赤ちゃんがほしい…妊娠を望んで子どもを授かりやすい方法を試してみてもいるけれど、なかなか妊娠できないのはどうしてだろう?と思い悩む方もいるでしょう。いわゆる不妊とは「健康な男女が子どもを望んで避妊をせずに性交をしているが、一定期間妊娠しない」ことを指します。一定期間とは日本産婦人科学会によると1年とされています。
不妊の原因はさまざまですが、その中の一つに「無排卵月経」があります。
文字通り、月経(生理)はあるけれど、排卵が起こっていない状態です。卵子が排卵されていないので、妊娠には繋がりません。しかし、排卵していない状態には気づきにくく、これが原因だとしたらどうして妊娠しないのか分からないままで、あきらめてしまうことにもなりかねません。
ここでは無排卵月経の原因やそのままに放っておくとどうなるのか、自分でチェックする項目や治療法も含めて分かりやすく解説します。
引用元)日本産婦人科学会 不妊とは
無排卵月経とは?
生理のような出血があるにもかかわらず、排卵がおこらない状態を「 無排卵月経 」や「 無排卵性月経 」といいます。医学的には「 無排卵周期症 (むはいらんしゅうきしょう)」と呼ばれます。
排卵は複数のホルモンの分泌で起こります。 卵胞 が発育すると エストロゲン ( 卵胞ホルモン )が分泌されます。このホルモンは 子宮内膜 を厚くして、 受精卵 を育てる”ベッド”を作るのです。
エストロゲン が一定の濃度に至ると、下垂体から排卵を促すホルモン( LHホルモン )が大量に分泌され、卵巣内で発達した卵胞から、成熟した卵子が飛び出し排卵が起こります。
卵子は卵管内に移動し、ここで受精しなければ妊娠に備え、厚くなった子宮内膜がはがれ落ち外に排出されます。これが 月経 です。
卵子を排出した卵胞は黄体となり、 プロゲストロン ( 黄体ホルモン )を主に分泌します。
このホルモンは子宮内膜の”ベッド”を、受精卵が 着床 しやすいようにしっかりと整えます。
しかし、排卵が無ければ卵胞は黄体とならず、プロゲストロンの分泌増加も起こりません。
そのため子宮内膜はプロゲストロンの作用によりしかり整えられないので、耐えきれず崩れ落ちてしまいます。
この出血を 破綻出血 と言います。出血のタイミングは正常の時もあり、長くなり短くなる場合もあります。これが排卵が無いにもかかわらず月経が起こる仕組みです。
引用元)病気がみえる 婦人科・乳腺外科 p26
無排卵月経の特徴
無排卵月経の特徴は下記のとおりとなります。
- ・生理周期が不順
生理周期は25~38日が正常ですが、無排卵月経では24日以内で生理が来たり、次回の生理が39日以上来なかったりと不安定なことが多いです。
- ・生理の持続期間がばらばら
正常な生理は3~7日間続きます。無排卵月経では、出血期間が2日以内と短かったり、8日以上だらだらと続いたりします。
- ・出血量が通常の生理と違う
通常の生理と比べて、出血量が少なかったり、多かったりすることがあります。出血が多い場合、貧血の原因となることもあります。
- ・基礎体温が一相性になる
無排卵月経の場合、排卵がおこらないので基礎体温は 二相性 (にそうせい)にならず、 一相性 (いっそうせい)です。そのため、基礎体温を計測している場合には、高温相が来ないことにいち早く気づけるでしょう。
- ・気づきにくい
無排卵月経には上記のような特徴がありますが、正常な生理とあまり変わらない場合もあり、無排卵月経であることに気づきにくいのも特徴です。
無排卵月経の原因とは?
無排卵月経は、卵巣機能の異常によっておこります。そして、その卵巣機能の異常の原因として、下記の5つが挙げられます。
ストレス
卵巣 の働きは、脳の視床下部と下垂体から分泌されるホルモンによって管理されています。ストレスがかかり続けると、このホルモンの分泌が障害され、排卵がおこりにくくなる場合があります。
入学や就職、転職など環境が変わったタイミングで生理不順になりやすいのは、ストレスによってホルモンバランスが乱れるためです。ストレス源から離れるのが1番ですが、それが難しい場合には、自分なりのストレス解消法を実践することが望ましいです。
体重の過不足
体重の急激な減少は、卵巣機能に影響をおよぼすことがあります。激しいスポーツや過度なダイエットなどが引き金となって無排卵月経がおこりやすくなります。
また、体重の増えすぎは、卵巣以外からの エストロゲン (女性ホルモンのひとつ)の産生・分泌を異常に増やしてしまうため、ホルモンバランスを乱してしまうことも。
痩せすぎも太りすぎも、無排卵月経の原因となるため、適正な体重を維持することが大切です。
脳の異常
脳の視床下部や下垂体に異常があると、ホルモンバランスが乱れ、無排卵月経となることがあります。代表的なのが、 高プロラクチン血症 です。
高プロラクチン血症は、下垂体から分泌されるプロラクチンというホルモンが過剰になった状態で、無排卵月経をおこす場合があります。脳腫瘍や薬剤の副作用、甲状腺ホルモンの低下などが原因です。
症状としては、妊娠していないのに乳汁が分泌される、頭痛、視野が欠けるなどが挙げられます。これらの症状がみられたら、早めに病院を受診しましょう。
卵巣の病気
多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣症候群という原因不明の卵巣機能障害です。
若い女性に多く見られ、プロゲステロンや男性ホルモンの分泌が多くなり、ホルモンの値のバランスが崩れ 排卵 が定期的に起こりにくい状態となってしまいます。
超音波検査では、発育が不十分で排卵できなかった 卵胞 が卵巣の中にたくさん連なっているのを観察できるのが特徴です。体毛が増える・ニキビが出やすくなる・体重が増える症状が出ることもあります。
思春期や更年期
卵巣機能が未熟な思春期や、卵巣機能が低下しつつある更年期には、卵巣の働きが安定せず、無排卵月経になることは少なくありません。これは病的なものではなく、生理的なものです。
無排卵月経を放置するとどうなる?
無排卵月経が続くと、排卵がおこらないため、不妊の原因となります。
月経不順の症状はあるけれども無排卵とは気づかないことが多く、放置してしまうこともあるかもしれません。
病院を受診したときに、無排卵月経であるとわかることも少なくありません。
しかし、無排卵の状態を何の対処もせず放っておくと、ホルモンの分泌が異常のままとなり、卵巣機能の低下が起こり不妊の大きな原因となりかねません。
また、排卵時に分泌される プロゲストロン (黄体ホルモン)が少なくなり、骨の形成の衰えや子宮体がんの発症率が高まる可能性があると言われています。
放置はせず、症状が続けば早めに婦人科の受診をしましょう。
引用元)おおさか不妊専門相談センター 排卵障害をおこす疾患(内分泌異常)
無排卵月経のセルフチェック項目
無排卵月経に早く気づけるよう、下記のセルフチェックをしてみましょう。下記の項目がひとつでも当てはまる場合には、早めに病院を受診することが大切です。
- □生理周期が24日以内と短い、もしくは39日以上と長い
- □生理の持続期間が2日以内、もしくは8日以上である
- □生理の出血量が多かったり少なかったりすることがある
- □生理周期以外に出血がある
- □基礎体温が一相性である
おおよそ同じ周期で月経があれば問題は無いですが、例えば「数ヶ月、月経が来ない」「月に何回も月経が来る」という方はホルモンの分泌に問題があり、排卵が行われていない可能性があります。
また、月経周期は通常では25日〜38日と言われています。周期が短くても長くてもホルモンの分泌に異常があり、排卵ができていないことが疑われます。
基礎体温は低温期から高温期に移る時が排卵が起こる目安です。通常はこのように体温が二相化するのですが、排卵がないと低温期の一相化となります。簡単にできる方法なので試しに計測してみるのも良いでしょう。
月経があっても排卵がなければ妊娠はできません。
ひとつでも項目にあてはまれば、子供をなかなか授からない原因となっているかもしれません。早めに専門医の診察や検査を受けることをおすすめします。
無排卵月経の治療法とは?
無排卵月経の治療として、まず、原因を知るための検査を受けることが必要です。問診や内診、超音波検査、血液検査などがあり、その後、原因に合わせた治療が行われます。原因となる病気が治ると、排卵が定期的におこることが期待できます。
病気が原因でない場合や無排卵月経が改善しない場合には、排卵障害に対する治療が必要です。排卵障害に対しては、妊娠の希望がある場合とない場合で治療法が違ってきます。
妊娠の希望がある場合
妊娠したい方の場合、 排卵誘発 が主な治療になります。排卵誘発とは、飲み薬や注射で排卵を促す方法です。排卵誘発の方法として、 クロミフェン療法 と ゴナドトロピン療法 があります。
- ■クロミフェン療法
クロミフェン療法は内服による治療法です。クロミフェンには、視床下部に エストロゲン が低い状態であると錯覚させる作用があり、視床下部はエストロゲンの分泌を増やすようにホルモンを分泌します。その作用によって、卵巣では卵胞の発育が促され、排卵がおきるようになるという治療法です。
- ■フェマーラ(レトロゾール)療法
フェマーラは、もともと乳がんの治療薬ですが、排卵誘発剤としてP COS(多嚢胞性卵巣症候群)や原因不明の不妊に対して効果があるとされています。以前は自費でしたが保険適応の対象になったお薬です。クロミッドよりもマイルドな薬効で副作用が少ないと言われています。一般的には、生理開始後2〜3日目から5日間、内服をします。
- ■ゴナドトロピン療法
ゴナドトロピン療法は、クロミフェンで妊娠しなかった場合に行われる治療で、注射による治療法です。注射( hMG または FSH製剤 )によって卵胞の発育を促し、卵胞が育ったら別の注射( hCG )を行って排卵を起こし、妊娠しやすくする治療法です。
引用元)産婦人科診療ガイドライン 婦人科 022 p132/282
妊娠の希望がない場合
妊娠の希望がない場合、ホルモン治療によって周期的に生理のような出血をおこす治療が行われます。無排卵月経が続くと、排卵がほとんどおこらなくなったり、エストロゲンが過剰な状態が続き、子宮体がんや乳がんなどのリスクが高くなったりするためです。
また、無排卵月経の原因によっては、エストロゲンが低い状態が続く場合があり、骨粗鬆症になりやすくなる場合も。
ホルモン治療を受けることで、これらのリスクの軽減につながるため、治療を受けることが大切です。
無排卵月経の改善法とは?
無排卵月経は、ストレスと体重の過不足が一因となります。これらを改善するのが、運動・栄養・休息の3つです。
運動習慣を身につける
運動は、ストレス解消や体重管理に効果的です。運動習慣を身につけることで、肥満の改善が期待でき、無月経排卵が治るきっかけになります。
また、ダイエットをするときに、運動せずに無理な食事制限だけ行うケースがありますが、これはNGです。ダイエットをするなら運動して筋肉量を上げ、基礎代謝を上げることが大切になります。栄養をしっかり摂って運動をすることで、健康的な体づくりができるでしょう。
3食きちんと食べる
栄養バランスの整った食事を3食とりましょう。偏った食事は、体重の過不足を招き、無排卵月経の一因となります。なにを食べたらいいのかわからないという場合は、レシピ本や献立本を見たり、小学校や中学校の献立表を検索して見本にしたりするのもいいかもしれません。
ゆっくり休む
運動してごはんをしっかり食べたら、ゆっくり休みましょう。休息はストレス解消に効果的ですし、食べ物の消化吸収を助けます。湯船にゆったり浸かって疲れを癒したり、寝る前に軽いストレッチをしてからだを休ませたりすることで、良質な睡眠にもつながります。
専門家より
健康には自信があるし、まさか自分が…いつでも希望すれば妊娠できると思っていたのに…と悩む方もいるでしょう。赤ちゃんを望んでいるのに、なかなか授かれないことはとても大きい不安だと思います。
子供がほしいと願っても妊娠が難しいカップルは5組に1組とも言われ、不妊ではないかと心配しているカップルは増えており、2006年には26.1%でしたが、2015年には35%と増えているという報告もあります。
ストレスも多い社会状況になり、不妊に悩んでいるご夫婦はますます増えているのではないかと感じています。
また無排卵月経のように、自覚症状のない場合もあるので、子供がほしいのに妊娠しないと悩むのであれば 放っておかず、専門医の受診に早めに行くのが良いでしょう。
もし放っておくと、卵巣の機能は低下し、ますます妊娠しにくくなります。また、年を重ねると、卵子も同じように年をとり、卵子の数だけでなく質やパワーが低下するのです。高齢出産の話も話題にはなっていますが、やはり年齢が上がるとどうしても妊娠が難しくなってくる可能性は否めません。
正しい知識を知り、医師に早めに相談し適切な治療を受け、赤ちゃんを授かる準備をしていきましょう。また、子供を希望しているにも関わらず、妊娠しない期間が1年続くと不妊とする定義はありますが、1年経たなくても、もしくは若い方でも、赤ちゃんを望む方は生理不順など気になる症状があれば医師の診察を受けましょう。
ここでは無排卵月経を取り上げましたが、不妊の原因には他にも子宮や卵管などに問題がある女性側の原因や男性側の原因もあります。詳細を知るために検査をおすすめします。
厚生労働省も不妊治療対する保険適用などの取り組みをしており、体制は整いつつあります。
妊娠できない原因を調べ適切な治療を早めに受け、大切な赤ちゃんを迎える準備をしていきましょう。
引用元)厚生労働省 不妊治療の保険適用