顕微授精について、不妊治療をする上でとても不安が大きいものです。胚培養士が現場からの解説をお届けします。
顕微授精に使う精子や卵子を選ぶ時、1人で選ぶのですか?
1人で選ぶ施設が多いと思います。
卵子の質は見てわかるものなのですか?
卵子の質も、見てわかるものなのでしょうか。どのような卵子が質が良いと思われますか?
どのようなものを「卵子の質」と呼ぶかによっても変わってくるかと思いますが、例えば顕微授精を行う前の卵子の時点でわかるポイントとしては、未成熟卵(卵子が精子を受け入れる準備が整っていない状態)でないこと、紡錘体(卵子の遺伝情報が入っている部分)が確認できることなどが一例としてあげられるかと思います。
ただし、未成熟卵や紡錘体が見えないものは採卵でとれた卵子のうち一定数含まれているため、1個でも含まれていると良くないのかというと決してそうではないと思いますし、例えばもう一度採卵する必要がある場合で未熟卵が多かった場合に、次回使用するお薬の種類や時期について医師からの提案材料になることもあるかと思います。
培養液は種類があるのでしょうか?
培養液はいくつか種類があるのでしょうか。また、培養液と胚との相性などはありますか。
どの培養液を使用しているかというのは不妊治療クリニックを選ぶ基準にはなるのでしょうか?
難しい質問だと思いますが、なかなか受精卵が育たない方にとって、検討事項の1つになる可能性はあると思います。
様々な観点から培養液を2種類使用しているクリニック、病院もあります。
個人の感想のような考えにはなりますが、代表的なものとしては「GLOBALグローバル」、「SAGEセージ」、「ナカメディカルONE-STEPワンステップ」、「COOKクック」などが一例だと思います。
培養液は基本的に栄養素が非公開となっていますが、これらは以前からあるもののため成分分析された論文があり、近い組成と感じたためです。
受精卵がなかなかうまく育たないときに、これらの培養液と成分的に少し離れたものを使用することは、検討してみても良いと思いますがそれが必ず結果に相関していると言い切れるわけではないかとも思います。
未成熟卵の成長はどのように待つのでしょうか?
未成熟卵の成長はどのように待つのでしょうか?
インキュベータと呼ばれる培養庫の中で培養されます。未成熟とは細かく言うと卵子の減数分裂が精子を受け入れる段階まで進んでいないことを言いますが、成熟すると極体と呼ばれるものが卵子のすぐ近くに出現するので、顕微鏡で一目でわかります。
成熟をいつまで待つかは医師の判断によって施設差が出るところだと思います。
採卵した卵子に未成熟卵があった場合、成長を待ってから受精させた場合の妊娠率は良くないのでしょうか?
未成熟卵はそのまま成長しないこともあります。成長して顕微授精を行った場合、データ上は受精率や発生率(成長の度合い)は低くなると考えられますが、出産に至った例もあります。
個人的な印象としては、患者様の負担(顕微授精や培養の費用)と得られる結果(受精卵)の面から、医師の判断が分かれるところだと思います。
未成熟卵が受精に至った場合、将来の赤ちゃんの障害や発達などの影響について教えてください。
未成熟卵が受精に至った場合、将来の赤ちゃんの障害や発達などに影響はあるのでしょうか?
今のところそのような報告はないと思います。
余った凍結胚はどうなりますか?
基本的には凍結保存したままか、希望がなければ廃棄の手続きを行って頂くことが多いと思います。凍結保存しておくと、例えば2人目をご希望される場合に移植からスタート出来るという利点があったりします。
凍結胚の安全管理はどのようになっているのですか?
凍結胚の安全管理はどのようになっているのですか?他の患者さんの検体と混ざらないようになどどのような工夫がされているのでしょうか?
一例としてですが、受精卵を凍結保存している器機に患者様の診察券番号や氏名など認識できる事項を記載するのはもちろんのこと、複数ある場合はどの受精卵かも認識できるようにした上で1つの部屋のような入れ物に保管され、その部屋1つ1つが患者様ごとに分けられていることにより間違い防止の措置が取られていることが多いと思います。
また、保管場所から出し入れをする際は1人で行わず、ダブルチェックにより間違いを防止します。
凍結保存用のタンク内に満たされている液体窒素を定期的に補充するなど、日々のチェックも欠かせません。
凍結胚の保管費用はどのくらいかかるのでしょうか?
凍結胚の保管費用はどのくらいかかるのでしょうか?また、最長どのくらい保管できるものでしょうか?
施設により差がありますが、一般的には1周期分で年間数万円程度、保存個数によって金額が異なる場合もあるかと思います。
医師と相談の上、ご妊娠可能な内は凍結保存の延長が可能だと思います。
また、-196℃の液体窒素内で保管されているため、受精卵が劣化するような心配はありません。
2022年4月から始まった保険適応の対象になる場合もありますが、こちらには現時点で期限を定める記載があります。
質問を終えて
今回は顕微授精の具体的な進め方や、クリニックではなかなか聞くことのできない管理方法まで伺うことができました。高い技術と安心の中で治療が行われていることがわかりました。小野寺さんありがとうございました。