卵子凍結の費用ってどのくらいかかるの?

女性の人生において妊娠・出産のタイミングは重要事項です。近年注目されているのが、卵子を若いときに採卵し、凍結保存する卵子凍結です。社会的適応による卵子凍結は関心が高いですが、気になるのが費用面でしょう。今回は卵子凍結の費用についてくわしく解説します。

卵子凍結とは?

卵子凍結 とは、 卵巣 から採取した卵子の中から状態の良いものを選び、凍結保存することをいいます。凍結保存する前に、卵子の細胞が壊れないように特殊な処理が行われ、超低温の液体窒素で急速に凍結して保存されます。

凍結保存された卵子は、何十年も状態を保ったまま保存できるため、将来、妊娠を望んだタイミングで卵子を融解し、凍結保存した当時の卵子で妊娠することができるのです。

また、採取した卵子と精子を受精させ、受精卵の状態で保存する「受精卵凍結」という方法もあります。

引用)日本がん・生殖医療学会 妊孕性温存方法

卵子凍結の費用ってどのくらいかかるの?

小池都知事も健康な女性の“卵子凍結支援”対応を検討すると明言

卵子凍結は、将来の妊娠・出産に備えて卵子を凍結する医療技術です。以前から行われていたのが、「医学的適応による卵子凍結」です。がんなどの病気の治療によって妊娠が難しくなる人に対して行われる卵子凍結のことで、病気治療後に妊娠できる可能性をつなぐことができます。

この医学的適応による卵子凍結に対して、健康な女性が将来の妊娠・出産に備えて行なうのが「社会的適応による卵子凍結」です。若いときは、妊娠率も母子ともに健康に出産を迎えられる確率も高いですが、仕事や趣味に打ち込むのに最適な時期でもあります。また、介護や、病気の療養などで、その時期に妊娠が難しいという場合もあるでしょう。

今は妊娠は難しいけれど、将来的に妊娠したいと思ったときに問題となるのが、卵子の質 です。卵子は女性と同じように年をとるため、妊娠したいと思ったタイミングが遅いほど、卵子の質も低下してしまいます。とくに35歳を超えると、妊娠率の低下スピードが増し、反対に流産率は上昇することがわかっています。

卵子凍結は、卵子を若いときの状態で保存できる画期的な技術です。卵子の質の問題をクリアするため、社会的適応による卵子凍結を望む女性は増えています。

2022年12月に東京都の小池知事は、社会的適応による卵子凍結の支援を検討することを明らかにしました。支援の開始時期や支援内容についてはまだわかっていませんが、女性の人生の選択肢として、卵子凍結が身近なものになりつつあります。

海外では企業が福利厚生の一環として卵子凍結をサポート

海外では、女性が仕事と妊娠・出産のバランスが取りやすいように福利厚生のひとつとして、卵子凍結を選択できる企業が増えています。日本でも少しずつ、卵子凍結を福利厚生に取り入れる企業が出てきています。

就職先や転職先を検討する際に、福利厚生として卵子凍結の有無が重要視される時代が来ているのかもしれません。

 どんな人が受けられるの?

医学的適応による卵子凍結の対象は卵子凍結時に43歳未満で、化学療法や放射線療法などのがん治療を受ける人や、生殖器のがんや脳腫瘍など、病気の進行によって妊娠が難しくなることが予想される人などです。

ただし、病状が進行している場合や、子宮摘出など本人が妊娠できない状態となる場合には対象外となります。これらの評価は、医師によって行われます。

社会的適応による卵子凍結は、将来の妊娠・出産に向けて、加齢による卵子や卵巣機能の低下の影響が心配な成人女性が対象です。2013年に日本生殖医学会が提示した「社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン」では、卵子を採取するときの年齢について40歳以上は推奨されていないため、それよりも早い時期での卵子凍結が望ましいです。

引用元)

日本がん治療学会 『小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』2017 年版 クリニカルクエスチョン・推奨一覧

厚生労働省 小児・AYA 世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業実施要綱

卵子凍結の流れ

卵子凍結はどのようにして行われるのか、その流れをみてみましょう。

  • 1.排卵誘発を行う
    一度の 採卵 で多くの卵子を採取できるように、排卵誘発剤 (飲み薬や注射)を使って複数の卵子の発育を促します。 排卵誘発 を行わずに、自然に卵子が発育するのを待つ方法もあります。
  • 2.採卵
    超音波で 卵巣 の状態を確認しながら、膣から細長い針を卵巣に向けて刺します。卵巣から成熟した卵子を吸い出し、採卵 を行います。
  • 3.卵子の凍結

  • 採取した卵子の状態を確認し、状態の良いものを凍結します。凍結による影響が最小限になるように卵子を保護し、液体窒素に入れて急速凍結し保存されます。

以上が卵子凍結の流れです。

卵子凍結の費用ってどのくらいかかるの?

妊娠に必要な卵子の数は?

卵子凍結は、良好な状態の卵子を選んで凍結保存が行われますが、将来の妊娠を必ず約束するものではありません。

2020年に日本産科婦人科学会がまとめた「凍結融解未受精卵を用いた治療成績」を見てみると、移植あたりの妊娠率は29.0%でした。

妊娠するには確率的に卵子が3~4個必要ということになりますが、妊娠時の年齢や体調、パートナーの年齢や精子の状態なども関係してきます。採卵できた卵子が多いほど確率は上がりますが、年齢や体調などの条件が良ければ、1個目の卵子で妊娠に至る可能性は十分あるでしょう。

年齢が上がると1回の採卵で取れる卵子の数と妊娠率が下がる

また、凍結卵子を融解して状態の良い卵子を顕微授精をできた場合に、赤ちゃんを出産が期待できる確率は35歳以下と35歳以上で大きな差があることがわかっています。

年齢と、凍結卵子の数別に、出産が期待できる確率を示したものが、下記の表です(医学的適応による未受精卵子凍結のデータより)。

35歳以下35歳以上
凍結卵子5個の場合15.4%5.1%
凍結卵子10個の場合60.5%29.7%

35歳以下で凍結卵子が多いほうが、赤ちゃんを出産できる確率が高くなることがわかります。

しかし、状態の良い卵子の採卵数は年齢とともに少なくなるため、卵子凍結を行う場合にはできるだけ若いときにすることがすすめられます。

引用元)日本産科婦人科学会 生殖医療の現状と課題

卵子凍結にかかる費用は?

卵子凍結は保険適用にならないため、全額自己負担になります。その金額は病院によって異なりますが、採卵に15~50万円程度、卵子凍結に卵子1個あたり1~5万円程度必要です。

採れた個数によって費用は変わるの?

採卵の費用は、採卵する卵子の個数によって変わる病院もあれば、個数に関わらず費用が一律の病院もあります。

卵子の凍結保管料については、卵子の個数や保管年数によって金額が変動します。

一回の採卵で、目標の数が採れなかったら?

採卵では、卵巣内にある卵胞(卵子の入った袋)から卵子を吸い出しますが、卵子が入っていない空胞(くうほう)の場合もあります。空胞かどうかは実際に採卵してみないとわからないため、採卵したけれど空胞が多かったり、すべて空胞だったりすることもあるのです。

すべて空胞だった場合、病院によっては採卵の料金が減額される場合があります。

凍結した卵子の保存費用は?

凍結保存した卵子は、適切な環境で必要になるときまで管理してもらう必要があります。卵子の凍結保管料は凍結保存容器1本(卵子2個もしくは3個保存可)あたり、1年ごとに2~3万円程度必要です。病院によっては3年ごとに卵子1個あたり1万円程度のところもあります。

凍結卵子を融解して使う際の費用とは?

凍結保存した卵子を用いて胚移植を行う場合、凍結卵子の融解・顕微授精・胚培養・胚移植などが必要です。卵子凍結は自費となるため、料金の目安は下記のとおりになります。

  • 凍結卵子の融解代・・・約1~2万円
  • 顕微授精・・・約5~13万円(個数によって変動)
  • 胚培養・・・約5~11万円(個数によって変動)
  • 胚移植・・・約8万円

    引用元)厚生労働省 不妊治療に関する支援について 
卵子凍結の費用ってどのくらいかかるの?

 助成金は出るの?

医学的適応による卵子凍結では、助成金があります。令和2年までは経済的支援を行う自治体はあるものの、国の助成はありませんでした。それが令和3年から「小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業」として費用の助成が行われるようになっています(43歳未満という年齢制限や、医師による病状などの評価が必要)。

卵子凍結に対して1回あたり20万円(1人に付き通算2回まで)、凍結した卵子を用いた生殖補助医療に対して1回25万円(年齢が40歳未満の場合は通算6回まで、40歳以上43歳未満では1通算3回まで)が助成されます。

2023年1月の段階では、社会的適応による卵子凍結に対しては公的な助成はありません。令和4年4月から不妊治療が保険適用となった動きもあり、今後、社会的適応による卵子凍結について助成範囲の拡大が期待されます。

引用元)厚生労働省 温存後生殖補助医療

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専門家より

卵子凍結は画期的な治療法ですが、費用が高額なため、利用できる人が限られるのが現状です。今後、企業の福利厚生としてのスタンダード化や、国や自治体による費用補助などが期待されます。将来の妊娠・出産へのリスクが軽減できることは喜ばしいことです。

ただし、卵子凍結によって卵子の質が若い状態で維持できても、赤ちゃんを育てる体は年齢を重ねています。35歳以上の妊娠は高齢妊娠であることに変わりはないため、妊娠合併症になるリスクは年齢相応であることは知っておきましょう。

この記事を書いた人

田中 由美

子授かりネットワーク 編集長