妊娠に欠かせない葉酸:その重要性と摂取方法とは?

「妊活中から 葉酸 の摂取が必要」と聞いたことがある方も多いでしょう。葉酸は栄養素のひとつですが、なぜ妊活中から必要なのでしょうか?妊娠と葉酸の関係や、葉酸の摂取方法と摂りすぎのリスクなどについてくわしく解説します。

妊娠と葉酸の関係

葉酸はビタミンB群の一種で、名前のとおり葉物野菜に多く含まれる栄養素です。葉酸は妊娠中だけでなく、妊活中から欠かせない栄養素なのですが、その理由は2つあります。

胎児の神経管閉鎖障害の予防

葉酸には、胎児が「神経管閉鎖障害(しんけいかんへいさしょうがい)」という病気になるリスクを減らす効果があることがわかっています。

「神経管」とは、胎児の脳や脊髄の元になる部分です。胎児は最初、1枚の板のような状態になっており、その一部が「Ω」のような形になって1本の筒になります。そして、筒の端の一方が脳になり、残りが脊髄になるのです。

この変化の途中で、うまく筒状にならないことがあり、これを神経管閉鎖障害といいます。脳になる部分に異常があれば「無脳症」に、脊髄になる部分に異常があれば「二分脊椎(にぶんせきつい)」になります。どんな病気かは以下のとおりです。

  • ・無脳症

脳と頭蓋骨が欠損した状態をいいます。胎外(ママのお腹の外)で生きられる可能性はほぼありません。

  • ・二分脊椎

本来、背骨(脊椎)の中に収まっている脊髄が、背骨の外に出た状態をいいます。皮膚よりも外に脊髄が出ている場合(開放性二分脊椎)や、皮膚の下でこぶ状になっている場合、脊髄の一部と皮膚がつながってお尻の上あたりにくぼみがある場合などがあります。開放性二分脊椎の場合は、生後数日以内に手術が必要です。

二分脊椎の障害の程度はさまざまですが、足の運動麻痺や変形、感覚の異常、排尿や排便に障害が出る可能性があります。

無脳症も二分脊椎も、胎児の命や健康に大きな影響を及ぼす病気です。妊活中から葉酸を十分に摂取することでこれらの病気のリスクを減らし、赤ちゃんの未来を守ることができます。ただし、葉酸を摂取していても、100%予防できるわけではないことを知っておきましょう。

引用元)厚生労働省 葉酸
    無脳症児をめぐる医学的・倫理的・社会的・法的諸問題
    二分脊椎

妊娠中の貧血予防

葉酸は血液の材料になる栄養素です。妊娠中は胎児の成長や、出産の準備のために血液を多く作る必要があり、材料が不足しやすくなります。貧血と言えば、鉄分が足りていないイメージがあるかもしれませんが、葉酸が足りていない場合も貧血になります。鉄も葉酸も、貧血予防には欠かせません。

引用元)日本産婦人科・小児科血液学会 Q1-4. 妊婦貧血とはどんな病気ですか?

赤ちゃんの先天的な異常のリスクが減る

神経管閉鎖障害や貧血以外にも、葉酸が足りないことでリスクが高まるものがあります。胎児の口唇口蓋裂(唇や上あごがくっついていない状態)や先天性心疾患(生まれる前から心臓病がある状態)、子癇(妊娠中から産後にけいれんがおここった状態)、常位胎盤早期剥離(出産後にはがれるはずの胎盤が出産前にはがれる状態)、流産、早産などの確率が高くなると考えられています。

妊活中から十分な量の葉酸を毎日摂ることで、さまざまなリスクから胎児とママ自身を守れることになるのです。

妊娠に欠かせない葉酸:その重要性と摂取方法とは?

葉酸が豊富な食材と効果的な摂取法

葉酸はどんな食品・食材に多く含まれているのでしょうか?上手な摂取法も見てみましょう。

葉酸を多く含む食材

葉酸は野菜に多く含まれます。とくに葉酸を多く含む食材は以下の通りです。

  • ・なばな
  • ・グリーンアスパラガス
  • ・からしな
  • ・さつまいも
  • ・ほうれん草
  • ・枝豆
  • ・いちご
  • ・白菜
  • ・春菊

葉酸は水に溶けやすく、熱に弱い

野菜に多く含まれる葉酸ですが、水溶性ビタミンであるため、水に溶けやすく、熱に弱い性質を持ちます。そのため、煮たり炒めたりといった火を通す調理方法だと、十分に葉酸が摂れない可能性があります。

そこで、サラダほうれん草やいちごのように生で食べられるものは生で食べ、生食できないものはレンジ調理したり、スープに入れて汁ごと食べたりするようにしましょう。

サプリメントでの摂取が効果的

葉酸は摂り方を工夫しても、なかなか食事だけで十分な量を摂るのが難しい栄養素です。また、天然の葉酸はからだの中で消化吸収される過程でいろいろ影響を受けるため、摂取した葉酸がすべて利用できるわけではないのです。より効率的に葉酸を摂るには、サプリメントの摂取が勧められます。サプリメントに使われている合成型の葉酸なら、摂取も簡単で体内で効率よく吸収・利用されます。

ただし、サプリメントで葉酸を摂取する場合、摂り過ぎには注意しましょう。

引用元)食品安全委員会 お母さんになるあなたと周りの人たちへ −妊娠の前から気をつけたい食べ物のこと−
    萩市 妊娠前から葉酸を摂りましょう

葉酸摂取の適切なタイミング

葉酸の摂取はいつからいつまで必要なのでしょうか?

妊娠前からの摂取

葉酸の摂取は、妊娠してからではなく、妊活中から必要になります。胎児の神経管が作られるのは妊娠初期で、まだ妊娠検査薬で陽性が出ない時期も含まれます。そのため、妊活を始めたら、サプリメントを併用しつつ葉酸の摂取を始めましょう。

妊娠中期・後期も継続して摂取

妊娠初期を過ぎても、葉酸の摂取は継続しましょう。妊娠中期・後期には、妊活中や妊娠初期よりも必要な量は減りますが、葉酸は血液を作るのに必要な栄養素であり、妊娠中には必要不可欠です。とくに、妊娠32週ごろにはからだの中を巡る血液の量が妊娠前より1,000mlも多い状態となり、貧血になりやすい時期です。妊娠初期だけでなく、妊娠中を通して葉酸や鉄分を毎日摂ることが大切になります。

妊娠に欠かせない葉酸:その重要性と摂取方法とは?

葉酸の適切な摂取量と摂りすぎのリスク

妊活中や妊娠中、葉酸をどれぐらい摂ればいいのでしょうか?摂り過ぎた場合のリスクについても見てみましょう。

推奨摂取量

妊娠前の女性の場合、葉酸の推奨摂取量は食事から240μgです。妊活中や妊娠初期は、胎児の神経管閉鎖障害のリスクを減らすために、食事から240μg摂るのに加えて、サプリメントから400μg摂ることが推奨されています。

妊娠中期・後期には、食事から480μg摂ることが推奨されています。サプリメントによる摂取は必要なくなりますが、妊娠前の2倍の葉酸を食事で摂ることになるため、緑黄色野菜や果物を積極的に食べましょう。

摂りすぎの影響

食事による葉酸の摂りすぎでの健康被害は報告されていませんが、サプリメントの場合には葉酸の摂りすぎが起こることがあります。サプリメントで葉酸を摂りすぎると、神経症状や消化器症状、不眠などの健康被害が出る可能性があります。

そのため、サプリメントで葉酸を摂取する場合、 30代・40代は1,000μg/日、10代・20代では900μg/日を超えないように注意しましょう。

引用元)妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針~妊娠前から、健康なからだづくりを~解説要領
    日本人の食事摂取基準(2020 年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書
    国立健康・栄養研究所 食事:葉酸に過剰摂取の危険性は?

妊娠中に摂るべき他の栄養素

妊娠中は葉酸のほか、さまざまな栄養素が多く必要になります。どんな栄養素が必要になるのでしょうか?

たんぱく質

たんぱく質は、からだを作る重要な栄養素です。胎児のからだを作るのにも、たんぱく質は欠かせません。たんぱく質を多く含む食材は以下のとおりです。

  • ・肉類
    鶏ささみ、豚ロース、豚ヒレ、豚もも、若鶏のむね肉、牛ももなど
  • ・魚類
    かつお節、いわし丸干し、しらす干し、かつお、ごまさば、さけ、ぶりなど
  • ・卵
    鶏卵、うずら卵
  • ・大豆製品
    油揚げ、納豆、がんもどき、厚揚げ、豆腐、おから、豆乳など
  • ・乳製品
    プロセスチーズ(加熱殺菌されていないナチュラルチーズはNG)、牛乳、ヨーグルトなど

鉄分

鉄分は、胎児の成長とママの体調維持に欠かせません。鉄分は血液中で酸素を運搬する役目があり、不足すると胎児やママの細胞に酸素が届きにくくなります。また、妊娠中は血液の量が増えるため、鉄分が妊娠前よりも多く必要です。

鉄分を多く含む食材は以下のとおりです。

  • ・野菜
    小松菜、さつまいも、大根葉、ほうれん草、チンゲンサイ、切り干し大根など
  • ・肉類
    牛ヒレ、レバー(ただしビタミンAを多く含むので摂りすぎに注意)など
  • ・魚介類
    カキ、あさり水煮缶、ひじき、いわし、煮干しなど
  • ・豆類
    大豆、納豆、そらまめ、カシューナッツなど

鉄分はビタミンCによって吸収されやすくなります。緑黄色野菜や果物も一緒に食べましょう。

引用元)厚生労働省 貧血の予防には、まずは普段の食生活を見直そう

カルシウム

カルシウムは胎児のからだや骨を作るのに必要な栄養素です。ママのからだから胎児にカルシウムを送るため、妊娠前から十分なカルシウムを蓄えておきましょう。

カルシウムを多く含む食材は以下のとおりです。

  • ・乳製品
    牛乳、プロセスチーズ、ヨーグルトなど
  • ・大豆製品
    豆腐、厚揚げ、おから、油揚げ、きなこ、納豆など
  • ・魚介類
    干しエビ、いわし、まあじ、しらす干し、さばみそ煮缶、わかさぎ、ししゃも、ひじきなど
  • ・野菜
    小松菜、かぶ葉、切り干し大根、モロヘイヤ、大根など

カルシウムはビタミンDと一緒に摂ると、吸収が良くなります。ビタミンDは、きのこ類や魚介類、卵に多く含まれます。

妊娠に欠かせない葉酸:その重要性と摂取方法とは?

薬剤師から

葉酸は赤ちゃんの先天的な病気やママの貧血を防ぐ効果を持つ、大切な栄養素です。胎児の脳や脊髄は妊娠に気づく時期より前に作られるため、妊活中から葉酸を摂取しておくことが重要です。妊活中から葉酸を多く含む食事をとり、サプリメントを上手に使って葉酸を摂取しましょう。

葉酸のほかにも、妊活中や妊娠中に摂っておきたい栄養素があるため、栄養バランスのとれた食事になるよう、できるところから食生活を変えていきましょう。

この記事を書いた人

田村 由美

子授かりネットワーク 編集長