卵管鏡下卵管形成術(FT)は、不妊の原因のひとつである「卵管因子」を改善する有力な方法です。卵管の通りが悪い場合、自然妊娠を妨げる大きな要因となりますが、FTによって卵管内を直接広げることで妊娠率を高めることが期待できます。しかしその一方で、「術前にはどんな検査が必要?」「手術までに何を準備すればいいの?」といった疑問や不安を抱える方も多いのではないでしょうか。
本記事では、FTに踏み切る前に受けるべき検査の内容と目的、術前準備のポイントを総合的に解説します。費用やリスク、麻酔方法など、知っておくだけで手術への不安を大幅に減らせる情報をまとめました。FTを検討中の方や、既に病院で説明を受けているけれどイメージがつかない方は、ぜひ参考にしてみてください。
FT手術前の基本的な流れをおさらい
卵管鏡下卵管形成術(FT)は、文字どおり「卵管の通りを鏡(スコープ)とバルーンカテーテルで形成する」手術です。自然妊娠につながる手法として注目される一方、手術という言葉から「痛そう」「費用が高そう」と尻込みする方もいます。実際にFTをスムーズに受けるためには、術前の検査や準備が欠かせません。ここでは、まずFT手術の基本と、術前検査がなぜ重要なのかを整理しましょう。
FTとは?手術を受ける目的の再確認
- 卵管鏡とバルーンカテーテルを使った治療
卵管内に細い内視鏡を挿入し、詰まっている箇所や狭い部分をバルーンで広げる手技です。直接目視しながら卵管を拡張できるため、卵管因子が主な不妊原因の場合に大きな効果が期待できます。 - 自然妊娠の可能性を高める
卵管が開通すれば、タイミング法や人工授精(AIH)と併用して自然妊娠を目指せるようになります。年齢や他の因子にも左右されますが、卵管因子を取り除くことで確率が上がるのは確かです。 - 保険適用で受けられる
2022年4月から不妊治療の一部が保険適用となり、FT手術も条件を満たせば保険対象です。それでも術前検査や麻酔方法によって負担は数万円〜数十万になることが多く、あらかじめ確認が必要です。
なぜ術前検査が重要?
- 安全に手術を行うためのリスク排除
卵管鏡やバルーンを卵管内部に挿入するため、感染症や麻酔リスクなどの安全確認が不可欠です。血液検査や感染症検査を受けていないと、術後にトラブルが起こる可能性があります。 - FTが適切かどうかを正確に判断
そもそも不妊の原因が本当に卵管因子だけなのかを見極めるために、卵管造影検査やホルモン検査が行われます。他の要因(例:男性不妊、子宮内膜症など)が強ければ、FTよりも別の治療のほうが適切な場合も。 - 総合的な治療方針の決定
不妊治療は女性側だけでなく、パートナー(男性側)の状態も踏まえて検討します。男性不妊がある場合、卵管を通しても妊娠に結びつきにくいため、術前にきちんと男性検査を受けることで治療の無駄を省けます。

手術前に受けるべき主な検査一覧
実際にFTを行うかどうかを決める際、どのような検査をいつ受けるのかは大変重要です。施設や個人の状況によって若干の違いはあるものの、基本的に下記のような検査を行い、結果を総合的に評価してから手術日を決定する流れになります。それぞれの検査の目的やタイミングを押さえておきましょう。
卵管造影検査
- 通水検査との違い
卵管造影検査は造影剤を使ってX線撮影を行うため、卵管の形状や詰まり具合をより正確に把握できます。通水検査でも通りを調べられますが、画像として残せる造影検査はFT適応の最大の判断材料です。 - 妊娠の可能性を高める副次効果も
造影剤を通すことで卵管内の細かな癒着がはがれ、検査後の数周期で妊娠率がやや上がるという報告もあります。 - 痛みへの備え
子宮口からカテーテルを入れ造影剤を注入するため、生理痛のような軽い痛みを感じることがあります。不安な場合は事前に医師へ相談し、鎮痛剤などを処方してもらいましょう。

血液検査・感染症検査
- HIV、B型肝炎、C型肝炎、梅毒など
万が一感染症のリスクがある場合、手術器具を介して感染拡大する恐れがあります。自分を守るだけでなく医療スタッフの安全のためにも必須です。 - 血液型や貧血の有無も確認
手術時に出血が起こった際のために血液型を把握しておきます。また、貧血が強いと術後の回復に影響が出る可能性があるため、治療が必要かどうか確認します。 - ホルモン値の簡易チェック
病院によってはFSH、LH、E2などを同時に測定し、卵巣機能や排卵の状態を把握することがあります。
ホルモン検査
- 排卵誘発を視野に入れる場合
FT後に排卵誘発剤を使って妊娠率をアップさせることもあるため、術前にホルモン値を確認しておくとスケジュールを立てやすいです。 - 不妊原因の多面的評価
例えば甲状腺ホルモン(TSHやFT4など)の異常も不妊に影響を与えるケースがあるため、必要に応じて追加検査を行う場合があります。
超音波(エコー)検査
- 子宮や卵巣の状態把握
内膜症性嚢胞、子宮筋腫、ポリープなどが見つかると、FT以前に別の治療を優先したほうが良いかもしれません。 - 卵巣の予備能チェック
エコーで卵巣のサイズや卵胞の状態を確認し、総合的に妊娠のしやすさを評価します。
精液検査(男性側)
- 男性不妊の有無を確認
精子数や運動率などに問題があれば、卵管だけ改善しても妊娠率は上がりにくいです。 - 夫婦で治療方針を共有
男性側の検査結果によっては、FTと並行して男性不妊の治療を検討する必要があるため、一緒に病院へ行くことをおすすめします。

術前準備のステップと注意点
各検査の結果が出たら、いよいよ本格的に手術のスケジュールが決まってきます。検査結果の評価とカウンセリングを通じて、「本当にFTが効果的か」「麻酔はどうするか」などを最終的に確認しましょう。また、食事や生活習慣の見直し、メンタルケアも大切です。
検査結果の評価とカウンセリング
- 総合的な治療計画を立てる
年齢、卵巣機能、男性側の精液検査結果などを照合し、FTのメリット・デメリットを医師が説明します。 - ステップアップの可能性も
子宮内膜症や高齢などの要因が重なる場合、はじめから体外受精(IVF)を検討する方が良いケースも。その判断材料となるのが術前検査です。
麻酔方法・痛み対策の事前相談
- 局所麻酔か静脈麻酔か
局所麻酔は身体への負担が軽い反面、多少の痛みや違和感を感じる可能性があります。痛みが苦手な方は静脈麻酔(軽い眠りの状態)を選ぶケースも多いです。 - 不安は事前に伝える
「痛みに弱い」「麻酔に不安がある」という方は遠慮なく医師に相談しましょう。場合によっては術中鎮痛を強化してもらえます。
食事・生活習慣の見直し
- 術前の飲酒や暴食は控える
アルコールや過度な脂っこい食事は炎症や胃腸トラブルを引き起こす可能性があり、手術当日のコンディションに影響します。 - 温活で血行促進
半身浴や腹巻などで体を冷やさないように心がけると、子宮や卵巣への血流を保ちやすくなります。 - メンタルケアも大切
不安が大きいとホルモンバランスが乱れ、体調に影響が出ることも。心配事があれば早めに医療スタッフに相談するのがおすすめです。

チェックリスト「FT手術前にここを確認!」
受けるべき検査や準備の手順が多くて混乱しそう…」という方のために、簡単なチェックリストをまとめました。スマホでスクリーンショットを撮ったり、紙に印刷して医師の説明を受ける際に活用してみてください。
術前準備・確認項目リスト
項目 | 内容・解説 |
1. 血液・感染症検査完了 | HIVや肝炎などの感染症有無を確認。結果が出るまで1週間前後かかることもあるため、早めの検査が重要。 |
2. 卵管造影検査済みか | FT適応を決めるための最大の判断材料。卵管の通り具合や形状を可視化し、妊娠に向けた卵管通過性をチェック。 |
3. ホルモン値・エコー検査 | 内膜症、筋腫、卵巣の状態に大きな問題がないか確認。重度の病変があれば先に別の治療が必要となる場合も。 |
4. 男性側の精液検査 | 卵管だけを直しても精子の問題があると成果が出にくい。夫婦で治療方針を共有するためにも必須。 |
5. 麻酔方法の希望伝達 | 痛みに弱い方は静脈麻酔に対応してもらえるか確認。局所麻酔でもいいか、希望をしっかり伝えること。 |
手術前に理解しておきたいリスクと対策
「手術」というと、安全面や術後のトラブルに対して不安を感じるのは当然です。FTは比較的リスクの少ない処置ではありますが、再閉塞や感染症など注意すべきポイントは存在します。ここでは、想定されるリスクと対策をまとめました。
再閉塞リスク
- 術後の生活習慣や定期検診がカギ
術後に骨盤内の炎症が残っていると、再度卵管が塞がるリスクがあります。定期的に通水検査やエコー検査を受けることで早期発見につながります。 - 子宮内膜症がある場合
内膜症の進行度次第では癒着しやすいため、FTが有効でも再閉塞しやすいケースがあります。子宮内膜症の治療と並行して行うことが必要です。
感染・出血
- 器具挿入によるリスク
実際に卵管内に器具を挿入する以上、極めて低い確率ではありますが細菌感染や出血のリスクが考えられます。術後に発熱・大量出血・強い痛みなどがあれば早めに受診を。 - 術後管理の徹底
病院やクリニックの指示に従って安静にし、抗生剤の服用が指示される場合には正しく従うことが大切です。
その他(麻酔リスク・アレルギーなど)
- 過去の麻酔経験やアレルギー歴の確認
局所麻酔でもアレルギー症状が出る可能性があるため、問診票やカウンセリング時にしっかり申告しましょう。 - 持病や服用中の薬の申告
既往症がある方や特定の薬を飲んでいる方は、麻酔との相性を事前に確認する必要があります。

まとめ
卵管鏡下卵管形成術(FT)は、卵管の狭窄や閉塞を改善し、自然妊娠のチャンスを高める頼もしい治療法です。ただし、効果を十分に得るためには、術前にきちんとした検査を受けることが不可欠となります。卵管造影検査や血液・感染症検査、ホルモン検査、さらには男性側の精液検査などを総合的に評価し、FTの適応を正しく見極めましょう。
また、手術の準備段階では麻酔方法や生活習慣の見直しを含め、細かい点を一つずつ確認していくことが大切です。記事内のチェックリストを活用することで、必要事項を漏れなくクリアし、スムーズに手術の日を迎えられます。術後の再閉塞リスクや感染症リスクなどもゼロではないため、担当医や看護師の指示を守りながら定期検診を受け、適切なフォローアップを行ってください。
FTは決して楽な治療ではありませんが、正しい情報と準備をもって臨むことで、不安を軽減しながら妊娠に向けた大きな一歩を踏み出せます。自分に合った最善の治療を選ぶためにも、しっかりと知識を身につけた上で、医師と納得のいくまで相談を重ねましょう。
参考文献) 日本産科婦人科学会 5.不妊の原因と検査
助産師からのメッセージ

FTを行うまでに、様々な検査をしなくてはならないんだな。と思われる方もいらっしゃるかもしれません。これは記事にあるように「総合的な判断」が必要なためです。お金や時間を無駄にしないため、そして妊娠になるべく近道でたどり着くための戦略になるのです。また、不必要な処置による体の負担も減らすことができます。IVFに進む際にも、これまでの検査結果はとても大切な情報です。必要な検査を医師と相談をしながら、安全に、妊娠に向けて戦略を立てていきましょう。