卵子凍結の知識: 妊娠に必要な卵子の個数とは?

卵子凍結は、将来の 妊娠 の可能性を高める画期的な方法です。将来の妊娠の確率をより高めるためには、卵子 をいくつ凍結保存すればいいのでしょうか。卵子凍結を行う場合の卵子の個数について、くわしく解説します。

卵子凍結の基本

卵子凍結とは、成熟した卵子を 卵巣 から取り出し、超低温で保存することをいいます。冷凍保存された卵子は、半永久的に状態を保つことが可能です。
卵子凍結によって、染色体異常の確率の上昇や妊娠率の低下など、卵子の老化による影響を抑えることが可能になっています。

卵子凍結は、将来の妊娠への希望をつなぐ目的で行われ、下記の2つに大きく分けられます。

  • ■医学的適応による卵子凍結

がんや免疫疾患などの治療法には、化学療法や放射線療法などがあります。これらの治療は、卵巣の機能を低下させ、将来の妊娠を難しくする可能性があります。
これに対し、将来的な妊娠の可能性を残すために行われるのが「医学的適応による卵子凍結」です。病気の治療によって妊娠を諦めなくてもよくなったことで、患者さんが結婚や出産への希望を失わずに済むようになりました。

  • ■社会的適応による卵子凍結

女性は加齢とともに妊娠率が低下することが知られています。これは、卵子の老化や、女性のからだの老化などが原因となります。
このうち、卵子の老化による将来の妊娠への不安や心配を軽減するために行われるのが「社会的適応による卵子凍結」です。妊娠時期に悩む女性にとって、社会的適応による卵子凍結という選択肢ができたことは大きな意味を持ちます。

引用元)埼玉医科大学総合医療センター 産婦人科患 者 さ ん へ
臨床研究:「若年女性がん、免疫疾患における妊孕性温存を目的とした卵巣組織凍結ならびに自己移植」
についてのご説明

社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン

卵子凍結のプロセスと目的

卵子凍結には、排卵誘発採卵 ・ 凍結 という3つのステップが必要です。それぞれのプロセスは以下のとおりです。

採卵の前に、排卵誘発剤 を使って、複数個の卵子の成熟を促します。排卵誘発剤 には飲み薬や注射、点鼻薬などがあり、その人の状態に合わせた方法を医師が選択します。

排卵誘発を行う理由は、一度の採卵で多くの卵子を採取できるようになるためです。排卵誘発剤を使わない方法もありますので、心配な人は医師に相談しましょう。

  • 2.採卵

成熟した 卵子 を採卵するには、膣から卵巣に向けて細長い針を刺す必要があります。卵巣内にある、卵子の入った袋( 卵胞 )に針を刺し、卵子を吸い取ります。痛みが出やすいため、局所麻酔や全身麻酔(静脈麻酔)を使うことがほとんどです。

  • 3.凍結

採卵で複数個の卵子を採卵できたら、状態を確認し、良好な状態の卵子を専用の液体で保護します。保護することで、凍結による細胞への影響を抑えることができます。
保護された卵子は、液体窒素で急速冷凍され、妊娠を望むタイミングまで冷凍保存されるのです。

引用元)日本がん・生殖医療学会 妊孕性温存方法
獨協医科大学病院

卵子凍結を検討する理由とタイミング

卵子凍結を検討する理由は、その人その人によってさまざまです。医学的適応であれば、病気治療後の妊娠の可能性を残すことが大きな理由になるでしょう。

社会的適応の場合、将来的な妊娠の確率を高めることが大きな理由ですが、細かくみると、以下のような理由が挙げられます。

  • ・今は仕事や趣味に打ち込みたい
  • ・現在、結婚や妊娠を考えるパートナーがいない
  • ・病気やけがで療養中である
  • ・家族の介護や療養上の世話を行っている

また、女性は年齢とともに婦人科疾患の発症率が高くなるため、健康なうちに状態の良好な卵子を冷凍保存できれば、将来への保険となります。病気だけでなく、事故などで妊娠が難しくなった場合にも役立つでしょう。

卵子凍結を行うタイミングは人それぞれですが、検討するタイミングは早いほうがいいでしょう。
卵子凍結は、できるだけ年齢が若いほうが卵子の質が高くなります。しかし、卵子凍結には保存費用が毎年必要になるため、卵子凍結を行う時期と妊娠時期が離れるほど、費用面の負担が大きくなります。
年齢と費用のバランスが取れるタイミングをじっくり考えてみましょう。

  

卵子凍結の知識: 妊娠に必要な卵子の個数とは?

妊娠に必要な卵子の個数と年齢の関係

卵子凍結では、卵子を複数個採卵し、凍結保存することになります。しかし、必ず採卵できるわけではなく、さらに、保存した卵子すべてが妊娠にいたるわけではありません。これには女性の年齢が大きく関係します。

年齢が卵子の質と量に与える影響

女性は、胎児のころにすでに卵子の元になる細胞が作り終わっており、年齢とともにその数はどんどん減っていきます。生まれたときには約200万個あった卵子は、思春期には20万~30万個になり、0に近づくころに 閉経 となるのです。
妊娠率も20代後半から少しずつ低下していき、35歳ごろから低下スピードが増します。そのため、35歳を超えると卵子の数自体が少なくなり、妊娠する力を持った卵子はより少なくなります。
卵子凍結する場合も、年齢が若いほど質が良い卵子を多く採卵できるため、将来の妊娠の確率を高められるでしょう。

引用元)HUMAN+
2020年体外受精・胚移植等の臨床実施成績

年齢別の妊娠に必要な卵子の個数

卵子凍結をした後、妊娠を希望する年齢が上がるほどに妊娠は難しくなります。これは、母体の老化が主な原因です。卵子凍結で卵子の老化は止められても、母体の老化は現在の医学では止められません。そのため、年齢によって、妊娠するのに必要な凍結卵子の数は違ってきます。

下表は、凍結卵子を解凍し、顕微受精 した場合の出産率を示しています(未受精卵子凍結の医学的適応に基づくデータより)。

35歳以下35歳以上
凍結卵子5個の場合15.4%5.1%
凍結卵子10個の場合60.5%29.7%

このように、35歳以下と35歳以上で、妊娠・出産に必要な卵子の数に大きな差があることがわかっています。

また、アメリカ生殖医学会では、38歳で1人の子どもを産むには25~30個の卵子が必要であり、卵子凍結を行っても、年齢を重ねれば妊娠が難しくなるという事実は変わらないことを示しています。

引用元)日本産科婦人科学会 生殖医療の現状と課題

卵子凍結の知識: 妊娠に必要な卵子の個数とは?

健康状態が卵子の個数に与える影響

女性の健康状態が、卵子にどのような影響を与えるのでしょうか?

生活習慣や病歴が卵子の質に与える影響

女性が不健康であれば、卵巣の機能も低下することが知られています。肥満ややせ、喫煙、食生活の乱れは、卵巣機能を低下させ、ホルモンバランスの乱れや月経(生理)不順、排卵障害を引き起こします。この状態が長引けばダメージがより大きくなり、不妊の原因となることも少なくありません。そのため、生活習慣の見直しが、妊娠率の上昇につながると言えるでしょう。

健康状態を改善する方法

生活習慣を改善すれば、健康状態が良くなり、卵子の質を低下させる要因が減ることになります。生活習慣の改善方法としては下記が挙げられます。

  • ・塩分と脂肪分は控えめにし、栄養バランスの整った食事をとる
  • ・適度な運動の習慣を身につける
  • ・禁煙を徹底する
  • ・お酒は控えめにする
  • ・睡眠時間を確保する
  • ・ストレスは溜まる前に発散する

できるところから生活習慣を変えていきましょう。

卵子凍結の知識: 妊娠に必要な卵子の個数とは?

卵子凍結の成功率と必要な採卵回数

卵子凍結は、凍結や融解などの操作によって卵子が受精できない状態になってしまう場合があります。カナダで行われた研究では、凍結した卵子を加温したところ、76%が生存し、その66%が受精に成功したと報告しています。

卵子の成功率に影響する要因と、妊娠に必要な採卵回数を見てみましょう。

卵子凍結の成功率に影響する要因

卵子凍結の成功率に影響を与える一因が、卵子凍結の方法です。

卵子凍結の方法はいくつかあり、 ガラス化保存法 や 緩慢凍結法 などがあります。このうち、ガラス化保存法のほうが細胞への負担が少なく、融解した後も卵子の生存率が高いことがわかっています。日本では、ガラス化保存法が主流となっていますが、気になる方は医師に確認するとよいでしょう。

卵子凍結の保存期間が成功率に影響するか気になる人もいるでしょう。海外で、約1万個の凍結卵子を分析した研究では、保存期間は、妊娠率や流産率、着床率、出生率に影響しないことがわかっています。

ただし、先述のとおり、母体の老化による影響は避けられないため、妊娠時の年齢が高くなれば、成功率は下がることを知っておきましょう。

採卵回数が妊娠成功率に与える影響

卵子凍結では、採卵と妊娠時期まで期間が空きます。そのため、もし卵巣過剰刺激症候群などの副作用がおこった場合でも、妊娠成功率には影響しないと考えられます。また、連続して(毎月)採卵を行うことはないため、採卵回数が妊娠成功率に影響を与えることは考えにくいと言えるでしょう。

ただし、採卵した卵子の個数が多く、凍結保存できた卵子の数が多ければ、それだけ妊娠の可能性が高くなります。採卵回数よりも、採卵した卵子の個数が重要と言えます。

卵子凍結のリスクと費用

卵子凍結にはどんなリスクがあり、どれぐらいの費用が必要なのでしょうか?

卵子凍結のリスク要因

卵子凍結では、採卵前に 排卵誘発剤 を使用するのが一般的です。排卵誘発剤は、卵巣に作用して卵子の成熟を促す薬で、副作用として卵巣過剰刺激症候群( OHSS )がおこる可能性があります。卵巣過剰刺激症候群になると、 エストロゲン が過剰に分泌されて、血管の外に水分が漏れだすようになり、お腹や胸に水が溜まります。重症になると、腎不全(老廃物が体外に出せなくなった状態)や血栓症(心筋梗塞や脳梗塞、肺塞栓など)など、命にかかわる状態となる場合も。

また、採卵では麻酔を使用するため、薬剤アレルギーや麻酔による副作用がおきる場合もあります。採卵を行うときに、膣から卵巣に向けて針を刺すため、出血や感染の可能性もあります。

卵子凍結を行う前には、医師からこれらのリスクの説明があるので、しっかり聞いておきましょう。

卵子凍結にかかる費用と保険適用

卵子凍結は保険適用外になるため、全額自己負担となります。医療機関によって費用が前後しますが、下記のような費用が必要です。

  • ・採卵:15~50万円程度
  • ・卵子凍結:1~5万円程度(卵子1個あたり)
  • ・保存費用:年額2~3万円程度(卵子2個もしくは3個保存できる凍結保存容器1本あたり)

凍結した卵子の個数が多いほど、保存期間が長くなるほど、費用が多くかかります。卵子凍結を行う前に、個数や保存期間の上限を試算しておくとよいでしょう。

助産師より

卵子凍結を行う場合、凍結する卵子の個数が多いほど妊娠率が高いと言えます。しかし、凍結する個数よりも、妊娠する年齢を1歳でも若くするほうが妊娠率を高めるのに有効です。また、保存個数が多いほど、そして保存期間が長いほど金銭的負担が大きくなるため、卵子凍結する個数や保存期間と費用とのバランスについても考えておくことが大切です。

自分にとって最善の選択ができるよう、医師と相談しながら考えていきましょう。

この記事を書いた人

田村 由美

子授かりネットワーク 編集長