡検査は、小さな切開をして子宮内膜組織を切除したり、子宮外の組織を取り除いたりするために行われることがあります。手術によって子宮内膜症の症状が改善することがありますが、再発する可能性もあることを考慮する必要があるので医師からしっかり説明を受けましょう。

これらの治療法は個人によって異なる効果が現れることがあります。一部の患者ではホルモン療法だけで症状が改善し、妊娠できる場合もあります。しかし、重度の症状や不妊に苦しむ場合には、手術が必要となることもあり、治療選択には患者の状態や希望を考慮し、専門医との相談が重要です。また、治療の効果やリスクについても理解し、適切なタイミングで治療を進めることが大切です。

子宮内膜症による不妊の治療法

子宮内膜症による不妊治療には、さまざまな方法があります。子宮内膜症による不妊は妊娠に至るプロセスに影響を及ぼすため、それに応じた治療が行われます。以下に、子宮内膜症による不妊治療法の一部を紹介します。

  • 人工授精: 人工授精 は、排卵誘発剤を用いて自然な 排卵 を促進し、精子を子宮内に直接注入する治療法です。子宮内膜症が軽度の場合や卵管に問題がない場合に選択されることがあります。
  • 体外受精( IV F):体外受精 は、卵子 と 精子 を体外で受精させた後、受精卵を子宮内に戻す治療法です。子宮内膜症が重症の場合や卵管に障害がある場合に有効な方法です。体外受精は 妊娠率 が高い反面、多胎妊娠 のリスクや費用がかかる点に留意する必要があります。
  • 凍結受精卵移植:体外受精で余った受精卵を凍結し、後日子宮内膜が良好な時期に解凍して子宮内に戻す方法です。子宮内膜症の治療による回復期に適したタイミングで胚を戻すことが可能です。

子宮内膜症による不妊治療は、患者の症状や希望する妊娠の方法に応じて個別に決定されます。診断と治療は妊娠希望者の年齢や症状の重症度によって異なるため、不妊治療の成功を高めるためには、医師との十分な相談と適切な治療法の選択が重要です。

子宮内膜症と不妊の関連性について

子宮内膜症と生活の管理

子宮内膜症を持つ方は、日常生活で症状を和らげるために適切な管理と対策を行うことが重要です。生活習慣や食生活の改善、ストレスの軽減などが子宮内膜症の症状に影響を与える可能性があります。以下では、子宮内膜症と生活の管理について詳しく解説します。

生活習慣と対策

生活習慣のなかでできることもあるので実践してみてください。

  • ・適切な運動:適度で定期的な運動は、子宮内膜症の症状を緩和する助けになる場合があります。適度な運動は血液循環を促進します。ウォーキング、ヨガ、水泳などの軽い運動がおすすめですが、症状の重症度に応じて医師の指導を仰ぐことも重要です。
  • ・健康的な食生活:バランスの取れた食生活は全身の健康に影響を与えます。特に抗炎症作用のある食品やオメガ-3脂肪酸を多く含む食品を摂取することが推奨されます。加えて、カフェインやアルコール、加工食品を適度に制限することも重要です。
  • ・ストレス管理:ストレスはホルモンのバランスに影響を与え、子宮内膜症の症状を悪化させる可能性があります。リラックスする時間を持つこと、趣味やマインドフルネスを取り入れることでストレスを軽減できる場合もあります。
  • ・温熱療法:お腹や腰の痛みを和らげるために、温熱療法を試すのも良いでしょう。温かいお風呂で痛みを和らげることもできます。
  • ・医師の指導を受ける:子宮内膜症の管理においては、医師との定期的なコミュニケーションが重要です。症状の変化や治療効果の確認、生活習慣のアドバイスを受けることで、より効果的な管理が可能になります。

子宮内膜症の症状は個人差があり、全ての対策が全ての患者に適しているわけではありません。自身の体調に合った適切な生活習慣と対策を見つけるために、医師との協力が重要です。

専門家より

子宮内膜症は、子宮内膜が子宮の外にも増殖する疾患であり、不妊の主要な原因の一つとされています。本記事では、子宮内膜症と不妊の関連性について、子宮内膜症の定義や症状について解説しました。

子宮内膜症は記事の中でも述べたように、症状があってもなかなかきちんと治療を受ける人が少ない病気です。また、慢性的な疾患であり、個人差が大きいため、治療法や管理策は患者の個別の状況に応じて選択されることとなります。早期に専門医に相談し、適切な治療計画を行っていくことが、不妊治療の成功に向けた鍵となります。妊娠を望む方は、定期的な健康診断を心がけ、早期発見に繋がるようにしましょう。

この記事を書いた人

東岡 えりこ

理学療法士
医療ライター