【専門家が解説】卵管造影検査とは?

妊娠を希望して病院を受診したところ、「 卵管造影検査 」という検査を勧められた方は少なくないでしょう。初めて聞く検査名に、不安に感じるかもしれません。卵管造影検査とはどんな検査なのでしょうか?卵管造影検査の内容やメリット・デメリットなどについて、くわしく解説します。

卵管造影検査とは?

卵管造影検査とは、卵管 に 閉塞 や 癒着 などの異常がないか確認するための検査です。卵管にこれらの異常があると、不妊の原因となる可能性が高いのです。卵管造影検査は、造影剤を子宮から卵巣へと注入するため、子宮も一緒に検査することが多く、子宮卵管造影検査( HSG )とも呼ばれます。造影剤を使う検査のため、診察室や内診室ではなく、X線造影室で検査が行われます。

卵管について

卵管は子宮の左右に1本ずつあるチューブ型の器官です。長さは約10~12cmあり、太さが約3~8mm(内腔の直径は約1~6mm)と場所によって変化します。子宮側から卵巣側まで4つの部位に分けられ、子宮につながる「間質部(かんしつぶ)」、細長く伸びた「峡部(きょうぶ)」、卵子と精子が出会う場所である「膨大部(ぼうだいぶ)」、卵子をキャッチする「漏斗部(ろうとぶ)」があります。内径は子宮側が最も細く、卵巣側が最も太いです。

卵管は、妊娠に欠かせない重要な器官です。卵管と妊娠成立までの流れとの関係を見てみましょう。

  • 1.排卵
    卵巣から卵子が飛び出す( 排卵 )と、卵子は卵管の漏斗部にキャッチされ、膨大部にたどり着きます。
  • 2.受精
    性交によって膣から子宮内へと入った精子は、膨大部にたどり着きます。膨大部で 精子 と 卵子 が出会って 受精 すると、受精卵 となります。
  • 3.移動
    受精卵は細胞分裂しながら、峡部と間質部を通って子宮内にたどり着きます。
  • 4.着床
    子宮に到着した受精卵は、子宮内膜に 着床 し、妊娠成立となります。

この妊娠成立までの流れのどこかに異常があると、不妊の原因となります。たとえば、卵管の内側が通れなくなったり、狭くなったりしていると、精子が膨大部までたどり着けずに受精が起こらなくなってしまいます。

また、無事に受精しても、卵管の狭窄や癒着があると、受精卵が卵管の途中で着床してしまうことも。
卵管で着床した状態を「 異所性妊娠( 子宮外妊娠 )」と言い、妊娠の継続ができません。異所性妊娠に気づくのが遅れると、細い卵管内で受精卵が育ってしまい、卵管が破裂して命にかかわる場合もあります。

このように、卵管の通りやすさは妊娠に影響するだけでなく、女性の命やその後の妊娠に影響することもあるのです。

引用元)卵管の発生と解剖

卵管造影検査の検査方法

卵管造影検査では、少ないX線を連続で照射しながら、カテーテルを使って造影剤を子宮口から子宮内、卵管へと注入していきます。造影剤が入った部分は画像に白く映るようになり、子宮や卵管の形をリアルタイムで確認することが可能です。
卵管の途中から造影剤が入らない様子が映れば卵管の閉塞が、卵管の細さよりも大きく映る部分があれば 卵管留水腫 (らんかんりゅうすいしゅ:卵管の中に水が溜まって広がった状態)や卵管周囲の癒着が疑われます。

引用元)日本生殖医学会 Q7.不妊症の検査はどこで、どんなことをするのですか?
    子宮卵管造影検査
    卵管留水症

【専門家が解説】卵管造影検査とは?

卵管造影検査のメリットとは?

卵管造影検査のメリットは下記の2つが挙げられます。

  • ・からだに傷を作ることなく検査できる

卵管の状態を知る方法として、卵管造影検査 や 腹腔鏡検査 があります。腹腔鏡検査では、お腹を3か所切開して検査するため、小さな傷跡が残りますが、卵管造影検査では切開する必要がありません。腹腔鏡検査のように全身麻酔をする必要もないため、日帰りで検査を受けられます。

  • ・検査後の妊娠率が上がる

卵管造影検査では、卵管の異常を見つけられるだけでなく、卵管の通りを良くする効果も期待できます。検査後に自然妊娠する可能性が高まるため、不妊治療が必要なくなるかもしれません。

引用元)腹腔鏡
    日本生殖医学会 Q7.不妊症の検査はどこで、どんなことをするのですか?

卵管造影検査のデメリットとは?

卵管造影検査のデメリットは3つあります。

  • ・検査精度が高くない

卵管造影検査の結果は、100%正しいものではありません。異常を見つける力(診断感度)は約60%、異常がないことを見つける力(特異度)は約90%です。
そのため、卵管造影検査の結果、卵管の閉塞と診断されたのに実は閉塞していなかった場合や、異常がないと診断されたのに閉塞していた場合もあるのです。卵管の状態をより確実に知るには、腹腔鏡検査をする必要があります。ただ、腹腔鏡検査は全身麻酔が必要な手術となるため、卵管造影検査を先に行うのが一般的です。

  • ・検査に痛みをともなうことがある

卵管造影検査では造影剤を子宮や卵巣に注入しますが、造影剤の注入する量や注入速度、子宮や卵巣の周り(腹腔)に残る量などによっては腹痛が起こることがあります。

  • ・造影剤による副作用のリスクがある

造影剤によるアレルギーが起こることがあり、じんましん、かゆみ、吐き気、嘔吐、くしゃみ、咳などの症状が見られる場合があります。造影剤の投与後すぐに、激しいアレルギー反応がみられることがあり、呼吸困難や急激な低血圧によって命に関わることも。

また、造影剤には水溶性のものと油性のものがあり、それぞれリスクが異なります。油性の造影剤の場合、体内に造影剤が残りやすく、炎症の原因となる可能性があります。また、まれですが、血管内に造影剤が入り、肺や脳の血管が詰まるリスクも。水性の造影剤の場合は、油性の造影剤に比べて腹痛が出やすいです。

水性の造影剤のほうがリスクは少ないと言えますが、油性の造影剤のほうが画像が鮮明で、検査後の妊娠率が高くなるため、医師によって患者さんの状態に合った方法が選択されます。

  • ・感染や出血のリスクがある

卵管造影検査では造影剤を使用しますが、本来は子宮や卵管に入ることのない異物であり、感染や出血がおこる可能性があります。出血はおりものに混じる程度で少量のことが多いですが、量が多い場合や増えている場合には病院に連絡しましょう。また、検査後2~3日後に腹痛や発熱が起こる場合は感染の可能性があります。この場合も病院に連絡し、受診しましょう。

引用元)日本産婦人科医会 5.不妊の原因と検査
    卵管病変に対する子宮卵管造影検査と腹腔鏡検査所見の比較
    造影剤の副作用  
未承認薬・適応外薬の要望に対する企業見解
リピオドールによる肉芽腫性炎症
慶應義塾大学病院 子宮卵管造影
令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 不妊治療の実態に関する調査研究最終報告書

【専門家が解説】卵管造影検査とは?

どんな人が受けるの?

卵管造影検査は、不妊の可能性がある女性が対象になります。血液検査や超音波検査のように、よく耳にする検査ではないかもしれませんが、卵管造影検査は一般的な不妊検査のひとつで、卵管の異常を見つけるのに欠かせない検査です。
厚生労働省が行った不妊治療を行った「体外受精胚移植に関する登録施設」へのアンケートでは、子宮卵管造影検査をスタンダードな検査として受診患者の多くに実施する病院が8割を超えるという結果が出ています。検査に対して不安を感じる場合は、医師やスタッフに相談するとよいでしょう。

検査を受ける時期は?

卵管造影検査ではX線を照射するため、被ばくしますが女性のからだに影響がない程度です。ただ、この被ばくが受精卵や胎児にとってはリスクとなるため、検査を受ける時期は妊娠していない状態である必要があります。

そのため、卵管造影検査は妊娠の可能性が低い時期に行う必要があります。月経終了後から排卵日までの期間が卵管造影検査を受けるのに適した時期です。
検査時期に注意することに加えて、月経が始まってから検査日までの期間は必ず避妊することが大切です。

治療について

卵管造影検査によって卵管の異常が確認された場合、どんな治療法があるのでしょうか?

腹腔鏡検査

腹腔鏡検査では、胃カメラのような機材でお腹の中を確認でき、卵管やその周りの状態を目で見てチェックできます。さらに、腹腔鏡検査で異常が確認できれば、卵管の癒着をはがすなどの治療を同時に行うことが可能です。

卵管鏡下卵管形成術(FT)

卵管鏡下卵管形成術(FT)という治療法があり、細いカテーテルを膣から子宮、卵管へと進め、内蔵されたバルーンを通して卵管内の詰まりを取ります。FTと腹腔鏡での治療を同時に行う方法もあります。

体外受精

腹腔鏡での治療が難しい場合や卵管以外にも不妊の原因がある場合には、体外受精 が勧められます。体外受精は、卵巣から卵子を体外に取り出し、精子と受精させる治療方法です。受精後、数日培養された 胚( 受精卵 )は、子宮に戻され、着床できれば妊娠成立となります。

引用元)国立国際医療研究センター 不妊症について

【専門家が解説】卵管造影検査とは?

検査の費用

卵管造影検査は保険適用となるため、3割負担で検査を受けられます。3割負担の場合、どれぐらいの費用が必要なのでしょうか?

保険適用 

卵管造影検査を保険適用で受けた場合、費用は6,000円~1万円程度になります。ホームページに料金を掲載している病院もあるので、事前に調べておくと安心です。

引用元)順天堂大学浦安病院 リプロダクションセンター
    東京都福祉局 不妊の検査とは
    卵管病変に対する子宮卵管造影検査と腹腔鏡検査所見の比較

専門家より  

不妊原因の中で、卵管の異常は3~4割を占めるとされています。卵管造影検査は、卵管の異常を見つけるのに適した検査であり、不妊症の原因を探るのに欠かせない検査方法と言えます。X線や造影剤を使うなど、あまり馴染みのない人も多い検査ですが、不妊に悩む多くの女性が受ける検査です。もし、卵管造影検査を受けるにあたって、不安や心配事がある場合には医師や看護師に相談してみましょう。

この記事を書いた人

田村 由美

子授かりネットワーク 編集長