卵子凍結と不妊治療の関係

卵子凍結について調べると、不妊治療専門のクリニックや病院のホームページにつながることが多いでしょう。「卵子凍結は不妊治療なの?」と疑問に思う人もいるかもしれません。卵子凍結と不妊治療にはどんな関係があるのでしょうか?くわしく解説します。

卵子凍結とは

卵子凍結とは、卵巣 から 卵子 を採取し、超低温で凍結させて保存する医療技術をいいます。凍結された卵子は、超低温の環境下で半永久的に保存することが可能です。

卵子凍結は以前から、がんや病気によって妊娠が難しくなるリスクを抱える人を対象に行われていました。これが「医学的適応による卵子凍結」です。
そして、晩婚化や共働き家庭が増えた現在、注目されているのが「社会的適応による卵子凍結」です。

女性は35歳を超えるころから、妊娠率の低下や、流産率、胎児染色体異常の確率の上昇スピードが増し、不妊や 不育症 の頻度が増します。この原因のひとつが、卵子の老化です。社会的適応による卵子凍結によって若い状態の卵子を保存しておくことで、この卵子の老化の問題を避けられ、将来の妊娠への不安や心配を軽減することができます。

引用元)日本生殖医学会 Q24.加齢に伴う卵子の質の低下はどのような影響があるのですか?

不妊治療の種類と卵子凍結の位置付けとは

凍結した 卵子 を使って妊娠したい場合、体外受精 の方法のひとつである「 顕微授精 」をすることになります。顕微授精は、不妊治療の方法でもあります。

体外受精、顕微授精の概要

体外受精 とは、女性の 卵巣 から取り出した 卵子 と 採精 をした 精子 を、体外で 受精 させる治療をいいます。体外受精の方法のひとつとしてあるのが、顕微授精 です。

顕微授精は、顕微鏡で見ながら、卵子に精子の入った針を刺し、精子を注入する方法です。卵子凍結を行った卵子は、解凍後に表面が固くなり、精子の侵入が難しくなります。そのため、顕微授精で受精をサポートすることが必要になります。
顕微授精は元々、精子 の動きや状態が良くない場合に、卵子への精子の侵入を助けて受精を促す方法で、不妊治療のひとつとして行われています。卵子凍結後の妊娠で行われる場合も、不妊治療で行われる場合も、顕微授精としての方法は同じです。

卵子凍結を検討するシュチュエーションや年齢

卵子凍結は将来の妊娠の可能性を高める方法ですが、凍結時の年齢が若いほど、老化の影響が少ない卵子を保存でき、より妊娠率を高めることにつながります。
さらに、卵子凍結をしておくことで、もし将来的に不妊となったとしても、妊娠への希望をつなぐことができます。

そのため、社会的適応による卵子凍結を行うなら、少しでも若く、健康な時期に行うのがよいでしょう。とくに、妊娠を希望されてもすぐに妊娠が難しい下記に該当する人は卵子凍結を検討することが勧められます。 

  • ・生理不順や 排卵障害 がある人
  • ・ クラミジア や 淋菌 などの性行為感染症にかかったことがある人
  • 子宮筋腫子宮内膜症 がある人
  • ・人生設計的に35歳未満での妊娠が難しいと予想している人

引用元)日本生殖学会 Q5.どんな人が不妊症になりやすいのですか? 1)女性側 2)男性側

卵子凍結と不妊治療の関係

卵子凍結の手順と成功率

卵子凍結はどんな手順で行われるのでしょうか?その成功率についても見てみましょう。

卵子凍結のプロセス

卵子凍結をするには、まず診察や検査が必要です。問診や内診、超音波検査などを行い、卵巣の状態や病気の有無などを確認します。問題がないことが確認されたら、以下の手順で卵子凍結が行われます。

  • 1.排卵誘発を行う
    1回で多くの 卵子 を 採卵 できるように、排卵誘発剤 を使用して複数の卵子の発育を促進します。排卵誘発剤には、飲み薬や注射などの種類があり、医師が適切な方法を選択します。自然に排卵を待つ方法もあるので、排卵誘発をするのが不安な場合は医師に相談しましょう。
  • 2.卵子を採取する
    卵子が一定の(18mm以上に成長)に成熟したら、超音波検査 をしながら膣から細長い針を卵巣に刺し、卵子を吸い出します。痛みの感じ方は個人差がありますが、麻酔を使用するのが一般的です。
  • 3.卵子を凍結する
    採取した卵子のうち、状態が良い(成熟している)ものを専用の液体で保護し、凍結による影響が最小限になるようにします。液体窒素に入れて凍結し、妊娠を希望する時期が来るまで超低温の環境で保存されます。

成功率は?

凍結卵子 を用いて妊娠できる確率は、残念ながら100%ではありません。日本産科婦人科学会の報告によると、2020年に行われた未受精の凍結卵子を用いた胚移植受精卵を子宮に戻すこと)での妊娠率は、29.0%でした。
そして、流産 や 死産 することなく、出産できる確率は24.5%となっています。凍結卵子 を 融解 し、顕微授精 を行い、胚移植 を行った4例のうち、1例が赤ちゃんをその腕に抱っこできることになります。

引用元)2020年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績

卵子凍結の費用と保険適用

卵子凍結に必要な費用はどれぐらいかかるのでしょうか?

卵子凍結にかかる費用の概算

病院やクリニックによって費用が異なりますが、採卵におよそ15~50万円、卵子凍結 に卵子 1個あたり約1~5万円必要です。さらに保管費用として、年間2~3万円(凍結保存容器1個あたりの値段。一つの容器には卵子2~3個を保存することが可能)が必要です。

そのため、もし卵子10個を10年凍結保存した場合、採卵・卵子凍結・保管費用などを含めて100万円以上必要になる場合もあります。保管期間が長くなれば、年間約10万円の保管費用が発生し続けることになります。

保険適用の有無や自費負担

2022年4月より不妊治療が保険適用となりましたが、卵子凍結やその後の妊娠時に、保険は適用されるのでしょうか?社会的適応による卵子凍結と医学的適応、それぞれの場合を見てみましょう。

  • ■社会的適応による卵子凍結の場合
    社会的適応による卵子凍結は不妊治療ではないため、保険適用外であり、助成金もないため、全額自己負担となります。いつ卵子凍結を行い、凍結保存した卵子を何歳まで保管するのか、試算することが大切です。
  • ■医学的適応による卵子凍結の場合
    医学的適応による卵子凍結の場合は、助成金があります。卵子凍結 は1回あたり20万円(1人に付き通算2回まで)、凍結した卵子 を用いた生殖補助医療には1回25万円(年齢が40歳未満の場合は通算6回まで、40歳以上43歳未満では通算3回まで)が助成されます。

卵子凍結のメリット・デメリットを知っておきましょう。

引用元)厚生労働省 妊孕性温存療法
厚生労働省 温存後生殖補助医療

卵子凍結と不妊治療の関係

卵子凍結のメリットデメリット

卵子凍結を選択するメリット

卵子凍結のメリットは、妊娠 を希望する時期の卵子よりも若い卵子で妊娠・出産できることです。若い卵子は、妊娠率が高く、流産率や染色体異常の確率も低くなります。母体の老化は止められませんが、卵子の老化による影響を軽減できます。
また、もしなんらかの理由で不妊となった場合に、凍結卵子 があることで 妊娠 を諦めなくてよくなるかもしれません。卵子凍結が将来への保険となる可能性があるのも大きなメリットでしょう。

卵子凍結に伴うデメリットやリスク

卵子凍結のデメリットは、費用が高額になることと、副作用のリスクがあることです。
卵子凍結の期間が長くなればなるほど、費用は高額になります。それだけでなく、加齢によって母体の老化にともなって妊娠率も下がってしまうのです。また、卵子凍結では、卵子を凍結したり融解したりすることで、凍結しない卵子( 新鮮卵子 )に比べて妊娠率も低くなります。
そのため、できるだけ早めに妊娠することで、費用が高くなるのを防ぎつつ、妊娠率を高めることが期待できるのです。

そして、卵子凍結には副作用のリスクがあります。排卵誘発剤によって卵巣が過剰に刺激され、命にかかわる副作用を招く可能性があることや、採卵時に卵巣に針を刺すことで出血や感染をおこすリスクもあります。採卵時の麻酔によって、薬剤アレルギーやアナフィラキシーを発症する可能性もあるのです。

これらのデメリットやリスクを理解し、卵子凍結を行うかを検討することが大切です。

引用元)日本がん・生殖医療学会 妊孕性温存方法

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専門家より

卵子凍結は不妊治療ではありませんが、不妊治療で行う検査や治療と同じ内容が必要になることがあります。そのため、不妊治療を行っているクリニックや病院へ受診することになります。

費用面で大きな負担がかかる卵子凍結ですが、将来の妊娠の可能性を高め、不妊や不育症への保険となるなど、メリットが多いのも事実です。今後のライフプランを考える上で、一度、卵子凍結を検討してみるのもいいかもしれません。

この記事を書いた人

田村 由美

子授かりネットワーク 編集長