クラミジア既往と卵管の通り ─ 再評価のポイントと次の治療

クラミジア感染の既往は、骨盤内の炎症や癒着を介して卵管の通り(通過性)に影響することがあります。 卵管造影(HSG)で「片側が細い」「遠位(卵管の出口部分)で抜けが悪い」「水腫を疑う」などの所見が示唆された場合でも、方針は 年齢・妊活期間・卵巣予備能・精子所見・既往手術や骨盤痛の有無といった全体像で変わります。 本コラムは、HSGの再評価のポイント、待機/タイミング・AIH/FT(卵管鏡下卵管形成術等)/腹腔鏡・IVF という選択肢の位置づけ、受診ステップとよくある質問までを、表やチェックリストを用いて整理します。 

なぜ「再評価」が必要なのか

HSGは造影剤の広がりから通過性の目安を推定する検査です。一方で、検査刺激や緊張による 時的なけいれん(攣縮、体位や注入条件の影響で、疑いが過大にも過小にも見えることがあります。 「狭い/詰まり」と聞いた直後ほど、感情的にならず、所見の部位(近位/遠位)・左右差・拡散像・形状を落ち着いて確認する姿勢が大切です。

HSGの読み方

まずは近位(子宮側の卵管の入口部分)と遠位(卵巣側の卵管の出口部分)のどちらで通りにくさが示唆されているのかを特定します。 近位の細まりは攣縮でも見えますが、繰り返し見られる途絶や、左右差の大きい停滞像は近位付近で通りが細くなっているサインになり得ます。 遠位の袋状膨大は卵管水腫の可能性として議論され、IVF(体外受精)前に対処を検討する場面があります。 いずれも、結果票と画像を同時に見ながら解説を受けると理解が進みます。

直後にやるべきこと:記録・保管・見直し期日の設定

  • 画像+結果票の保管:可能なら「注入直後/少し経過後」の2コマを入手。
  • 症状メモ:痛みのタイミング(注入直後/途中/終了後)、左右差、持続時間を記録。
  • 見直し期日:数周期(目安3か月)で総合評価する面談日を先に予約し、漫然と継続しない。
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再評価のHSG像のタイプ

再評価では、HSG像のタイプに応じて次の手を変えます。加えて、年齢・妊活期間・卵巣予備能(AMH等)・精子所見、さらに 骨盤痛・発熱歴・既往手術などの背景が重要です。

HSGタイプ別の視点(例)

タイプ所見の例次の治療候補補足
片側・近位の通過不良入口付近で細い/途絶、左右差が目立つ部分的な卵管造影で再評価→必要時にFT攣縮との鑑別が鍵。再現性を確認
両側・近位の通過不良両側で細い/途絶像が繰り返し出る再評価のうえFTやIVFの検討年齢や他因子で優先順位が変わる
遠位の袋状像(卵管水腫)先端でたまり、腹腔への拡散が乏しい腹腔鏡評価/IVF前処置の検討IVF計画とセットで検討されることがある
疑い(不確実)像が一貫しない、体位で変化時間をおいた再評価/別の方法での確認“断定”ではなく仮説として扱う

全体チェック:年齢・期間・卵巣予備能・精子所見・背景症状

  • 年齢:時間価値に直結。治療方針の転換基準を前倒しにする。
  • 妊活期間:長期化している場合は治療方針の相談を早めにする。
  • 卵巣予備能:AMH等。検証に使える「回数・期間」の現実性を予測する。
  • 精子所見:量・運動率・形態など。AIHの適応や有用性の判断材料。
  • 骨盤痛・発熱歴・既往手術:遠位の癒着や慢性炎症の疑いがあるか。腹腔鏡/IVF前処置の優先度に影響。
クラミジア既往と卵管の通り ─ 再評価のポイントと次の治療

次の治療の選択肢の整理

次の治療は択一ではなく、価値観(自然妊娠希望か、IVF治療も検討希望か)×時間軸×医学的所見の交点で選びます。 回数だけに引きずられず、“いつ見直すか”を先に決めるのがコツです。

選択肢の比較

選択肢向いている状況の例通院負担検討期間の目安補足
待機/タイミング所見が軽度・片側通過が保たれる数周期(見直し必須)年齢・期間・他因子で期限や回数の設定
AIH(人工授精片側通過、排卵因子軽度低〜中数周期(回数で総合見直し)年齢や回数で方針の見直し検討
FT(卵管鏡下卵管形成術)近位の通過不良が疑われる低〜中(一般に日帰りのことあり)術後 数周期で検証→見直し目的は卵管通過性の整備
腹腔鏡・IVF前処置遠位癒着・水腫が強い、両側重度中〜高処置後の回復をみて判断IVF計画と合わせて検討
IVF(体外受精年齢要因が強い、他因子が複合中〜高周期単位時間の観点を重視する状況

※上表は一般的な整理です。実施体制・保険適用・自己負担は施設・制度により異なります。

迷ったら「期間×年齢×因子」を考える

  • 目標時期:◯年◯月までに、の仮ゴールを設定。
  • 評価点:AIH◯回、HSG再評価、精子所見の推移などを紙に明文化。
  • ステップ条件:改善が見られなければ、FTまたはIVFへ。
  • 生活との両立:通院・費用・心理負担、仕事や家族計画も同じシートに書く。
クラミジア既往と卵管の通り ─ 再評価のポイントと次の治療

受診の流れ例とよくある質問

以下は受診の一般例です。クラミジア既往がある場合でも、近位が少し細く見えている、 遠位の癒着・水腫では進め方が異なります。疑問は早めにメモへ落とし、画像と結果票を持参しましょう。

受診の流れ

  1. 初診:HSG画像・結果票・既往(感染歴・手術歴)・治療歴・症状(骨盤痛等)を共有。
  2. 必要時に再確認:部分的な卵管造影で近位を精査、超音波や追加検査で遠位の評価を強化する。
  3. 方針説明:所見と希望に応じて、待機/AIH/FT/腹腔鏡/IVFの位置づけを比較。
  4. 実施:FTが合う場合は日帰りで実施されることがあります(体制により異なる)。遠位が強いときは腹腔鏡やIVF前処置を優先。
  5. 術後計画:自然〜AIHの計画を立て、数周期(目安3か月)で結果と所見をレビュー。

よくある質問(FAQ)

  • クラミジア既往があると妊娠は難しいですか?
    一概には言えません。年齢・他因子・HSG所見・背景症状を合わせて総合判断します。
  • ・HSGで閉塞と言われたら、すぐIVFですか?
    状況により異なります。近位の構造的な通過不良が疑われる場合は、FTを検討することがあります。遠位の癒着・水腫が強い場合は腹腔鏡やIVF前処置を先に考える選択肢が生じます。
  • ・FT後は何をしますか?
    医師の方針に従い、一定期間は自然〜AIHを計画し、数周期で見直します。妊娠に至らなければ次段階(IVF等)を相談します。
  • ・費用や保険適用は?
    保険適用の範囲があります。自己負担は制度・条件・施設で異なるため、最新情報は院内案内をご確認ください。
  • ・遠方でも相談できますか?
    オンライン初診や遠方サポートを設ける施設もあります。画像データと結果票を準備すると円滑です。

※本ページは一般的な説明です。検査・手技の実施可否や運用、保険適用は施設により異なります。特定施設の標準運用を示すものではありません。

参考文献:慶應愚塾大学医学部 卵管鏡下卵管形成法の適応拡大に関する技術的検討および妊娠予後

日本生殖医学会 不妊治療Q&A

助産師からのメッセージ

「クラミジア感染の既往がある」と聞くと、「自然に妊娠はできないのかな…」と不安になってしまいますよね。けれども、必ずしもそうではありません。感染の影響は人によって違い、検査の結果もその時の体調やホルモンバランスで変わることがあります。


大切なのは、「自分の体が今どんな状態なのか」を知ること。そして、次にどう進むかを焦らず一緒に考えることです。
HSGの再評価やFTなど、体を整えるステップは“チャンスを増やすための準備期間”。この時間も、未来のための大切なプロセスです。


不安をひとりで抱えず、わからないことはいつでも相談してくださいね。どんな状況にも、きっと希望はありますので、一緒に取り組んでいきましょう。

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この記事を書いた人

田村 由美

子授かりネットワーク 編集長

この記事を監修した人

中 友里恵