近年、世界中で不妊治療が進歩しており、その中でも産み分けは注目を集めています。産み分けとは、赤ちゃんの性別を選ぶことであり、男女どちらかを希望するカップルにとっては夢の実現とも言えるものです。しかし、産み分けは医療技術の進歩によって可能になった反面、生命倫理上の問題もあり、国によっては法律で禁止されている場合もあります。この記事では、海外での産み分け事情について最新の研究から見えてきた現状と今後の展望をまとめていきます。
海外での産み分け事情
各国の産み分け事情を紹介します。各国の法律は常に変化していることをご理解の上、ご参照ください。
アメリカ
アメリカでは、着床前遺伝子診断 や スクリーニング 、産み分けなどの技術は一般的に利用されており、法律による規制はありません。しかし、医療倫理や宗教、文化的背景から、一部の州では一部の技術に制限がかけられることがあります。例えば、遺伝的疾患を持つ胚を選別することは認められていますが、性別を目的とした産み分けは倫理的に問題があるとして、一部の州では制限されています。また、保険適用外で高額な費用がかかるため、一部の人々には利用が難しいという側面もあります。
ヨーロッパ
ヨーロッパでは、産み分けが可能な国と不可能な国があります。例えば、イギリスやスペインでは産み分けが可能ですが、フランスやドイツでは禁止されています。また、ヨーロッパでも、 着床前診断 ( PGD )による産み分けは法律で禁止されている国があります。
アジア
アジアにおいても、産み分け技術に関する研究が進んでいます。特に、中国や韓国では近年急速に普及しており、産み分けのための施設やクリニックが増加しています。また、日本でも産み分け技術の知識や情報がアジア各国に広がっており、日本のクリニックを訪れる患者も増加しています。
最新の産み分け研究から見えてきたこと
アジアにおいても、男児を希望する夫婦が多いことが明らかになっています。韓国では、男児希望の夫婦が約9割を占め、中国でも男児優位の社会背景から男児希望の夫婦が多く見られます。また、最新の研究では、アジア人の卵子は他の人種に比べて染色体異常が多く、また妊娠力も低いことが明らかになっています。そのため、アジアのクリニックでは、産み分け技術を利用して健康な男児の妊娠率を高めることが求められています。
引用元)産経新聞社「男児希望、産み分け増加 アジアで技術進化」

アジアの産み分け技術の現状
アジアの産み分け技術には、主に以下の3つがあります。
受精前診断(PGD)
受精前診断(Preimplantation genetic diagnosis, PGD)は、不妊治療の一環として行われる遺伝子診断技術の一つで、着床前の受精卵に対して遺伝子検査を行うことで、遺伝性疾患のリスクを低減することができます。
PGDは、通常の体外受精(IVF)の過程において、受精した卵を培養し、3日目か5日目になった時点で細胞を取り出します。取り出した細胞を遺伝子検査し、健康な胚を選別し、子宮内膜に移植することで妊娠を目指します。このようにPGDを利用することで、特定の遺伝性疾患を持った子どもを産むリスクを低減することができます。
PGDは、高齢出産や家族内で遺伝性疾患を持つ場合、または遺伝子異常が原因で自然流産や妊娠中絶を繰り返している場合などに行われることが多く、遺伝子診断技術の一つとして広く利用されています。ただし、PGDには高い費用がかかる上に、精度も完全ではないため、専門医による適切なカウンセリングや情報提供が重要です。
また、PGDには法的な規制があり、各国によって異なります。一部の国では、人工妊娠中における遺伝子操作を禁止している場合があります。このため、PGDを行う前には、自国の法律を確認し、専門医とのカウンセリングを受けることが重要です。
日本では受精前診断(PGD)が一部認められていますが、制限があります。法律により、妊娠可能性の低い両親に限定して行われることが認められており、その他の場合には、倫理委員会による審査が必要となります。また、厚生労働省が指定する医療機関でしか行うことができず、特定の病気のみの診断に限られています。そのため、性別選択を目的としたPGDは日本では認められていません。
体外受精(IVF)による性別選択
体外受精(in vitro fertilization, IVF)による性別選択は、受精卵の性別を知り、希望する性別の受精卵を子宮に移植することによって実現します。以下は、一般的に行われる手順についての説明です。
- 卵子の採取 女性には、排卵誘発剤によって卵巣刺激を行い、成熟した卵子を複数個採取します。採取は通常、局所麻酔または全身麻酔下で行われます。
- 精子の収集 男性から採取された精液から、最も優れた精子を選別し、採取します。また、必要に応じて精液中の形態異常率が高い場合や、精液中の精子数が少ない場合には、精子を採取するための精子採取法が利用されることがあります。
- 受精 採取された卵子と精子を体外で受精させ、受精卵を得ます。この時点で、受精卵の性別はまだわかりません。
- 受精卵の性別決定 受精卵には、男性精子がY染色体を持ち、女性精子がX染色体を持つため、性別は受精卵が持つ染色体によって決定されます。受精卵が発育し始めると、一般的には3日目から5日目の間に、性別を知るための遺伝子検査を行います。これにより、希望する性別の受精卵を選択することができます。
- 受精卵の移植 希望する性別の受精卵を、女性の子宮に移植します。移植後は、受精卵が子宮内膜にしっかりと接着することが必要です。
以上が、IVFによる性別選択の一般的な手順です。ただし、日本では認められていません。
精子選別法による性別選択
精子選別法は、精子を性別によって分離する方法であり、男児や女児を望む夫婦にとっては魅力的な方法の1つです。この方法には、以下の2つの主要な方法があります。日本でのEricsson法とMicroSort法による性別選択は、医療行為としては認められていません。日本の医療法では、性別選択は医学的必要性がある場合に限定されており、例えば、特定の遺伝病の携帯者である場合など、性別によって病気の発症率が異なる場合に限定されます。Ericsson法やMicroSort法を利用した性別選択は、医学的必要性が認められない限り、行うことができません。ただし、海外での治療や自己判断での行為は、法的にも問題がある場合がありますので、注意が必要です。
- Ericsson法
Ericsson法は、性染色体に基づいて、男性精子または女性精子を選別する方法です。この方法では、酸性度の異なる2つの層を使用して、男性精子と女性精子を分離します。男性精子はより速く泳ぎ、酸性の層でより多くの時間を過ごします。女性精子はよりゆっくり泳ぎ、アルカリ性の層に滞在する傾向があります。この方法は比較的低コストで、成功率は60%程度とされています。 - MicroSort法
MicroSort法は、フローサイトメトリー技術を使用して、男性精子または女性精子を分離する方法です。この方法では、精子を色素で染め、性染色体の量に応じてフィルターで分離します。男性精子はX染色体よりもY染色体を多く持ち、女性精子はX染色体を多く持っています。この方法は比較的高コストで、成功率は75%程度とされています。
精子選別法による性別選択は、妊娠の自然なプロセスを変えることがなく、安全で非侵襲的な方法です。ただし、これらの方法は科学的に証明されたものではなく、成功率には個人差があることに注意する必要があります。また、これらの方法は倫理的な問題を引き起こすこともあるため、よく考慮する必要があります。
中国や韓国では、受精前診断(PGD)による産み分けが主流であり、クリニックでの実施が認められています。
日本でのEricsson法とMicroSort法による性別選択は、医療行為としては認められていません。日本の医療法では、性別選択は医学的必要性がある場合に限定されており、例えば、特定の遺伝病の携帯者である場合など、性別によって病気の発症率が異なる場合に限定されます。Ericsson法やMicroSort法を利用した性別選択は、医学的必要性が認められない限り、行うことができません。ただし、海外での治療や自己判断での行為は、法的にも問題がある場合がありますので、注意が必要です。
一方で、体外受精(IVF)による産み分けや、精子選別法による産み分けは、中国や韓国では法的に禁止されています。しかし、これらの技術に関する情報はインターネット上で入手できるため、違法な施術が行われることもあるとされています。

今後の展望
近年、医療技術の進歩に伴い、産み分けに関する研究はますます進歩しています。特に、着床前診断技術による遺伝子検査の発展は、産み分けにとって重要な意義を持っています。今後もさらなる技術革新が期待されており、産み分けに関する研究が進展することで、より健康で幸せな家族づくりが実現されることが期待されます。
しかし、産み分けには様々な倫理的、社会的問題が付きまとうことも事実です。たとえば、男女の選択による男女格差の拡大や、遺伝子操作による人間の自己決定権や人権の問題、健康保険制度の公平性の問題などが挙げられます。今後も産み分けに関する倫理的、社会的問題に対して適切な対策が求められます。
まとめ
産み分けは、近年ますます注目を集めるテーマの一つです。世界中で産み分けに関する研究が進み、様々な技術が開発されています。アメリカをはじめとする西洋諸国では、性別選択が広く行われていますが、アジアでは法的な規制がある国もあります。
産み分けには、家族の希望や遺伝的疾患の予防などの利点がありますが、一方で、倫理的、社会的問題も付きまといます。今後も産み分けに関する研究が進展することで、より健康で幸せな家族づくりが実現されることが期待されますが、同時に倫理的、社会的問題に対して適切な対策が求められます。
参考文献)
Preconception Gender Selection. American Pregnancy Association.
Gender selection. Mayo Clinic. https://www.mayoclinic.org/tests-procedures/gender-selection/about/pac-20385172
日本産科婦人科学会雑誌』. 第68巻(2016)第1号

産み分けについての見解は、世界でも様々です。赤ちゃんの性別が家族を作る上でどの程度の重要性があり、今後のライフプランに影響するのかは個々によるので、簡単に良い、悪いとは言えません。
大切なことは、パートナーとよく話し合い、お2人と未来の赤ちゃんにとっての幸せを考えることだと感じます。
日本は倫理的な配慮がまだまだ大きいので、今後の日本の動きも見守っていきたいですね。