人工授精(AIH)は何回まで?次に進む目安と“卵管の通り”の考え方

「AIHを何回まで続けるべきか」は、多くの方が抱える悩みです。まず強調したいのは、回数だけでは結論が出ないということ。年齢、妊活期間、卵巣予備能、精子所見、そして見落とされがちな卵管因子(“通り”)を総合評価する必要があります。本記事は次に進む目安を“期間×年齢×因子”で考え、AIH継続/FT(卵管鏡下卵管形成術等)/IVFという選択肢を解説します。

人工授精(AIH)「何回まで?」が一概に言えない理由とは

AIHの可否や継続回数は、単純な“回数の上限”では語れません。妊娠の成立は、卵子の質と数(年齢・卵巣予備能)、精子所見、排卵とタイミング、そして卵管の通りの組み合わせで決まります。たとえば同じ「AIH◯回目」でも、30代前半で他因子が軽度の方と、40歳前後で複数因子が重なる方では、次の一手が大きく変わります。さらに、負担(通院・費用・心理と、ライフイベント(仕事・家族計画)も考慮すべき現実的な軸です。

年齢・妊活期間・卵巣予備能・精子所見・卵管因子

  • 年齢:時間価値に直結します。方針のスピードや選択の優先順位に影響します。
  • 妊活期間:開始からの経過が長いほど、次段階の検討を前倒しする判断が現実的になります。
  • 卵巣予備能:AMH等の情報は“試行回数にどれだけ時間をかけられるか”の目安になります。
  • 精子所見:量・運動率・形態など。AIHの適応・有用性は所見の程度と関連します。
  • 卵管因子:HSGでの近位/遠位所見、左右差、けいれん(攣縮)による一過性なのか、構造的な通過障害なのか。ここが見落とされると、AIHの“回数”だけが増えてしまうことがあります。

見直しのタイミング指標

「何回で辞めるか」よりも、“いつ見直すか”を先に決めることが重要です。

  • 一定回数(例:施設方針に基づく数)または一定期間(例:数ヶ月)で、必ず総合評価を行う。
  • 所見の変化(HSGや超音波の再評価、精子所見の推移)があれば、設定回数の前でも方針の転換を検討する。
  • 負担の増大(通院・費用・心理)やライフイベントの前後で、計画を再設計する。

見直しでは、AIHを続ける根拠と、次段階(FT/IVF等)に進む根拠を比較します。ここで卵管因子の再確認が鍵になります。

卵管の通りをチェックする意味

AIHが続くとき、まず見落としたくないのが卵管因子。卵管造影(HSG)で近位の通過不良が示唆される場合、AIHの効率は理論上は下がりやすく、部分的な卵管造影で再評価する意義が生じます。けいれんによる一時的な細りと、構造的な狭窄/閉塞は区別が必要です。遠位の袋状像(卵管水腫の示唆)や拡散不良が繰り返し見られる場合は、腹腔鏡やIVF前処置の検討が先行することがあります。画像は結果票とセットで保管し、必要に応じて画像の再チェックや他院のセカンドオピニオンを活用しましょう。

AIH継続/FTで通りを整える/IVFへ進む選択

次の治療ステップは、患者の意向(自然妊娠希望、IVF希望)×時間軸×医学的所見を総合的に選びます。

  • AIH継続:年齢が比較的若く、卵管の通過性が概ね保たれ、他因子が軽度のとき。数周期(目安3か月)ごとに見直します。
  • FTで通りを整える:HSGで近位の機械的通過不良が疑われ、AIH前に通りにくさを是正する価値が見込まれるとき。目的・限界・一般に起こり得るリスク・代替案を術前に確認します。
  • ・IVFへ進む:年齢要因が強い、両側重度、遠位病変や水腫が疑われる、他因子が複合する等で、時間価値を優先したい状況。必要に応じて前処置を検討します。

再検査への流れ

実施体制は施設により異なりますが、一般例としての流れを示します。

  1. 情報整理:年齢・妊活期間・AMH等・精子所見・既往・HSG画像と結果票・AIH回数と経過・通院負担・心理面。
  2. 画像再確認:近位/遠位、左右差、拡散、けいれんとの鑑別、繰り返し見られる像か。
  3. 方針:AIH継続/FT検討/IVF(必要時前処置)を比較。
  4. 計画合意:数周期(目安3か月)での見直し時点・評価指標を確定。
  5. フォロー:経過の記録(実施内容・体調・心理)を簡易記録。必要なときは途中レビュー。

このフローの目的は、不必要なAIHの延長も、必要な次段階の先延ばしも避けることです。

よくある質問

  • Q. AIHは何回までが一般的ですか?
     A. 回数のみでは判断できません。年齢・期間・卵巣予備能・精子所見・卵管因子・負担を総合し、見直しの時点(一定回数/一定期間)をあらかじめ決めて検証します。
  • Q. 卵管の通りをどう見直せばよいですか?
     A. HSG画像と結果票をセットで再確認します。近位の構造的な通過不良が疑われる場合は、卵管造影での再評価を相談します。遠位病変や水腫が示唆される場合は、腹腔鏡やIVF前処置の検討が先行することがあります。
  • Q. FTとIVF、どちらを先に検討しますか?
     A. 近位の通過不良があるものの、他因子が軽度ならFTを先に検討する場合があります。年齢要因が強い・両側重度・遠位病変や水腫が疑われる等では、IVF(必要時前処置)を先に検討する選択肢が考えられます。

参考文献:慶応義塾大学医学部 卵管鏡下卵管形成法の適応拡大に関する技術的検討および妊娠予後

     厚生労働省 不妊治療について

助産師より

AIHを続けるか、次に進むか、その判断に迷う方は本当に多いです。私もサポートの中で、「もう少し頑張りたい」「でも次の一歩が怖い」という声をたくさん聞いてきました。治療の数や結果だけでなく、あなたの気持ちや生活のリズムも大切な判断材料です。焦らず、けれど立ち止まらず、今の自分に合った選択を一緒に探していきましょう。


AIHもFTもIVFも、“より良い未来をつくるための方法の一つ”。検査や治療の過程を「不安の時間」ではなく、「自分の体と向き合う時間」に変えていけるよう、私たち助産師は寄り添い続けます。どんな選択にも、希望を持って一緒に取り組んでいきましょう。

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この記事を書いた人

田村 由美

子授かりネットワーク 編集長

この記事を監修した人

中 友里恵