卵子凍結によって、卵子への加齢による影響を軽減できるようになりました。このことは、多くの女性にとって画期的なことでしょう。しかし、卵子凍結を受けるにあたって、副作用やリスクがあること、加齢による妊娠・出産への影響を完全に排除できないことを知っておくことは大切です。卵子凍結に関する注意事項やリスクについて、くわしく解説します。
卵子凍結とは?
卵子凍結とは、卵巣 から採取した 卵子 を超低温で凍結し、保存することを指します。採取された卵子は、状態が良好なものを選んで専用の液体で保護された後、液体窒素で急速冷凍されます。こうすることで、卵子を半永久的に保存することが可能です。卵子凍結によって、女性が将来、妊娠を希望したときに子どもを持つ可能性を高めることができます。
卵子凍結の適応と注意事項
卵子凍結には2つの適応があり、対象がそれぞれ違います。
卵子凍結の適応条件
卵子凍結には、医学的適応による卵子凍結と社会的適応による卵子凍結の2種類があります。
- ■医学的適応による卵子凍結
がんなどの病気の治療の中には、生殖機能へのダメージが大きく、治療後の妊娠が難しくなるものがあります。病気の治療後も妊娠の可能性を残すために行われるのが、医学的適応による卵子凍結です。
対象年齢は凍結保存時に43歳未満の人で、未成年も含まれます。病気の治療を行っている医師と卵子凍結を行う医師が、病気の状態や治療への影響などを検討した結果、卵子凍結を行えるかを判断します。未成年の場合は、保護者の同意が必要です。
- ■社会的適応による卵子凍結
女性は、加齢に伴って生殖機能が低下することが知られています。その原因のひとつが、卵子の老化です。女性は胎児の段階で卵子の元が作られており、女性の年齢と同じだけ卵子も年を重ね、次第に老化していきます。35歳ごろから妊娠率の低下や 流産率 の上昇が見られるのは、この卵子の老化が関係しているのです。
この卵子の老化による影響が心配な場合に行われるのが、社会的適応による卵子凍結です。推奨年齢は39歳未満ですが、病院やクリニックによっては40歳以上で受けられる場合もあります。凍結保存した卵子を使っての妊娠は45歳以上は推奨できないとされています。
引用元)小児・AYA 世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業実施要綱
社会的適応による未受精卵子あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン
卵子凍結を行う前に知っておくべき注意事項とは?
卵子凍結は、卵子を凍結したときの状態で保存する方法であり、妊娠 を確約できるものではないことを知っておきましょう。凍結した 卵子 のうち、解凍後に細胞が壊れていたり、受精 する力を持っていなかったりするものがあります。
受精した 胚( 受精卵 )を 子宮 に戻すことができた場合も、着床 しなかったり、流産 したりすることがあります。この原因として考えられるのが、母体の加齢による影響です。母体の加齢は、残念ながら現代の医学では止められません。
母体の年齢が上がると、着床しにくく、流産しやすくなり、妊娠合併症(妊娠による変化によって母体や胎児に悪影響が及ぶ状態)の発症率も高くなります。これは、凍結卵子を用いた妊娠でも同じことが言えます。
そのため、卵子凍結をすればいつでも妊娠できるわけではなく、母体の年齢が上がれば妊娠しづらいことは変わらないのです、
卵子凍結のリスクと副作用
卵子凍結には、下記のリスクや副作用があります。
- ■ 排卵誘発剤 の副作用
卵子 を1回の 採卵 で多く採取するために、排卵誘発剤 が使われます。排卵誘発剤 は、卵巣 を刺激して 卵子 の発育を促しますが、この作用が過剰になると 卵巣 の毛細血管から水分が漏れだし、お腹や胸などに余分な水分が溜まってしまいます。これが「卵巣過剰刺激症候群( OHSS )」と呼ばれる状態です。
卵巣過剰刺激症候群が重症化すると、腎臓の機能が低下したり、血管の中で血が固まりやすくなり、稀ですが命に関わることもあります。
もし、お腹が張る・痛みを感じる、気持ちが悪い、体重の急増、尿量の減少などがみられたら、すぐに病院を受診しましょう。
- ■採卵時のリスク
採卵 は、膣 から細長い針を卵巣に向けて刺すため、出血や感染のリスクがあります。出血は少量で済む場合がほとんどですが、針が周りの血管や臓器を傷つけることで輸血が必要になるケースがあります。
また、針を刺すことで細菌などが体内に入り込み、感染をおこす可能性があるため、腹痛や発熱がおきた場合にも早めに病院を受診しましょう。
- ■麻酔の副作用
採卵による痛みを軽減するために使われるのが、鎮痛剤や局所麻酔、静脈麻酔です。人によっては鎮痛剤や麻酔薬によって、じんましんや喘息のような症状が出たり、稀にアナフィラキシーという強いアレルギー反応が出たりするケースがあります。
また、静脈麻酔を行った場合、吐き気や嘔吐、呼吸抑制(呼吸がうまくできない状態)、血圧低下などがみられることがあります。
引用元)重篤副作用疾患別対応マニュアル 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
日本受精着床学会 Q14. ARTの副作用を教えてください。(米国生殖医学会説明記事より改変)
局所麻酔のアナフィラキシー
厚生労働省 先進医療における不妊治療の対応について
リスクを最小限に抑える方法とは?
卵子凍結のリスクや副作用を完全に防ぐことは難しいため、もしものときに適切な対応ができる病院で卵子凍結を受けることが大切です。
適切な対応がとれる病院を選ぶ方法としておすすめなのが、日本産科婦人科学会の施設検索(https://www.jsog.or.jp/facility_program/search_facility.php)を利用する方法です。「医学的適応による未受精卵子、胚(受精卵)および卵巣組織の凍結・保存に関する登録施設」を検索すると、2023年4月現在で181施設が登録されています。この中には、社会的適応による卵子凍結を行っている病院も含まれています。一定の基準を満たし、日本産科婦人科学会の承認を得た病院のみ掲載されているため、病院選びの参考にするとよいでしょう。
卵子凍結後にすべきこと
卵子凍結をした後、将来の妊娠のためにできることを見てみましょう。
卵子凍結後の経過観察や定期検診の重要性
卵子凍結をしてから妊娠を希望する時期まで、妊娠が可能なからだを維持することが大切です。排卵と生理が毎月あり、婦人科疾患がない状態がベストですが、生理不順になったり、病気を発症したりする可能性は誰にでもあります。
そこで、なにか症状がある場合には早めに婦人科を受診し、症状がなくても年1回は婦人科検診を受けるようにしましょう。婦人科系の病気や感染症の中には、ほぼ無症状で進行し、不妊の原因になるものがあります。婦人科検診を受け、早期の段階で異常の発見と治療ができれば、将来の妊娠の可能性を高められるでしょう。
凍結卵子を使用する際の注意点とは?
凍結卵子を使用して妊娠する場合、顕微授精をすることになります。 顕微授精 とは、顕微鏡下で、卵子の中に精子の入った針を刺し、精子 を注入する 体外受精 の方法です。
顕微授精を受けるには、病院への夫婦での通院が必要になります。顕微授精が可能な状態かを検査したり、顕微授精の説明を受けたりすることが必要です。
また、顕微授精では、男性には自分で精子を採取(マスターベーション)してもらうことになります。このことに抵抗を感じる男性も多く、採精 ができないこともあります。顕微授精を受けるにあたり、事前に夫婦でスケジュール調整や妊娠に向けて話をしておくことが大切です。
卵子凍結施設を選ぶ際のポイント
卵子凍結は、医学的適応と社会的適応があり、どちらかしか行っていない病院やクリニックもあります。事前にホームページで確認しておくと安心です。
また、卵子凍結では、事前の検査や排卵誘発、採卵のために通院が必要になります。凍結卵子を使った妊娠を希望した場合、顕微授精や妊娠後の健診にも通院することになるでしょう。そのため、自宅や仕事先から通いやすい病院やクリニックを選ぶことが勧められます。
先述の日本産科婦人科学会の施設検索を利用し、基準を満たした医療機関を選ぶことも大切なポイントです。
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専門家より
卵子凍結は、卵子を保存当時の状態で保つ画期的な技術であり、多くの女性の未来をより良いものにしてくれるでしょう。しかし、排卵誘発剤や麻酔薬の使用や、採卵のために針を刺す必要があることから、リスクや副作用があることも事実です。妊娠を希望する際には男性の通院も必要であり、採精というデリケートな問題もあります。
大事なのは、卵子凍結に関する注意事項やリスクを知ることと、パートナーと情報を共有して話し合っておくことです。なによりも、信頼できる医療機関を選ぶことが重要になるため、情報収集をしっかり行うようにしましょう。