妊活の最初のステップが「 タイミング法 」です。医師の指導でおこなう「 タイミング法 」と、病院に行かずに自分でおこなう「自己流タイミング法」には、どのような違いがあるのでしょうか。妊娠を成功させるために注意しておきたい点も紹介します。
タイミング法と自己流タイミング法の基本
まず、タイミング法と自己流タイミング法の違いを知っておきましょう。
タイミング法の概要
タイミング法では、妊娠しやすい 排卵 のタイミングに合わせて性交渉をおこないます。このコラムでいう「タイミング法」は、医師の指導の元でおこなうものを指します。
女性の 卵巣 から成熟した 卵子 が放出される「 排卵 」が起こるのは、およそ月に一度。排卵された卵子の寿命はおよそ24時間、一方で女性の体内に入った 精子 の寿命はおよそ72時間です。このわずかなタイミングで卵子と精子が巡り会うと 受精し、受精卵 が 子宮内膜 に 着床 して 妊娠 が成立します。
そのため、妊娠しやすい時期は 排卵 の4日前から排卵日前日までの4日間です。排卵前に性交渉をおこなうと、先に到着した精子が排卵を待って受精することになります。
不妊治療の最初のステップであるタイミング法は、自然妊娠に近く、カップルの体にも経済的にも負担が少ない方法です。
引用元)日本産科婦人科学会 9.タイミング
自己流タイミング法の概要
病院には行かずに、カップルが自分たちで排卵日を予測して性交渉をすることを、このコラムでは「自己流タイミング法」と呼びます。
自己流タイミング法のはじめにすることは、基礎体温の2〜3か月分の記録です。基礎体温の変化から、月経周期は何日間か、排卵 しているかどうかなどが読み取れます。月経周期が28日の場合は、月経開始からおよそ14日後に 排卵 があります。排卵が予測される、月経開始日から14日目あたりが妊娠しやすい時期なので、このタイミングで性交渉をおこないましょう。
市販の排卵日予測検査薬を使うのもおすすめです。排卵日予測検査薬は、尿に含まれる 黄体形成ホルモン ( LH )の量の変化を検知して排卵日を予測します。陽性の反応が出たら、なるべく早いタイミングで性交渉をしましょう。
おりものの変化でも排卵日を予測できます。おりものの量が増え、粘り気が強くなって卵の白身のようになると、排卵日が近くなっている合図です。
無料で使えるスマートフォンのアプリで、排卵日を予測するカップルも増えてきました。アプリには、月経のあった日を記録して排卵日を予測するものや、体温計と連動して基礎体温を記録できるものなどがあります。カップルで使えるアプリなら、妊娠しやすい日のタイミングを共有することも可能です。
引用元)一般社団法人 日本生殖医学会 妊娠はどのように成立するのですか? 排卵
メリットとデメリットの比較
2つのタイミング法には、それぞれメリットとデメリットがあります。
タイミング法のメリット
病院でおこなうタイミング法の最大のメリットは、自己流タイミング法と比べ、より正確に排卵時期を推測できることです。排卵時期をより正確に推測できれば、妊娠の可能性が高くなります。
月経周期が不安定な人にとって、排卵日を推測するのは容易なことではありません。しかし、子宮内膜の厚さや 卵胞 (卵子が入っている袋)の大きさを超音波検査でチェックしたり、尿や血液の中に含まれるホルモンの量を測ったりして、より正確に排卵日を推測することが可能です。
こうして推測した、妊娠の可能性の高い日に合わせて性交渉をおこないます。
タイミング法のデメリット
排卵日を推測するためには、何度か通院する必要があります。仕事や子育てなどで忙しいカップルの場合、周囲の協力を得られないと通院しにくいときもあるでしょう。
また、すべてのカップルがタイミング法で妊娠できるわけではありません。タイミング法が成功するためには、いくつかの条件があります。
- ・排卵している
- ・卵管が詰まっていない
- ・精子の数や運動性に問題がない、などです。
自己流タイミング法のメリット
自己流タイミング法のメリットは、病院に通う必要がないことです。
病院が遠い、通う時間を確保しにくいといったカップルでも、自分たちで排卵日を予測してチャレンジできます。
また、通院の費用も必要ありません。
妊活を考えたとき、最も負担が少なく始められる方法だといえます。
自己流タイミング法のデメリット
自己流タイミング法では、排卵日を正確に測定することが困難な場合があります。
多くの人のデータを平均化して排卵日を予測しているアプリでは、月経周期が平均よりも短い、あるいは長い人だと排卵日の予測がずれてしまうことも。
また、月経不順がある場合も、排卵日を予測するのは難しいでしょう。排卵日検査薬を用いて排卵日を知る方法もありますが、病院で診てもらうとより正確で確実です。
また、不妊の原因がタイミング以外にある場合、自己流タイミング法を続けていると気付くのが遅れてしまうかもしれません。
- ・女性の年齢が35歳以上
- ・婦人科系の病気をしたことがある
- ・自己流で続けていてもなかなか妊娠しない
など不安を感じる要素があれば、早めに医師に相談するとよいでしょう。
費用面での違い
タイミング法と自己流タイミング法では、費用面にどれだけの違いがあるかを見ていきましょう。
タイミング法の費用
令和4年4月より不妊治療が保険適用となり、自己負担額が3割になりました。
ある病院では、1周期(1か月)に1〜2回の受診で1回2,000円程度となっています。
しかし、通院や検査の回数、薬の処方の有無などによって費用は変わります。
自己流タイミング法の費用
病院にかからないため、自己流タイミング法に必要な費用はゼロです。
基礎体温を測るための婦人体温計は、1,000円台から3,000円台が主流です。
排卵日検査薬は12回分で3,000円前後(2023年6月現在)。
アプリは無料のものが主流ですが、課金が必要な場合もあります。
引用元)慶應義塾大学病院 リプロダクションセンター タイミング療法について(自然妊娠)
成功率と効果の違い
では、成功率はどれくらい違うのでしょうか。
タイミング法の成功率
意外な数字かもしれませんが、慶応義塾大学病院が発表している1周期あたりの妊娠率は5%程度です。医師の指導によるタイミング法にチャレンジしているカップルは、すでに何らかの妊娠しにくい要素を抱えている可能性が高いからだと考えられます。
タイミング法を試したカップルの7割ほどは、6回目くらいまでに妊娠しています。
自己流タイミング法の成功率
自己流タイミング法を行った場合の成功率に関するデータはありませんが、女性の年代別の一般的な妊娠率は次のとおりです。
20代前半: 25%
20代後半: 10~20%
30代前半: 10%
30代後半: 8.3%
女性の年齢が上がるにつれて妊娠率が下がっていくことがわかりますね。
引用元)厚生労働省 不妊治療の実態に関する調査研究 10.3)タイミング指導の実施治療周期数
慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト 不妊症とは?
両方法の効果を最大化するコツ
医師の指導を受けるか、自己流で判断するかにかかわらず、妊娠の可能性を高めるのに大切なことは、性交渉の回数を増やすことです。
できれば排卵日の少し前から複数回、性交渉をおこなうとよいでしょう。ただ、性交渉が義務のようになってしまうと、精神的に追い込まれてしまうかもしれません。性交渉を義務や苦しいものにしないためにも、排卵日以外もスキンシップを増やしておくとよいですね。
自己流から治療に切り替えるタイミング
自己流タイミング法を実践しているカップルが、医師の指導による不妊治療に切り替えたほうがいいのはどのようなときでしょうか。
切り替えを検討すべき状況
自己流タイミング法を試しても1年以上妊娠しないときは、病院で医師に相談することをおすすめします。基本的な検査をおこなえば、妊娠を妨げている原因が何なのかがわかります。
排卵 をしているか、卵管が詰まっていないかなど女性側の原因を探るだけではなく、男性側の検査もしておきましょう。
また、女性の年齢が35歳以上になると、卵子の老化によって妊娠率が下がってきます。妊娠を望むなら、できるだけ早めに医師に相談するとよいでしょう。
引用元)日本産科婦人科学会 不妊症
ガイドラインとアドバイス
不妊治療は最も自然に近いタイミング法から始まり、徐々にステップアップしていきます。
ステップが上がるにつれて対応できる病院が少なくなり、費用や時間もかかるので、どこまでの治療を希望するかをカップルでよく話し合っておきましょう。
<一般不妊治療>
1.タイミング法
2. 人工授精 :排卵期に、男性から採取した精液を調整して細い管などで子宮内に注入します。人工授精を何度か繰り返しても妊娠しない場合は、生殖補助医療にステップアップします。
<生殖補助医療>
3.体外受精 :精子と卵子を採取して体外で受精させ、受精卵を培養して子宮内に移植します。卵管の機能が失われている場合や、男性不妊などのときにおこなう方法です。
4.顕微授精:卵子を採取し、体外で直接卵子の中に精子を注入し受精させます。
注意点とコツ
タイミング法をおこなうときには、どのようなことに注意したらよいのでしょうか。
タイミング法を試す際の注意点
排卵はおよそ1ヶ月に1回しかありません。タイミング法では、カップルが排卵のタイミングに合わせて性交渉をすることが大切です。カップルのどちらかが単身赴任だったり、出張が多かったりなどの場合には、タイミングを合わせることが難しくなります。
せっかく通院して排卵のタイミングがわかったのに、パートナーの都合で性交渉できないことが続くと、2人の気持ちがすれ違っていってしまうかもしれません。
あらかじめお互いのタイミングを伝え合い、ストレスの少ない妊活を送るとよいでしょう。
自己流タイミング法を試す際の注意点
自己流タイミング法を試すときでも、できれば先に妊活のための検査を病院で受けておくことをおすすめします。特に女性の年齢が35歳以上の場合、自然妊娠できる確率は時間経過とともにどんどん減っていきます。妊娠しにくい条件を抱えたまま自己流タイミング法を続ければ、何度も何度もがっかりすることになるかもしれません。
両方法を試す際のコツ
どちらのやり方をとる場合でも、性交渉の回数を増やすこと、特に排卵前の性交渉をしておくことがコツです。
最も妊娠しやすいタイミングは、排卵日1~2日前です。
また、男性の体調やストレスで精子の状態は変化します。タバコやアルコールにも注意しておきましょう。
タイミングが大切な一方、あまり排卵日にこだわりすぎるとプレッシャーで勃起不全を招くこともあります。できるだけ2人がリラックスした状態で、妊活に取り組めるとよいですね。
引用元)日本産科婦人科学会 9.タイミング
専門家より
タイミング法と自己流タイミング法の違いや、妊娠を成功させるために注意しておきたい点などをお伝えしました。
妊娠への第一歩は自分の体を知ること、そしてパートナーとの時間を大切にすることです。
もし不安な要素があれば、自己流を続けるのではなく、早めに医師に相談してくださいね。