体外受精の成功率と成功に導くポイントとは?

日本で初めて、体外受精によって赤ちゃんが生まれたのが約40年前になります。現在も不妊治療のスタンダードな方法のひとつであり、2020年に体外受精によって誕生した赤ちゃんの数はおよそ6万人です。体外受精を受けるにあたって気になる、成功率や成功のポイントについてくわしく解説します。

体外受精とは

体外受精とは、卵巣 から取り出した卵子と 採精 した精子を体外で 受精 させる方法です。
体外受精には「体外受精・ 胚移植 ( IVF-ET )」と「 顕微授精( ICSI )」などの方法があります。

体外受精の種類方法
体外受精・胚移植 (IVF-ET)体外に取り出した卵子と精子を、培養液の入った容器(シャーレ)に一緒に入れ、受精させる。受精した胚(受精卵)を体外で培養し、良好に発育したものを子宮に戻す。
顕微授精 (ICSI)体外に取り出した卵子の中に、顕微鏡で見ながら精子を直接注入して受精させる。受精後に体外で数日培養し、良好に発育した胚を子宮内に戻す。

体外受精や顕微授精で得られた 胚 が複数個ある場合、胚を超低温で保管する「 胚凍結 」を勧められることがあります。胚を凍結しておくことで、子宮に戻す胚を1個にしぼることができ、多胎妊娠を防げます。凍結した胚は、次回以降の周期で妊娠を希望するタイミングで使用できるため、あらためて採卵や採精、体外受精をする必要がありません。

また、副作用のおそれがあり、採卵した周期に胚を子宮に戻さないほうがいいと判断された場合や、凍結して移植したほうが着床率が高くなると判断された場合には、胚すべてを凍結する「全胚凍結法(ぜんはいとうけつほう)」を行うケースもあります。
凍結された胚は、別の周期に融解され、「凍結融解胚移植(とうけつゆうかいはいいしょく)」を行うことが可能です。

このように、不妊治療にはさまざまな方法があるので、医師と相談しながら自分やパートナーに合った治療を受けることが大切です。

引用元)厚生労働省 不妊治療をめぐる現状
    国立国際医療研究センター病院 体外受精

体外受精の対象者とは

体外受精は、男女のどちらか、もしくは両方に下記の要因がある場合に勧められます。

  • ■男性側の要因
    ・精子の動きが悪い
    ・精子の数が少ない
  • ■女性側の要因
    ・両側の卵管に閉塞や癒着がある
    ・精子を弱らせたり、受精や胚の成長を妨げたりする抗体を持っている

また、人工授精(精液を洗浄し、動きの良い精子を選んで子宮内に注入する方法)で妊娠しなかった場合にも、次のステップとして体外受精が行われます。
体外受精で受精しない場合には、顕微授精を勧められることが多いです。

引用元)日本産婦人科医会 11.生殖補助医療(ART)
    日本生殖医学会 Q10.人工授精とはどういう治療ですか?

体外受精の年齢別妊娠率

体外受精と顕微授精、そして凍結融解胚移植などの生殖補助医療( ART )による妊娠率(総治療数あたり・胚を全凍結した場合を除く)を年齢別に見てみましょう。

2022年の日本産科婦人科学会のデータが下記のとおりです。

   25~35歳:約40%
36~39歳:約30%
40~41歳:約20%
42~43歳:約10%
43~46歳:約5%
46~47歳:約2%
48~49歳:約1%

体外受精を行った場合も、自然妊娠と同じく、加齢によって妊娠率が下がっていくことがわかります。30代半ばまでは緩やかに妊娠率が低下しますが、40歳に近づくほど、1歳の年齢の差で妊娠率が大きく変わるようになります。

そのため、35歳以上で妊娠を希望する場合は、早めに病院を受診することが大切です。

引用元)2020年 体外受精・胚移植等の臨床実施成績

体外受精は何回目で妊娠することが多い?

一般的に、体外受精は3~4回目で妊娠する人が多いと言われています。3~4回目までに妊娠しなかった場合、体外受精ではカバーできない他の要因がある可能性も。顕微授精に ステップアップ を考えるタイミングかもしれません。

引用元)札幌医科大学 体外受精関連Q&A(13題) [旭川医大 千石一雄医師回答]

体外受精を成功に導くポイントは?

体外受精によって妊娠する可能性を上げるにはどうすればいいのでしょうか? 体外受精は体外で受精させる方法ですが、卵子と精子が出会い受精するというところは自然妊娠と変わりません。卵子と精子の質を高めることが、体外受精を成功に導く大きなポイントになります。質の良い卵子と精子が出会い、順調に細胞分裂が進んだところで、環境の整った子宮に胚を戻すことができれば、妊娠の確率は高まるでしょう。

着床率を上げるためにできること

体外で受精した胚を子宮に戻し( 胚移植 )、胚が子宮内膜にもぐりこむことができれば、着床 となります。着床した胚は変化し、胎児になる部分と胎盤になる部分に分かれます。着床するまでは、胚の中での変化だったのが、着床によって胚の外から栄養や酸素をもらえるようになるのです。

しかし、胚移植をすれば、必ず着床するわけではなく、着床できない場合も少なくありません。着床率を上げるためにどうすればいいのか見てみましょう。

 ■食事

着床時期に子宮内膜が薄いほど、着床しづらいことがわかっています。子宮内膜を厚くする方法のひとつが、血流を改善することです。

食事内容で血流改善の効果が期待できるので、下記のような食材を意識的にとりましょう。

  • ・玉ねぎ
  • ・長ねぎ
  • ・かぼちゃ
  • ・納豆
  • ・青魚(あじ、いわし、さばなど)
  • ・しょうが
  • ・にんにく

また、卵子や精子の質の低下を防ぐ方法として、「 抗酸化物質 」を多く含む食材を取り入れることも大切です。抗酸化物質には、からだを錆びさせる過剰な活性酸素から、自分のからだを守る働きがあります。下記のような食材に多く含まれているので、上手に組み合わせて食べるようにしましょう。

  • ・かぼちゃ、ほうれん草などの緑黄色野菜
  • ・みかんやグレープフルーツなどの柑橘類
  • ・納豆
  • ・ごま
  • ・ナッツ類

これらの食材を効率的にとる方法としておすすめなのが、和食です。具だくさんのお味噌汁と魚料理、野菜の煮物を加えれば、栄養バランスが良く、着床率の向上が期待できるメニューの完成です。休みの日から少しずつメニューを変えていけるといいですね。

引用元)治療の難しい不妊症のためのガイドブック
    厚生労働省 抗酸化物質

 ■運動

運動は血流改善に効果的です。運動習慣のない人は、ウォーキングやサイクリングなど、始めやすい内容から試してみましょう。

ただし、いきなり激しい運動をすると、活性酸素の産生を促してしまい、卵子や精子の質が低下する可能性があります。無理のない運動内容と運動量を毎日続けることが大切です。

引用元)厚生労働省 活性酸素と酸化ストレス

 ■睡眠

睡眠不足が続くと、ホルモンや自律神経のバランスが乱れてしまいます。女性の生理周期を乱したり、無排卵となったりすることもあり、妊娠に大きな影響を及ぼす可能性が高いです。そのため、睡眠は毎日十分にとる必要があります。

ついつい夜更かししてしまう場合には、あらかじめタイマーをセットし、決まった時間にベッドに入るように習慣づけてみるのがよいでしょう。

 ■ストレス発散

ストレスは活性酸素の産生を増やす大きな原因となります。ストレスは知らず知らずのうちに溜まっていくので、こまめに発散するようにしましょう。ストレス発散方法は人によってさまざまですが、趣味に没頭する時間を設けたり、運動してリフレッシュしたり、おいしいものを食べたり遠出したりするのもいいですね。自分に合ったストレス発散方法を一度ゆっくり考えてみましょう。

 ■婦人科疾患の治療

子宮筋腫子宮腺筋症 (しきゅうせんきんしょう)、子宮内膜症など、婦人科の病気の中には、着床に影響する可能性のあるものがあります。不妊治療を受けるにあたり、これらの検査を受けることになりますので、もし病気がわかった場合には適切な治療を受けることが大切です。

引用元)治療の難しい不妊症のためのガイドブック

専門家より

体外受精の成功率は、その夫婦の年齢や状態によって変わってきます。今現在のベストな状態を保てるよう、食生活や運動などの生活習慣を見直すことが大切です。女性だけでなく、男性も一緒に生活習慣を変えることで、体調を整える効果だけでなく、妊娠に向けてふたりで協力する体制が整っていくことでしょう。この協力体制が整えば、妊娠中や産後、さらに子育ての大変な時期を夫婦で乗り越えやすくなります。ぜひ、夫婦で協力して体外受精の成功率を上げていきましょう。

この記事を書いた人

田村 由美

子授かりネットワーク 編集長