-
プレスセミナー概要
■タイトル: 子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん」に関する最新プレスセミナー
■日 時: 2023年12月6日(水)15:30~16:30
■会 場: 厚生労働省会見室(東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎5号館9階)
■登壇者: 小林 陽一 (コバヤシ ヨウイチ)
公益社団法人日本婦人科腫瘍学会 ガイドライン委員会 副委員長
杏林大学医学部 産科婦人科学教室 教授
杏林大学医学部付属病院 産婦人科 診療科長/がんセンター 副センター長
専門分野: 婦人科がん、子宮内膜症、メラトニン、がんの浸潤転移
所属学会: 日本産科婦人科学会(指導医・理事)、東京産科婦人科学会(常務理事)、日本婦人科腫瘍学会(専門医・指導医・理事)、日本ヒト細胞学会(理事)、日本エンドメトリオーシス学会(理事)、日本臨床細胞学会(専門医・指導医・評議員)、日本産科婦人科内視鏡学会(評議員)ほか
-
プレスセミナーの内容
子宮頸がん
はじめに、子宮頸がんについて以下のようなお話をしていただきました。
・子宮頸がんは早期がんを含めると子宮がん全体の70〜80%を占め、近年その割合は減少傾向にはあるが、早期癌はむしろ少し増加している。
・子宮頸がんの危険因子としては、結婚した年齢が若い、妊娠出産回数が多い、初交年齢が若い、性交渉の相手が複数人いる、性行為感染症に感染した既往がある、喫煙している、などが挙げられる。
・浸潤子宮頸がんの90%以上はヒトパピローマウイルス(human papilloma virus:HPV)が原因とされる。
・子宮頸がんの患者の年齢分布をみると、30~40代で急に増加する。1975年には75歳くらいが一番多かったが、2015年には40代から50代が一番多くなり、20代も急激に増えてきている。昔と比べると20~30代の患者さんが非常に多いというのが現在の日本における特徴である。
・日本人における出産年齢は30年で5歳ほど上昇しており(1995年では25~29歳くらい、2022年になると30~34歳くらい)、ちょうどそういった時期に子宮頸がんになる患者さんが多く、妊娠出産機会を奪いかねない。
・2000年を境に、それまで減っていた子宮頸がんの患者数が増えてきている。それに伴い死亡率も少しずつ増えてきている。先進国における子宮頸がん検診受診率は、アメリカで83.3%、ドイツで80.4%、イギリスで76.9%、フランスで75.4%、韓国でも50%以上だが、日本人は42.1%しか受けておらず、検診受診率が低いということが罹患率上昇の一因と考えられる。
・子宮頸がんの発生率をG20の国々でみると、南アフリカ、インドネシアで非常に多いが、5番目が日本である。ロシア、ブラジル、メキシコ、中国よりも多い。
・日本では医療が発展しているので死亡率は低いが、患者数が多いということが問題。患者数が多い原因として、HPVワクチンの接種率が非常に低いことが挙げられる。メキシコでは接種率95%と非常に高く、カナダ、イギリスでも非常に高いが、日本は0.3%である。ようやく今年、HPVワクチンの積極的な勧奨が再開となったが、諸外国に比べるとまだまだ低い。キャッチアップ(積極的勧奨の差し控えにより接種機会を逃した方を対象に実施する予防接種のこと)をしていかなければならない。なお、現在は9価ワクチンが公費でも接種可能である。
・WHOでも90%の女性が15歳までにHPVワクチンを接種する、70%の女性が35歳と45歳の時に子宮頸がん検診を受ける、90%の子宮頸部病変を指摘された女性が適切な治療とケアを受ける、といったことを目標に掲げ、2030年までに子宮頸がんの死亡率を30%減らすことを目指している。この三本柱で、2110年くらいにはほぼ根絶できるがんだとしている。
子宮体がん
次に、子宮体がんについて以下のようなお話をしていただきました。
・欧米では子宮頸がんよりも子宮体がんの患者が多いが日本でも増加傾向にある。これは食生活の欧米化が原因ではないかといわれている。
・子宮体がんの危険因子としては、出産したことがない、妊娠をしたことがない、結婚していない、不妊症や排卵障害がある、肥満、糖尿病、高血圧、などが挙げられる。ほとんどの患者は性器出血等で自覚をして、病院を受診する。
・子宮体がんは50~60代の閉経前後の方が多く発症する。年次別の罹患率と死亡率をみると、右肩上がりに増えている状況である。
・日本産科婦人科学会の子宮体がんの治療成績をみると、5年生存率(2014年登録のがん患者が対象)はⅠ期で約95%、Ⅱ期でも87%、Ⅲ期でも70%で、子宮頸がん、卵巣がんに比べると非常に予後が良い。しかも子宮体がんは早期で発見されるケースが非常に多く、体がんは手術をすれば治りやすいとされる。
・子宮体がんの患者さんがどういったことが原因で亡くなるかというと、がんそのもので亡くなる方も多いが、早期の方は心血管疾患、つまり心筋梗塞や狭心症で亡くなる方が多い。これは子宮体がんの患者さんはメタボリックシンドロームなどの生活習慣病リスクを抱えている場合が多いためといえる。2023年7月に改訂された医師向けの「子宮体がん治療ガイドライン」では、生活習慣病のリスクを評価して、生活習慣の改善を指導することを提案している。
卵巣がん
最後に、卵巣がんについて以下のようなお話しをしていただきました。
・卵巣がんには卵巣そのものからできる原発性のものと転移性のものがある。年齢によってできやすい組織型が異なり、なかでも胚細胞性腫瘍は10~20代の若年の方が多い。また、卵巣がんには悪性と境界悪性がある。
・子宮体がんと同様に、生活様式の欧米化、未婚未妊、不妊治療歴などが卵巣がんの危険因子になる。
・卵巣はお腹の奥にある臓器で、しかも子宮がんのように出血があるわけではないため、自覚症状に乏しく、早期発見が困難である。また、卵巣がんには有効な検診法はない。
・日本では、チョコレート囊胞といわれる子宮内膜症性囊胞が悪性のがんになるケースが欧米に比べて非常に多いことが問題になっている。
・卵巣がんの患者さんの年齢分布は50~60代が多く、患者さんも年々増えてきている。
・卵巣がんの患者さんは発見された時に進行がんになってしまっている人が多い。卵巣がんのスクリーニングは有効ではなく、定期的に検診を行った方とそうでない方を比較しても、発生数や死亡者数、発見された時のステージには差がない。残念ながら、卵巣がんは検診が早期発見や予後に寄与しないということがわかっている。
・卵巣がんは、非常に早い時期にあちこちに飛び火してしまう。種を蒔くように広がることから「腹膜播種」という転移の形態をとる。見つかった時に既に腹膜播種の状態である人が半数いて、この腹膜播種が、卵巣がんを治すことを非常に困難にしている。上皮性卵巣癌の生存率はⅢ期、Ⅳ期で見つかると40%を下回り、非常に予後が悪い。
・遺伝性乳がん卵巣がん症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome:HBOC)は、家系内で乳がん・卵巣がんが多発する遺伝性疾患である。BRCA1、BRCA2と言われる遺伝子の変異が原因だとわかっている。
・HBOCの患者さんの特徴としては、40歳未満の若年者、あるいは家系内に乳がんや卵巣がん患者がいる、左右両方の乳がん・卵巣がんを発症する、などである。
・遺伝子変異があると、1/2の確率でお子さんに変異が受け継がれてしまうが、遺伝子変異があったらみんながんになってしまうわけではない。がんの浸透率というものがあり、実際にがんを発症する人としない人がいる。このように、必ずしもがんになるわけではないが、全体的にみると乳がん、卵巣がんの発症リスクが高い。
・遺伝子変異がわかるのは悪いことばかりではなく、自分のがんに効果のある薬が見つかる可能性もある。HBOCの人に対してはPARP阻害薬があり、リンチ症候群という子宮体がんや大腸癌を高率で発症する家族性腫瘍に対しては免疫チェックポイント阻害薬がある。こうした薬を使うことで、今までよりも効果の高い治療ができるようになった。
-
患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン最新版(第3版)
日本婦人科腫瘍学会による編集のもと、婦人科がんに携わる85名の医師が執筆しており、病院で「子宮頸がん」、「子宮体がん」、「卵巣がん」と告げられた患者さんとそのご家族や、治ったと思っていた「がん」が再発したと告げられた患者さんとそのご家族の不安な気持ちを解消するため、現時点での最適な治療(標準治療)がどのようなものかを正しく記した書籍。