「不妊は女性の問題」というイメージは過去のものになりつつあります。最新統計では不妊カップルの約48%に男性側の要因が確認され、しかもその多くは自覚症状がありません。
ここでは男性不妊の代表的な原因を5つのカテゴリに整理し、治療戦略と日常で取り組める改善策を具体的に示します。ご自身やパートナーの状況に当てはめながらお読みいただくことで、早期受診と生活改善への行動指針を得ていただけるはずです。
男性不妊の原因は何か
男性不妊の背景には、精子そのものの異常だけでなく「精子の通り道」や「射精機能」、さらには生活習慣・環境の影響まで複数の要素が複雑に絡み合っています。以下の5 つが代表的な原因です。
主要因は造精機能障害
男性不妊の約80〜90%は、精巣で精子を作る過程に問題がある「造精機能障害」が占めます。乏精子症・無精子症・精子無力症のいずれか、または複合的に認められ、原因が特定できないケースも半数近くに達します。
- ・代表的要因:思春期以降のムンプス精巣炎、精索静脈瘤、染色体異常(クラインフェルター症候群など)、ホルモン異常、特発性(原因不明)
- ・治療方針:手術、ホルモン補充、抗酸化サプリ、顕微受精など症例別に選択
- ・ポイント:精子形成には約74日を要するため、生活改善は3か月単位で評価する
精索静脈瘤 ― 治療可能な代表的原因
陰嚢部の静脈が拡張し血液がうっ滞すると、精巣温度が上昇して造精機能を阻害します。若年〜30代男性の不妊で頻度が高く、手術(顕微鏡下低位結紮術)が保険適用となる数少ない可逆的病態です。
- ・症状:左陰嚢のだるさ・鈍痛、立位で血管がミミズ状に触れる
- ・治療効果:術後3〜6か月で精子濃度・運動率改善例多数
- ・チェック:立位で陰嚢を触診し、怒張血管を確認
精路通過障害 ― 精子の通り道のトラブル
精子が正常に作られても、精管・精巣上体が閉塞すると射精液に精子が含まれません。閉塞性無精子症は再建手術や精子回収(PESA・MESA)により妊娠が期待できます。
- ・原因:鼠径ヘルニア術後癒着、感染後の瘢痕、先天性精管欠損、パイプカット後
- ・特徴:精液量は正常でも精子ゼロ、尿中に精子検出の場合は逆行性射精を疑う
- ・治療:精路再建術、ART 併用
性機能障害 ― 勃起・射精の問題
ED や膣内射精障害はタイミング法の障壁となるうえ、心理的プレッシャーで悪化しやすいのが特徴です。薬物療法と心理的アプローチの両輪が有効です。
- ・原因:加齢、糖尿病、神経因子、プレッシャー
- ・治療:ED治療薬、カウンセリング、低侵襲治療
- ・夫婦でできること:性交タイミングの固定化を避け、負担を共有

生活習慣・環境因子
喫煙・過度の飲酒・肥満・高温環境・慢性ストレス・加齢は精子DNA断片化率を高め、ホルモンバランスを乱します。行動変容で改善可能なため、医療介入と並行して取り組む価値が高い領域です。
リスク因子 | 精子への主な影響 | 今すぐできる対策 |
喫煙 | DNA損傷↑、運動率↓ | 禁煙外来・ニコチン置換 |
過度の飲酒 | テストステロン↓ | 週2日の休肝日 |
肥満 | エストロゲン↑、酸化ストレス↑ | 5〜10%減量 |
高温環境 | 造精機能低下 | 長風呂・サウナ節制 |
ストレス・睡眠不足 | ホルモン分泌乱れ | 7時間睡眠・瞑想 |
原因別チェックリスト
下記に1つでも該当すれば、泌尿器科または不妊治療専門クリニックでの精液検査を推奨します。
- ・以前にムンプスに罹患し睾丸が腫れた
- ・左陰嚢にミミズ状の血管やだるさを感じる
- ・手術歴(鼠径ヘルニア・精管結紮など)がある
- ・糖尿病で射精感が弱い、射精後の尿が濁る
- ・1日10本以上の喫煙、週3回以上の深酒習慣
- ・BMI 30 以上、デスクワーク中心で運動不足

治療・対策の選択肢と注意点
原因が特定できる場合と特定が困難な場合で対応策が変わります。
原因が特定できる場合
原因が明確に判明した場合は、その原因に直接アプローチする治療が選択されます。
- ・精索静脈瘤:顕微鏡下結紮術
- ・ホルモン異常:ゴナドトロピン療法、クロミフェンなど
- ・精路閉塞:外科的再建、精子回収+ART
- ・ED:PDE5阻害薬+カウンセリング
原因不明または改善困難な場合
男性不妊の半数近くは「原因不明」または「改善困難」な症例に該当します。このような場合、以下のような保存的対策が行われます。
- ・生活習慣の改善(禁煙・節酒・運動・睡眠・栄養)
- ・抗酸化サプリ(亜鉛・ビタミンC/E・L-カルニチン)
- ・ART へのステップアップ(IVF,ICSI)
夫婦連携の重要性
男性側に原因があっても、治療の多くは女性側の身体にも影響します。夫婦で力を合わせ、互いに寄り添いながら治療を進めることが、妊娠というゴールに近づく最大の鍵になります。
- ・男性治療でも女性側の身体的負担が増えるケースあり
- ・年齢要因を考慮し治療タイムラインを共有
- ・セカンドオピニオンやカウンセリング活用で心理的負担を軽減

まとめ
- ・男性不妊は造精機能障害が最多だが、精索静脈瘤など治療可能な要因も存在
- ・生活習慣の改善は3か月単位で効果を評価し、医療介入と並行して実施
- ・早期検査・早期治療が妊娠率と費用対効果を最大化する鍵
夫婦で協力し、専門医・カウンセラーと二人三脚で妊活に臨みましょう。
参考文献
こども家庭庁 男性不妊
WHO 1 in 6 people globally affected by infertility
日本産婦人科医会 (3)男性不妊症の検査・診断
助産師からのメッセージ

この記事を読んで「もしかしたら自分たちも当てはまるかも…」と、少し不安になった方もいらっしゃるかもしれませんね。男性不妊という言葉を聞くと、つい特別なことのように感じてしまうかもしれませんが、実はとても身近なことなんです。不妊の原因の半分近くは男性にあると言われていますし、決して珍しいことではありません。
私が出会ってきたご夫婦も、「もっと早く検査を受ければよかった」とお話しされる方が多いです。生活を少し整えるだけで精子の状態が改善することもありますし、医療のサポートを受ければ妊娠につながる可能性も広がります。だからこそ、“早く気づき行動する”ことがとても大切なんです。
不妊治療は、ときに心が折れそうになるほど大変な道のりですが、一人で抱え込まなくても大丈夫。ご夫婦で気持ちを共有しながら、専門家を頼ってみてください。私たち助産師も「身体のこと」だけでなく「心のしんどさ」にも寄り添い、一緒に歩んでいけたらと思っています。