女性の不妊治療におけるPRP効果:他の治療法との比較を含む解説

不妊治療の進歩は目まぐるしく、さまざまな先進医療が患者さんに提供されています。昨今、注目されているのが「PRP」を用いた不妊治療です。PRPは不妊治療以外にもさまざまな診療科で用いられている治療法です。どんな治療法で、不妊治療としての効果はどうなのか、くわしく解説します。

PRP(多血小板血漿)治療とは

PRP(多血小板血漿)とは、採血した血液を遠心分離機にかけて血小板を多く含む部分を取り出したもので、高濃度の血小板のことを言います。 血小板 には、血を固める(凝固する)作用のほかに、下記のような作用があることがわかっています。

  • ・細胞の増殖をうながす
  • ・血管を新しく作る
  • ・傷口の治りを早くする
  • ・コラーゲンの分泌をうながす
  • ・骨や組織の再生をうながす

これらの作用を持つ血小板をギュッと凝縮した PRP を使用した治療がPRP治療です。細胞の修復機能を高める効果が期待でき、自然治癒力を高めることができます。

このPRPを使ったPRP治療は、けがや病気の治癒を促進する再生医療として、整形外科や歯科、皮膚科などで取り入れられています。2018年に、大谷翔平選手が肘の故障の治療としてPRP治療を受けたことで知っている人もいるかもしれません。スポーツ選手のけがの治療や、やけどや皮膚病・床ずれの治療、歯槽骨(歯を支える骨)や歯肉の再生促進などに利用されています。

引用元)厚生労働省 難治性不妊に対する多血小板血漿(PRP)を用いた不妊治療
産婦人科PRP研究会
産婦人科PRP研究会

PRP治療の不妊治療への適用

PRP治療は、 不妊治療 の分野でも取り入れられています。不妊の一因に、子宮内膜 の厚さが十分でなく、着床 しづらいというケースがあります。この場合に、PRPを子宮内に注入することで、子宮内膜が厚くなり、受精卵 が 着床 しやすくなる効果が期待できるのです。

方法としては、下記のとおりになります。

  • ①血液を20ml採血し、遠心分離器にかけて1mlのPRPを取り出します。
  • ②PRPを注射器に入れ、カテーテル(細いチューブ)を使って子宮内に注入します。

PRP注入後、数日で子宮内膜の厚みが増す効果が期待できます。厚みが増した状態で 人工授精体外受精胚移植 を行うことができれば、妊娠の可能性は以前よりも上がるでしょう。

引用元)産婦人科PRP研究会 者様へ

不妊治療におけるPRP治療の成功率

PRP治療を行った場合の妊娠率については、研究が進められています。
2018年に行われた研究では、PRP後に凍結胚移植を行った32例中6名(約20%)が妊娠しました。また、2019~2020年に63人にPRP治療と胚移植を行った研究では、妊娠率が22.5%という結果が出ています。

どちらも、子宮内膜が厚くなる効果が確認され、PRP治療の効果が明らかになってきています。

PRP治療のメリットとデメリット

PRP治療には、どんなメリット・デメリットがあるのか見てみましょう。

PRP治療のメリット

PRP治療は、子宮内膜を厚くする効果が期待できます。この効果によって、子宮内膜が薄く、妊娠が難しい女性の妊娠率の向上が期待できるのは大きなメリットでしょう。
また、PRPは自分自身の血液から取り出したものなので、副作用が出る可能性が低い治療法と考えられています。

PRP治療のデメリット

PRP治療はまだ症例が少なく、詳しい効果や、副作用の有無については研究中です。
また、不妊治療は保険適用となっていますが、PRP治療はその中に含まれていないのが現状です。副作用が少なく、妊娠率が高くなるという研究結果が積み上がれば、保険適用となることが期待できるでしょう。

引用元)厚生労働省 難治性不妊に対する多血小板血漿(PRP)を用いた不妊治療
産婦人科PRP研究会 患者様へ

他の不妊治療法との比較

現在、保険適用となっている不妊治療法と、PRP治療とを比較してみましょう。

体外受精(IVF)との比較

体外受精 とは、排卵直前に卵巣から取り出した卵子を、体外で精子と受精させる治療です。受精後、数日培養し、状態の良い胚(受精卵)を選んで子宮に移植されます。

胚移植を行った後、子宮内膜に 胚 が 着床 しない場合があり、この一因として子宮内膜が薄いことが挙げられます。子宮内膜が原因であれば、良好な胚を移植しても着床しないことが続く可能性が高いです。

これに対し、PRPの注入を行った数日後に体外授精を行うことで、妊娠率の向上が期待できます。体外受精がうまくいかない場合には、PRP治療を検討するのもひとつかもしれません。

引用元)日本生殖医学会  Q12.体外受精とはどんな治療ですか?

人工授精(IUI)との比較

人工授精 とは、卵管 の一番奥にある 卵管膨大部 という場所に状態の良い精子を多く届けるために、子宮内に 精子 を注入する治療です。採精した精子を洗浄し、動きの活発な精子を選んで注入します。

人工授精においても、PRP治療後に妊娠率の向上が期待できます。

引用元)日本生殖医学会 Q10.人工授精とはどういう治療ですか?

その他の不妊治療法との比較

凍結胚移植 は、受精卵 を培養し、状態の良い胚を凍結保存する方法です。体外受精 や 顕微授精 (顕微鏡を使って精子を卵子の中に注入する。体外受精の方法のひとつ)で、良好な胚が多くできた場合や、採卵した周期に胚移植をしない場合などに行われます。

凍結胚移植では、採卵の時期と胚移植の時期がずれるため、ホルモンバランスや子宮内膜の状態を整えやすくなります。卵巣過剰刺激症候群( OHSS :排卵誘発剤の刺激によって卵巣が過剰に刺激された状態。重症化すると命にかかわる)などの副作用が起こりにくくなるのも大きなメリットです。

PRPを注入後に凍結胚移植を行う方法によって、妊娠率が高くなるという研究結果が出ています。

引用元)日本生殖医学会 Q14.受精卵の凍結保存とはどんな治療ですか?
産婦人科PRPPRP研究会 子宮内膜菲薄化による難治性不妊に対するPRP療法

PRP治療の費用と期間

PRPの費用は全額自己負担になります。医療機関によって差はありますが、PRP注入の費用は1回あたり15~20万円ほどになります。原則として、施術は2回1セットとなっていますが、患者さんの状態や希望に合わせて1回のみ行う場合も。回数については医師に相談しましょう。

治療スケジュールは、生理周期10日目(2回の場合は12日目も)にPRPを注入した後、人工授精の場合は生理周期14~16日目ごろ、体外受精・胚移植の場合は17~19日目ごろに行われます。2週間後に妊娠検査をして陽性となり、さらに1週間後に着床が確認できれば妊娠成立です。

引用元)厚生労働省 難治性不妊に対する多血小板血漿(PRP)を用いた不妊治療
厚生労働省 難治性不妊に対する多血小板血漿(PRP)を用いた不妊治療

PRP治療を受ける際の注意点

PRP治療は副作用の少ない治療ですが、下記のようなリスクがあります。

■採血によるリスク
採血では、腕に注射針を刺して血液を採取します。針を刺すことで内出血を起こしたり、神経を傷つけてしびれが出たりする場合があります。また、痛みや緊張が原因で気分が悪くなる、冷汗やめまいなどが起こり、失神することも。過去に、採血中に気分が悪くなるなどの症状が出たことがあれば、事前に看護師に伝えておきましょう。

■感染のリスク
PRPは、採血した血液を遠心分離機にかけて取り出したもので、注射器に入れてから注入されます。この操作の間に、感染の原因となる物質が混入する可能性が考えられます。

PRP注入後に、発熱や腹痛、吐き気など、いつもと違う症状が出た場合には速やかに医療機関を受診しましょう。

■カテーテル挿入によるリスク
PRPを注入する際、カテーテルを子宮内に挿入します。この操作によって膣や子宮が傷つく可能性があります。PRP注入後に出血や痛みがある場合は、医師に相談しましょう。

PRP治療を受けるべきかどうかを決めるポイント

  • ポイント1 PRP治療の対象になるか
    PRP治療は、子宮内膜が薄い人や、状態の良好な胚を移植しても妊娠に至らない人が対象となります。これらの状態に該当するかどうか、かかりつけ医に相談しましょう。
  • ポイント2 実施施設が近くにあるか
    RP治療は再生医療等安全性確保法という法律が適用されるため、医療機関は審査と認定を受ける必要があり、実施施設が限られています。通院できる距離に実施施設があるか検索してみましょう。産婦人科PRP研究会のホームページで、お近くの施設を検索できます。
  • ポイント3 金銭的な負担は大丈夫か
    PRP治療は全額自己負担となります。1回20万円と決して低い金額ではないため、金銭的負担について考慮しておく必要があります。

引用元)再生医療等安全性確保法施行5年後の見直しに係る検討のとりまとめ

PRPを加工した「PFC-FD」とは

PRPは採血した血液を遠心分離器にかけて取り出されたものですが、血液を加工して血小板由来の成長因子をさらに濃縮した「 PFC-FD 」(セルソース株式会社)というものがあります。PFC-FDはPRPの成長因子を濃縮し、細胞成分をなくしてフリーズドライ処理を行ったものです。PRPが液状なのに対し、PFC-FDはパウダー状になっており、室温での長期保存(約6か月)が可能になりました。このPFC-FDを水に溶かし、子宮内に注入することでPRP治療と同等の効果が期待できるとされています。

PFC-FD治療が対象となる不妊のケース

PRPと同じく、PFC-FDの対象も、子宮内膜が薄い人、状態の良い胚を移植しても妊娠に至らない人が対象となります。

PFC-FD治療の費用

PFC-FD治療も保険適用外となっており、全額自己負担になります。医療機関によって費用に差がありますが、15~20万円ほどになります。

PFC-FD治療のステップ

PRPは、採血した20mlの血液を遠心分離器にかけて取り出されますが、PFC-FDは約50mlの血液が必要です。採血した血液は、PFC-FDを作成する会社に送られて加工され、約3週間で医療機関に戻ってきます。

届いたPFC-FDを水に溶かして注射器に入れ、カテーテル(細いチューブ)を使って子宮内に注入します。PFC-FDを注入するタイミングは、PRPと同じです。

引用元)PFC-FD
セルソース 不妊治療を目的としたPFC-FDの加工受託開始 産科・婦人科向けに事業領域を拡大へ
徳山中央病院 生殖医療について

PFC-FDとPRPとの治療成績の差

PFC-FDの治療成績については研究が進められている段階です。PFC-FDとPRPの治療成績になんらかの差があるかについては、現在ではわかっていません。

どちらの治療を受けたらいいか迷う場合は、それぞれ治療を行っている医療施設に相談してみるとよいでしょう。

助産師より

子宮内膜が薄い人の不妊治療として、以前は効果的な方法は確立されていませんでした。
しかし、PRPやPFC-FDなどの再生医療の登場によって希望の光が差し込みはじめています。

PRPやPFC-FDを卵巣に注入する治療法も注目されており、今後も再生医療による不妊治療や、新たな治療法は増えていくでしょう。
新しく効果的な治療法が確立されれば、妊娠率の上昇が期待できます。新しい治療法の情報を見逃さないよう、当ホームページでも定期的に取り上げていきます。

この記事を書いた人

田村 由美

子授かりネットワーク 編集長