卵子凍結をする理由は何ですか?

最近話題の卵子凍結凍結保存することで卵子を保存当時の状態で保てる、画期的な医療技術です。そんな卵子凍結を行うべきかどうか、迷う人も多いでしょう。卵子凍結を行う理由と、メリット・デメリットについてくわしく解説します。

卵子凍結とは?

卵子凍結とは、卵巣 から体外に取り出した 卵子 を冷凍保存することをいいます。採取した卵子をそのまま冷凍するわけではなく、専用の液体で細胞を保護した後、液体窒素で急速冷凍します。細胞が壊れやすい温度を一瞬で通り越して冷凍できるため、細胞への影響を最小限にできるのです。

凍結した卵子は半永久的に保存でき、妊娠を望むタイミングが来るまで保存当時の状態を保てます。

卵子凍結をする理由は何ですか?

卵子凍結をする理由1

卵子は、胎児 のころに元となる細胞が作られ、そこから増えることはありません。卵子の元は女性と一緒に年を重ねながら、月経や老化によってその数を徐々に減らしていきます。

女性が加齢とともに体力の低下や病気の発症が増えるのと同じように、卵子も老化し、数も減っていきます。高年齢での妊娠が難しくなるのは、この卵子の質の低下と数の減少が大きな要因です。卵子の質の低下は、妊娠率の低下や、流産率・染色体異常になる確率の上昇を招きます。

このような加齢によって引き起こされる、卵子の老化への不安や心配がある人を対象として行われるのが「社会的適応による卵子凍結」です。卵子凍結をすることで、卵子の質を保存当時の状態で保つことができ、卵子の質の低下に対処できます。

社会的適応による卵子凍結が注目されるのは、今まで避けられなかった、卵子の老化による影響を抑えられるようになったことが大きいでしょう。

卵子凍結をする理由

がんや自己免疫疾患(細菌やウイルスなどに働くべき免疫が自身のからだを攻撃する病気)などの病気になった場合、放射線療法や化学療法など、病気の治療によって将来の妊娠が難しくなる可能性があります。

治療によって妊娠が難しくなることが予想される場合、卵子凍結を行うことで医療的な理由による不妊リスクを軽減できます。病気の治療が終わった後も、将来の妊娠への希望をつなぐことができるのです。

このような、がんなどの治療によって将来の妊娠が難しくなる人を対象に行われる卵子凍結を「医学的適応による卵子凍結」と言います。

卵子凍結をする理由3

厚生労働省のデータによると、令和3年の女性の就業者数は 2,980万人となっており、前年に比べて12万人増加しています。それ以前から、働く女性の割合は増えており、仕事のキャリア形成がライフプランに大きく影響するようになっています。とくに、キャリア形成と 妊娠 ・出産 の時期は共に20~30代が最適な時期であり、どちらを優先させるか、どのタイミングで妊娠・出産を考えるのか、非常に悩ましいところです。どちらかを諦めざるを得なかった人も少なくないでしょう。

この問題に対して、希望の光となるのが 卵子凍結 です。卵子凍結をすることで、卵子の質の低下による問題を考えなくてよくなることは、働く女性にとって大きな意味を持ちます。卵子凍結が、キャリアやライフプランをサポートする時代が訪れようとしています。

ただし、母体の老化は回避できないため、妊娠・出産のタイムリミットがなくなるわけではありません。それでも、不妊や染色体異常などの確率を少しでも下げられることは、大きなメリットと言えるでしょう。

引用元)厚生労働省 働く女性の状況

卵子凍結をする理由は何ですか?

卵子凍結のメリットとデメリット 

卵子凍結を行う上でどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか?それぞれ見てみましょう。

卵子凍結のメリット

卵子凍結のメリットは3つあります。

  • 1.若い卵子で妊娠できる

卵子凍結を行っていない場合、妊娠 を希望した年齢と同じだけ年を重ねた 卵子 での妊娠となります。これは自然なことですが、加齢によって卵子の質は低下するため、35歳ごろから妊娠率の低下と流産率の上昇、染色体異常の発生率の上昇などがみられます。

もし卵子凍結をしていた場合、凍結保存した当時の若い卵子で妊娠できるため、これらのリスクが減ることが期待でき、妊娠・出産に結びつきやすくなるでしょう。

  • 2.もしものときの保険になる

年齢を重ねる中で、婦人科系の病気を発症して 不妊 となったり、事故や病気で 卵巣 を失ったりする可能性は誰にでもあります。今、妊娠が可能なからだでも、将来も必ずそうとは限らないでしょう。

卵子凍結をしておくことで、もしものときに妊娠・出産を諦めなくてよくなるかもしれません。卵子凍結を将来の保険として捉えるのは、不思議なことではないでしょう。

3.妊娠へのプレッシャーを緩和できる

妊娠・出産の適齢期は20~35歳までと言われていますが、誰しもがその期間に妊娠できる状況にあるわけではないでしょう。妊娠には、パートナーの有無、仕事や家族・自分自身の状況など、さまざまな環境が整っている必要があります。適齢期が明確化されていることで、環境が整っていないのに気持ちばかりが焦り、プレッシャーに感じる人も多いでしょう。

卵子凍結によって、若いときに採取した卵子を冷凍保存できることは、卵子の質の低下を回避するだけでなく、妊娠へのプレッシャーを緩和することにもつながります。

引用元)加古川医師会 妊娠には適齢期があります

卵子凍結のデメリット

卵子凍結のデメリットも見てみましょう。

  • 1.費用の負担が大きい

卵子凍結は保険適用ではないため、全額自己負担になります。病院やクリニックによって金額は異なりますが、採卵に15~50万円程度、卵子凍結に卵子1個あたり1~5万円程度必要です。さらに凍結後の保管料として、凍結保存容器1個(卵子2個もしくは3個保存できる)あたり2~3万円ほどの年間費用が必要です。

しかし、卵子凍結のうち、医学的適応による卵子凍結には助成金があります。卵子凍結に対して1回あたり20万円(2回まで)、凍結した卵子を用いた生殖補助医療に対して1回25万円(40歳未満は通算6回まで、40歳以上43歳未満は通算3回まで)が助成されます。申請が必要なため、お住いの自治体窓口やホームページを確認してみましょう。

社会的適応による卵子凍結には助成金がありませんが、卵子凍結を福利厚生として取り入れている企業が出てきています。今後、卵子凍結が福利厚生としてスタンダードなものになれば、今よりも卵子凍結が受けやすくなることが期待できます。

引用元)厚生労働省 妊孕性温存療法
厚生労働省 温存後生殖補助医療

  • 2.副作用の可能性がある

卵子凍結では、一度の採卵で多くの 卵子 を採取できるように 排卵誘発剤 が使われることが多いです。排卵誘発剤の副作用として、卵巣過剰刺激症候群( OHSS )がおきる可能性があります。

卵巣過剰刺激症候群( OHSS )は、排卵誘発剤の刺激によって、卵巣 が腫れたり、おなかや胸に水が溜まったりする状態です。重症になると、腎臓の機能が低下したり、血栓(血管内にできる血の塊)ができたりすることもあり、命に関わる場合もあります。

このほか、採卵時に 膣 から 卵巣 に向けて針を刺すため、出血や感染のリスクがあります。

引用元)厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

卵子凍結をする理由は何ですか?

卵子凍結を検討するポイントとは?

社会的適応による卵子凍結を検討する場合、下記のポイントをチェックしてみましょう。

卵子凍結には推奨年齢がある

社会的適応による卵子凍結にも、日本生殖医学会によるガイドラインがあります。これによると、社会的適応による卵子凍結の対象は成人女性で、採卵時の年齢が40歳以上は推奨できないとしています。

また、凍結保存した卵子を使用しての妊娠は45歳以上は推奨できないとされているため、できる限り若いときに卵子凍結を行うのがよいでしょう。

病院やクリニックによっては、独自の基準を設けているところもあるため、40歳以上で卵子凍結を行える場合もあります。
ただ、年齢だけでなく持病や体調なども影響するため、卵子凍結を希望する場合には一度、受診することが勧められます。

引用元)社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン

既婚の場合は胚凍結が勧められる

卵子凍結は受精前の卵子を凍結保存することを指しますが、受精卵 を凍結保存する「胚凍結受精卵凍結)」という方法があります。 卵子凍結 と 胚凍結 では、受精前に凍結保存している卵子凍結のほうが受精後に育ちにくいことがわかっています。
そのため、既婚の場合には胚凍結をしたほうが、将来の妊娠に結びつきやすいと言えるでしょう。

引用元)日本がん・生殖医療学会 妊孕性温存方法

年間費用が発生する

社会的適応による卵子凍結は保険適用外で助成制度もないため、費用の負担が大きくなります。採卵・凍結時の費用だけでなく、保管費用が毎年必要になることも考慮しておきましょう。

たとえば、25歳で卵子凍結を10個行い、35歳まで保管したとすると、採卵・卵子凍結・保管費用などを含めて100万円以上必要になることもあります。さらに保管期間が長くなれば、年間10万円前後の保管費用を払い続ける必要があります。それを続けられるか、検討することが大切です。

専門家より

卵子凍結を行う理由は、その人その人によってさまざまです。卵子凍結をすることで明るい未来が想像できるのなら、動くのに十分な理由です。まず、病院に相談に訪れ、卵子凍結を行えるか診察や検査を受けましょう。そこから、本当に卵子凍結を行うのかを決めても遅くはありません。後悔のない人生を送るために、できることから行動してみましょう。

この記事を書いた人

田村 由美

子授かりネットワーク 編集長